第8章 とある真っ直ぐな少女の話【もう一つの挫折と、秘密の特訓】
毎日夕方18時に更新してます。全19話中の8話です。
前回、ファイナルラップ直前でしたが、ココで過去回想編を挟みます。そういう流れが作者が好きだからです(笑)
なおこの物語は【令和2年】の設定になっております〜
――― 沙也加ちゃん凄いね~天才だね~
そう言われるのが、わたしは物心ついた頃から凄く嫌いだった。
わたしはたぶん、小さい頃から真面目だったんだろう。何でもやるからには、真剣にやりたかったし、そうしてきた、つもりだ。
今考えると、要領も良かったのだろう。
何でもある程度は最初からできた。だからこそ真面目に打ち込めたのかもしれない。
でも、勉強もテニスもすぐ、上には上がいることを思い知らされる。
だからこそ余計に真剣に取り組んでいたのに。
――― 沙也加ちゃん、天才だね~(ズルいね~)
宿題すら時々やってこない、なにも努力してないアナタが、ふざけるな!と言いたいのを胸に納めた。
ボールに届かない!だから飛び込む!膝が多少擦りむくなんてどうってこと無い。
でも、
――― 宮崎さん、凄いね~(ソコまでやる?クスクス)
何故真剣にやってるだけでそんなことを言われないといけないのか?
アナタは何故出来ないのに真剣にやらないの?
それも口には出さなかった。
何故真面目に生きてるだけで、不真面目にしか生きていない人に馬鹿にされないといけないのか?
膝の痛みより胸の奥の方が痛む ―――
そしてわたしも凡人でしかない…
なにかがぷつんと途切れたかのように、どうでもいいかと思った。
高校入試さえ、希望していたところには通らず、引っ掛かったところに入った。
所詮そんなものなんだ、わたしも。
高校生になればなにか変わるかも?と、
勧められてまたテニスやソフトボールなんかもしてみたけども、
――― また、あの眼だ。
なにも変わらない。周りの人も。
そしてわたしも。
そうしてただただ惰性で、そして失意のなか過ごしていた時、あの二人に会ったのだ―――
最初は、男の子の遊びなんて、珍しい…
としか思わなかったけど、すぐに気付いた。
あの走りは、一朝一夕に出来るものなんかじゃない!長年積み重ねた、そして真面目な努力によるものだと!
スゴい!
そしてなんて、本当に楽しそうにしているんだろう……
わたしもあの中に入りたい…!
――――――
ただただ、楽しかった。
あの人は、「上手上手~」と褒めてくれた。もちろんお世辞なのはわかっているけど、あの嫌な視線なんて全く感じさせない人たちだった。
そりゃそうだ。あの二人の方が長年かけてやっているのだ。わたしも少しでも追いつきたい!と練習し、一度、レース勝負の真似事もしてもらった。
もちろんコテンパンに負けたけど、楽しかった。嬉しかった。
胸の奥に、燃えるものが広がった。
ここでなら、わたしはまた、思い切って真剣にやっていいのだ!
しかしここでチキチキ遊びをするのはとっても楽しいけれど、それだけではいつまでたっても追いつけやしない。
そう思ったわたしは、秘密の特訓を開始するのだった!
――― 数か月前。
わたしはネットで下調べした場所に来ていた。
新しい住宅街と田んぼが広がっているような少し郊外の地。
ソコにそびえ立つ、…工場?だよねこれ?
本当にコレがそうなのか?
裏に小道を回っていくと、見覚えのある赤と青のロゴマークの旗が見えた。店内入り口、という表示にホッとするわたし。
意を決してお店の入り口をくぐると…
カランカランっ
ドアの鈴が鳴る。
ドアから数メートルの中にいたお客さんと思われる男性がチラッとこちらを見て、そして、えっ!という顔で二度見された。
やはりというか、予想通りだけど、20畳程の店内にいた3人ほどのお客さんは、全員、男性だけだった…
…うぅ、圧倒的なアウェー感。
確か、お店のカウンターで利用申込をしなきゃ…
ガラスのショーケースの向こうに店員らしき人が1人、座っていた。
…うぅ、50代ぐらいの強面の男性だ…少し怖くなって一瞬引き返してしまおうか?ともよぎったが。
しかし、ここまで来たのだ!女は度胸だ!
大きく息を吸い込んで、一歩踏み出した ―――
「…いらっしゃい」
低い声だ。負けるもんか!
「あの!…わたし――」
息がつまりかける。口が乾く。
「――― わたし、ラジコンが上手くなりたいんです!!!」
思わぬ大声になってしまった。びっくりした店内の全員がこちらを見ていた。
…うぅ、なにか圧倒的に失敗した気分。
「ええっと、ラジコンって言っても色々あるんですけど…どんな種類のラジコンか分かりますか?」
困惑した顔で店員さんに尋ねられた。
「は、はい。あの、えむしゃーしってやつなんですけど…」
そうわたしが答えると、途端に店員さんの顔がホッとした顔に弛んだ。
「あ、ちゃんと持ってきてます。ココで走らせられるってネットで見て…」
そう言ってわたしはカバンを前に出した。店員さんは完全に一安心した顔をしていた。分かりやすい。
「それなら大丈夫です。じゃあ初めての人はココに名前と連絡先を書いてもらうから…」
―――――
「わあぁっ!!!凄い!広くてキレイですね!」
わたしは思わずうなった。
店員さん、というより店長さんだったのだけど、初めてのわたしにサーキット内を案内してくれていた。
工場にしか見えなかった建物の中には、鮮やかで奇麗な青いカーペット敷きで30×20メートルはありそうなとても広いコースが設置されていた。
そのコース上には、数台、練習をしているラジコンが見たことのないようなスピードで走り回っている。
「これがウチの本コース…なんだけど、宮崎さんは走らせるのはサブコースの方で良いんだね?」
その青いコースのとなりに、⅓ぐらいの大きさの、アスファルトのコースを指して店長さんがもう一度確認してきた。
「ハイ!わたしはアスファルトのところがいいんです!」
決戦の場は、アスファルトなのだから当然そうだ。
ココで特訓して、少しでもあの人に追い付いてやる!!!
――― それから、店長さんに指導してもらいながらの、特訓の日々が始まった。
それはわたしにとって、とても幸せで素晴らしい日々だった。
店長さんはもちろん、常連の人たちもわたしにスゴく優しかった。
始めは自分がココでは珍しい女だからかな?と思ったけども。
わたしが真面目に上達したい!とココに通っていることが分かるにつれ、一層優しく色々教えてくれた。
そして何より大きいのが、わたしが真剣に取り組んでいることを、からかう人なんて誰もいないのだ!!!
だって、ほかの皆、店長さんも常連さんたちも、わたし以上に真面目にラジコンに取り組んでいるんだもの!
それがその時のわたしにとって、とても心地よい居場所であることに一番重要なことだったのだろうと思う。
―――――
通い始めて数か月後。
自分でも、随分上達したのでは?と実感できる。
店長さんに並走追走してもらいながらでも、かなりミスせずに走り続けられるようになってきた。
「これぐらい走れたら、技術的には問題ないよ。あとはレースを数こなして経験値を上げること、そしてメンタルを鍛えることが大事になってくるね!」
店長さんにもお墨付き?をもらえた。とっても嬉しい。
「メンタルの強さが、勝負を分けるんですね…」
追走しながら聞き返すわたし。
「そう。ラジコンは大人も子供も関係なく、自分との闘い、メンタルの勝負だからね。」
最初は強面でちょっと怖いと思った店長さんだけど、最近は世間話のようなことをするぐらい仲良くなった。
こんな、お父さんよりも年上に見える人と仲良くなれる、というのも凄いことだな!と思った。
「…前に、勝ちたい人がいるから上手くなりたいって言ってたけど、どんな人なんだい?」
ふいに店長さんから、一緒に走らせながら質問された。
「も、もしかして、気になっている男性とかのことなのかい?」
本当に父親みたいなことを言い出した。思わず少し吹き出してしまうわたし。
「いえ、違いますよ。 同じ学年の、女の子ですよ。スッゴク上手いんです!」
笑いながら返事した。
「そ、そうなんだ… 」少しホッとしたような声の店長さん。
「女子高でラジコンが流行ってるの?ウチでは見たこと無いけど」
「流行ってはないと思いますよ~わたしたちが変わってるだけだと思います」
自嘲気味に少しだけ肩をすくめて見せた。
「やっぱり…女の子でラジコンって珍しいですか?」
「夫婦で、とか親子でなら時々いるけどね。…そういえばついこの間のことだけど、小学生の女の子で凄く速い子がいたなあ~いきなりウチで初めてレースにエントリーしたと思ったら、大人に混じって一歩もひかずになんとAメイン入り!あの子は凄かったなあ…」
少しびっくり。
「小学生で、そんなに速いんですか!?」
「ラジコンは小学生でも上手い子は大人に全然負けないからね!やっぱり上達も早いし」
「大きい大人に混じって、青いリボンで髪の毛を上にギュッと縛って操縦台に立ってた…その姿がなんとも凛々しくて可愛くてかっこ良かったから凄く印象に残ってるんだ!」
店長さんがそんなに言うぐらいの女の子に、会ってみたいなと私は思った。
「でも中学に上がる頃には辞めちゃったのかな…レースにはすぐ出なくなって見かけなくなっちゃった。小学生の時凄く速くても、ちょうどそれくらいで辞めちゃう子も多いんだよね…最近はラジコン以外にも楽しいこといくらでもあるからかなあ…もったいたいなあといつも思うんだよね…」
店長さんの嘆きを聞きながら、そういうものなのか、とわたしは思った。こんなに楽しいのにな?と。
―――――
「さて、大体ここで教えられることは一通り済んだかな。これから、あの新車(M07)をおろすんだろう?」
「ハイ。出来ることは何でもしておこうって思って。」
「組んだのをちょっと確認させてもらったけど、しっかり組めてたよ。あれなら大丈夫。今の05とほとんど同じ感覚で走れると思うし、そしてタイムも必ず速く走れるよアレなら。…あとは、ここのアスファルトは、同じアスファルトって言ってもグリップが良いから、勝負するところのアスファルトに慣れた方が良いね。そこで仕上げのセッティング、練習したらばっちりだね。」
「わかりました。……本当に、ありがとうございました店長さん!」
お礼を言わずにはいられない。
「また…報告しに遊びにきますね!しばらくの間でしたけどお世話になりました。」
「いつでも遊びにおいで!」
さあ、これからが仕上げだ!とわたしは意気揚々とサーキットを後にしたのだった。
――――――
――――――
「やれやれ、若い人はなんでもあっという間だなあ…あの子がはじめてウチに来たのも、ついこの間のことだったのに…」
残された店長はしみじみと考えていた。
「つい、この間、か…」
「そういえば、あの小学生の子がいたのっていつだっけ?ついこの間かと思ったけど… 令和になったのが1年前だから、2…3…4…5……」
――――――
――――――
そして勝負の日。
実は、それでも全然付いていけない、置いて行かれるのではないかと心配していたけど、
後追いの一戦目10周で、確信を得ることができた。
もちろん差は広がったものの、そこまでの差はついていない。
――― これなら、イケるかも!?
そして運命の2戦目先行スタート。
第一コーナーで前を抑えられなければ終わったも同然だ…集中っ!!!
――― よしっっっ!!!
イケた!前を取った!
そして今日のわたしは…スゴく乗れている!!!
思いどおりに車が動く。車の挙動も良く見える!
M07も素直にわたしの想いについてきてくれる!
コース一周を一本の線が繋がっているかのように、ラインをキレイに通せている!!!
蒼い車が斜め後ろからこっちの様子を伺っているがこのままなら大丈夫なはずだ!
っと、一瞬気がそれてパイロンをかすってドキッとしたが問題ない。このまま集中だっ ―――
8周目
――― やはり、ココで動いてきたか…
ホームストレート!蒼い車はスピードを乗せられるラインに変えてアウトから近付いてくる…!
しかし、この短いストレートで抜かれはしない!問題はこのプレッシャーに負けて第一コーナーを失敗しないこと…!
――― よし!通せた!
集中出来ている!イケる!自分を信じろ!
9周目
また来た!
さっきよりも速い…すぐ後ろだ!
(ラジコンは、メンタルの勝負だ…)
店長さんの声が脳裏に響く。
サーキットで皆、優しく教えてくれた。
負けない…負けられない!
――― そこっっっ!!!
今までで一番のタイミングで、まさにパイロンをピッタリ掠めて!
最後に最高のコーナーリングができた…
… 勝てる!?このままなら―――
そして運命のラストラップ
第8章をお読みいただきありがとうございました。
宮崎先輩の生き様、そしてサーキット店長が語った「天才小学生」の影。全てがつながり、物語は再びラストラップへと収束します。
明日の夕方18時更新の第9章、この真剣勝負の結末は!?そして、それを見つめていたヒロの行動とは?
前半戦最大のクライマックスを、ぜひ見届けてください。




