第9章 決!別!【激怒の理由と、宣戦布告】
毎日夕方18時に更新してます。全19話中の9話、前半折り返しです。
宮崎先輩と須川先輩の半年越しの真剣勝負はついに決着の時を迎えるーーーしかし、ヒロの空間認識能力はある「異変」を捉えてしまう。
このまま一周戻ってくれば、宮崎先輩の勝ち!?
私は息が詰まりそうになりながら二人の走りジッとを見ていた。
いつの間にか、周囲の雑音も何も聞こえていなかった、ような気がする。後になって思えばだけれども。
二人の今までの走行ラインが、クッキリ、見えた気がした。
空間認識能力が優れている ―――
去年まで、視えていた私だけの視界…
その蒼い線と、白い線の2本のラインの上をピッタリ2台が走っているのが視えた。
この2本の線に沿って、二台が走ってゴールして終わり…
その時、
――― 異変に気付いてしまった。
第一コーナーを今日一番のタイミング、スピードで通過していった宮崎先輩M07。
それが却って速すぎたのかどうかは私にはわからない。
あっ ズレた ―――
白い線から外側に少しずつズレていくM07。
「……ダメ…」
私の声は声にならない程、か細く。
線に戻そうとM07が今までよりタイヤの悲鳴を上げながら曲がっていく。
スピードは落ちない。
でも、少しずつ線から離れていく…タイミングがズレていく…
あともう少しなのに!!!
「…そっちは…ダメ!―――」
私は思わずギュッと両手を胸の前で握って祈っていた。しかし、
ガッッッっ!
片輪がパイロンに乗り、一瞬車体か浮くM07!!!
転がらずに着地したものの減速は否めない。残すところ最終コーナーだけなのに!!!
急いで再加速して最終コーナーを回っていくM07!
そこに迫り来る、蒼いラインにのって加速していく須川先輩M06!
モーターが悲しいぐらいに唸りを上げる宮崎先輩のM07。
でも、その時の私の眼には一周前の須川先輩M06の走りが、まるでリプレイ映像を見るかのように視えていた ―――
蒼いM06はこのままストレートをまっすぐ加速して、ゴール手前にはM07を追い抜く……
そう感じた瞬間、
――― 異変に気付いてしまった。
???えっっ ズレた!?
蒼いM06が遅れだした?
まさか?そんな……
私の脳裏に視えていたM06の走りより、ジリジリと遅れていく須川先輩M06…
どうして……先輩、それでは……
「それは…ダメです……っ!」
震えてしまい、声にならない叫び。
隣で、イケ~ーっと叫んでいる仁科先輩の声が遥か遠くに聞こえる。
私は夢を見ているのだろうか。
何かから逃げよう走ろうと思っても脚が全然動かない悪夢のような。
そのままゴールの時には視えていたM06のズレは後ろに2mほど。
そして……
宮崎先輩のM07は、1mの差で逃げ切ってゴールした形になったのだった。
―――――
「イヤーくそー惜しかったな~~~イケると思ったんだけどな~」
須川先輩は楽しそうに悔しがっている。いつものように。
「今回は勝てはしたけど、わたしもあそこでミスするのがまだ弱いな~一瞬死んだかと思ったよ…」
宮崎先輩も興奮さめやらず、といった感じで笑っている。色白の顔がほんのり紅潮している。
並んで2人がこちらに歩いてくる。
「でもイイ勝負だったね~凄かったね」
隣で仁科先輩が私に話しかける。
しかし私の表情はおそらく、場にそぐわないように固まっていたのであろう。
「関谷…ちゃん…?」
なにか気付いたのか怪訝な顔をする仁科先輩。
「さて、また皆でこのままチキチキしよっか♪ このレイアウトなかなか楽しいよ~それにヒロちゃんはいよいよ新車の、」
いつものようにニコニコしている須川先輩。
「……せん…ぱい…どうして…?」
聞いてはいけない――― 頭の奥で理性が囁いている。
「ん?どーしたのヒロちゃん?」
首をかしげて私を覗き込む先輩。本当にいつも通りだ。それなのに、私は―――
「先輩…どう…して、どうして最後のストレートで、スロットル緩めたんですかっ!!!?どうして!???」
聞いてしまった。聞かずにはいられなかった。
時が止まったかのような静寂は何秒ほどだったのだろうか。
須川先輩の顔からいつもの笑顔はなくなり、固まってしまっていた。
宮崎先輩の眼がそれを睨んでいる。
先に動いたのは仁科先輩。
(ちょっと!)と肘で須川先輩を小突いた。顔に緊張感が漂っている。
「…!えっ…アレ?そんな…こと…ないよ?……あっっっ、アレは、…そうだ!バッテリーが弱ってきてたのかな?たぶん、それで……」
嘘が下手な人だなんて分かってた筈なのに、何故聞いてしまったのだろう?私は。
―――――
「どういうことっっっ!!!」
詰め寄る宮崎先輩。
半分固まったままの須川先輩は宮崎先輩の方を見れない。
「ちょっと!!!!!!どうして、あなたまで、そんな ――― 手を抜いたって言うの?どうしてなのよ!!!」
須川先輩の襟元を両手で掴む!
「どうして…あなたなら……わたしは、この半年……本当に………」
宮崎先輩は両手で襟元を握りしめたまま、うつむいてしまった。最後は声にならない、うめくようなすすり声だけが聞こえた。
アワアワしている須川先輩。
仁科先輩はあちゃーとした顔をして頭を押さえている。
さっきまで皆で笑っていたのに。
私は―――何故聞いてしまったんだろう。
何故、視えてしまったんだろう……
気付くと、雨がポツポツと降り始めていた。空気がベッタリと、重い、梅雨が始まるのだろうか。
「――― とりあえず、濡れちゃうし、みんな部室に戻りましょ…ほら、宮崎さんも…」
仁科先輩は俯いている宮崎先輩を引っ張っていった。
「須川先輩、私達も行きましょう。」
「…うん、…」
須川先輩は、自分のM06を胸に抱き抱えていた。
私は急いで宮崎先輩のM07を拾い上げて、部室に戻っていった。
「はい、宮崎先輩。この子、持ってきました。」
「…うん、そこに、置いといて…」
宮崎先輩は椅子にうなだれ座り、顔は俯いたままだ。
須川先輩は所在無げにM06を抱きかかえたまま立っている。まるで廊下に立たされた子供のように。
「スーちん、ちゃんと宮崎さんに謝って。」
仁科先輩が促す。
「……うん、あの…ゴメンね?別に、手を抜いた!ってわけじゃなくて…」
ぽつぽつと話し始める須川先輩。
「ラストラップ前のストレートでで抜けなかったところで、あ~負けちゃった……って思ったし、…あとは、まあ、いいかな?って……」
「でも宮崎さん、凄く上手くなったし、最後までホントに追いつけなかったし、わたし、それが嬉しくて……楽しくて―――」
「楽しくて、…それで、勝ちを譲ったってこと?」
宮崎先輩がうつむいたまボソッと聞き返す。
「そんなの……そんなの!全然うれしくないよ……」
「うん……本当にゴメンね…」
須川先輩は頭を下げながら答えた。
沈黙が流れる。それを破ったのは…
「――― 先輩、それでも須川先輩はやっぱり、ズルいです。」
私の中にも、憤るものがあった。
「先輩は、あんなに上手に、速く、キレイに走れるのに……それなのに、速く走れるのに走らないなんて、それはとってもズルいです!」
(走りたくても走れない人だっているのに―――)
想いが止まらない。
「みんなで楽しく、チキチキして走るのが楽しい。それは私だってよく分かります。私もスゴク好きです。でも!」
俯いていた宮崎先輩がこちらを見上げていた。その目が赤い。
「でも、真剣に走りたいときは、真剣にやらなきゃダメなんです!宮崎先輩があんなに頑張ってたの、先輩だってずっと見てたじゃないですか!?」
真剣な眼で練習していた宮崎先輩の横顔が脳裏に浮かぶ。
「本気で向かってきている人に、本気で返さないのは……それは相手の想いを否定してるのとおんなじなんです!」
(本気を出したくても出せない人だっているのに―――)
「…約束だってしてたんでしょう?勝負するって。それなのに……最後の最後にあんなことするなんて、先輩は……卑怯です!ズルいです!!!」
私が何に憤っていたのか、自分でもよくわからない。それでも、想いを伝えたかった。大好きな皆に。須川先輩に。
「――― 私は、宮崎先輩側に付きます。」
宮崎先輩の肩にそっと手を置いた。えっ?という顔でこちらを見上げている先輩。
「宮崎先輩、私と、二人で、あの卑怯な須川先輩をコテンパンにしちゃいましょう!!!
須川先輩!次は、私たち、ふたりと真剣勝負を申し込みますっ!!!!!!!」
暴走してるような気もしていたが、私は想いの丈を全部ぶつけることにした。
「えっっと、梅雨でしばらく雨っぽいし…いつにするのそれは?」
ようやく仁科先輩が口をはさんでくれた。私はまだ興奮が続いている。
「流石に私も特訓したいですし……二週間後ぐらいを目安にしましょうか?」
何も考えてなかった。とりあえず期間を区切ってみた。
「宮崎先輩も、それでよいですね?」
「……しょうがないなあ…かわいい後輩の頼みだし。今度こそ、本気でぶっちぎってやりましょうか!」
宮崎先輩の顔に生気が戻っていた。
「じゃあ、先輩、早速行きましょうか?こんな敵ふたりの巣窟になんてこのまま居られませんからね♪」
そう言って私は宮崎先輩の手を引っ張り上げた。思ったより、軽くて熱い、手のぬくもりを感じた。
「じゃあ、先輩方、…ええと、なんだっけ?首を洗って待っててやがれ!ですね♪ 二週間後にまた会いましょう!!!」
私は荷物を鞄に詰め込みながら宣戦布告。
宮崎先輩も慌てて荷物をまとめだした。
――――――
「それでは、しばらく私たちはココには来ませんので。本気を出さなかったことを後悔しやがれですね!」
一時の別れのセリフを述べて、私は部室のドアを閉めた。
うん、とりあえずは、これでよいだろう。
「じゃあ先輩、行きましょうか?」
「行くってどこへ?」
「宮崎先輩はずっと、どこかで特訓してたんでしょう?そこへ私を連れて行ってください!私もそこで特訓します!パワーアップです!まだまだ私の腕じゃどうにもなりませんからね!」
まだ何かノリがおかしい。
「…わかった。じゃあ早速、明日ぐらいから行く準備をしましょうか…」
宮崎先輩もだいぶ元気が戻ってきたようだ。よかった。
「……それにしても関谷さん、関谷さんも、本当にゴメンね…」
「何がですか?」
「関谷さんだって、今日せっかくの新車のシェイクダウンだったのに…楽しみにしてたのに…走らせられなくなっちゃって、ゴメンね。」
そういえば、すっかり忘れていた。はたして、2週間で新車に慣れられるのだろうか?
――――――
その頃、部室に取り残されたふたりは。
「…いっちゃったね。ぷぷっ、関谷ちゃんってあんな子だったんだ。凄かったね」
「……ねえ、ふーさん…」
「どうしたの、スーちん?」
「わたし、また、また間違えたのかなあ……また、間違えちゃったのかなあ…?」
「――― 大丈夫。スーちん、わたしはずっと、そばにいるよ?」
「そして、あのふたりも、わたしたちが思ってたよりもスゴク、強いよ。あのふたりなら、大丈夫。」
「…そうかなあ……」
「うん、きっと、大丈夫!」
第9章をお読みいただきありがとうございました。
一応中盤の山場を越え、物語はここから「2週間後のリベンジマッチ」に向けた新章へと突入します。ヒロと宮崎先輩の【サーキット特訓編】です!
もし面白いと思っていただけましたら、ブックマークや下部の【☆】評価で応援していただけると励みになります。全くのはじめて投稿&ニッチ杉ジャンルとはいえ全く反応がなくて悲しみ(泣笑)




