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第6章 それぞれの、想い【突き付けられた真剣勝負の約束】

毎日夕方18時更新!全19話中の6話です!

今回から【熱血青春群像劇編】が本格始動します。ヒロのはじめてのマシンが完成を迎える中、練習を重ねていた宮崎先輩が突きつける『約束の真剣勝負』。少しずつ明かされていく彼女たちの本音と過去を、どうぞ見届けてください!

仁科先輩のおうちに積んであったというM06R(作らずにおいておくことを『積む』と呼ぶのだと仁科先輩に教わった。こういうものがおうちにたくさんあるのだろうか・・・?)とその他一式の荷物がやってきた。


部室で皆が見つめる中、黒く高級感のあるハコを私はちょっとドキドキしながらぱかっと開けた。


・・・!本当の本当に、バラバラだ!


ラジコンの元となる部品が部品のまま箱の中におさめられていた。たくさんの金属の部品が袋に入っており、そして黒いプラスチックの部品は、何種類かずつ繋がった状態で袋に入っている。


「コレって、最初にまとめて切り離しちゃった方がいいんですか?」


「そんなことしたらどれがどれかわからなくなっちゃうよ?マニュアル見て順番通りいこっか。」

仁科先輩が分からないところがあれば言ってね!とそばに控えてくれている。実に心強い。


1日目はギヤボックスという、モーターとタイヤをつなぐ歯車が入った、車の後部周りのところを作成した。

それにしても、ドライバーでネジを締めるって結構指が疲れるんだな…これもはじめての経験だ!


2日目。

続きを作ろうと部室につくと、宮崎先輩がひとり、窓の外を眺めていた ―――


「宮崎先輩こんにちは。・・・外、なにか見えるんですか?」

「ううん、ちょっと、どんより雲だなあって。そろそろ梅雨入りだもんね~」

「雨だと、やっぱり走らせられないですよねラジコンって」

「電気製品みたいなもんだからね。壊れちゃうよ!」

と笑う宮崎先輩。


そのあと、その日はタイヤと車体をつなぐ、サスアームやダンパーという部分を作成。

「ここの長さはしっかり測ったほうが良いよ!」

と仁科先輩がノギスという定規で組み上げた部品の長さを測ってくれる。


「そうそう、それ大事~~!」

と後ろでぱりぱりとポテチを食べる須川先輩。


椅子を後ろに傾けながら机の上に両脚をもちあげた格好で ―――

重力でまくれ上がったスカートの裾から覗く真っ白い素肌が、その椅子の不安定さ以上に実に危なっかしい。ど、ど、同性とはいえあまり見つめないようにしないと…


「ん?なにヒロちゃん?…あっ、ポテチ欲しい?」

違う。そうじゃない。

全く鋭いんだか鈍いんだか…


気を紛らわせるため視線をそらして窓の外をみると宮崎先輩は一方で ―――

ひとり走らせて練習しながら、いつもなにかをノートに書き込んでいる。


「あれって何をしてるんですか?」

前から不思議に思っていたことを仁科先輩に聞いてみた。


「ああ…あれは、例えばここのロッドの長さを1㎜変えたら車がこう曲がるようになったとか、ダンパーの硬さをこれぐらい変えたら車の動きがこう変わったって、分からなくならないように書き留めてるんだよ。そういうセッティングデータを自分で作って調整してるんだと思うよ…」


昔サッカーのチーフコーチが、選手の能力を数値化してノートにまとめて戦術に生かしていたのを思い出した。


「えっ…なんだか凄いですね!みんなそんなこと出来るんですか?」

「わたしは、まあだいたいは。ノートまでは取ってないけど」

「わたし?ふーさん任せだよ!!!」椅子をくるくる回しながら返事する須川先輩。


うん、まあそうなんだろうなと納得しかなかった…


3日目。

須川先輩は、なにか職員室に呼び出されたらしい。

今日の作成工程は、電波を受信する機械やステアリングを動かすサーボといった、電子機器の部品を取り付ける。


「あ~ここもちょっと慣れてないとわかりにくいんだよね~」と仁科先輩がプロポの電源を入れて何か調整をしてくれている。


手が空いたその間、ふと窓の外を見ると、今日も宮崎先輩が走らせていた。


「今日は宮崎先輩、ずっと走らせてますね~走り込みってかんじですね!」

ずっと一定のリズムで、心地よくモーターとタイヤの音が聞こえてくる。


ちらっと外を一瞥した仁科先輩は ―――


「そうね・・・そろそろ、なのかな・・・」

「え?今何か言いました先輩?」

モーター音に気を取られて後半は聞き取りそびれた。


「ううん?なんでもないよ。じゃあちょっとそっちの電源を入れてみて ――――――」


――――――

――――――


夕方五時に更新された、スマホの天気予報を確認。明後日以降は雨マークが続く。


「明日なら…ぎりぎり降らなそう、か。なんとか、準備も間に合ったかな」

片付けながらそう小さくひとりごちた宮崎さんのつぶやきをドア越しに聞いてしまったわたしは…


「あ、宮崎さん、そろそろカギ閉めるからね!もう片付いた?」

ドアをガラッと開けて、聞こえないふりをしてしまった。


「うん、仁科さん、今出るところだよ。」


――――――

――――――


次の日の朝。

おそらくはじめての私の車は今日の放課後に出来上がる。


――― 最後に、走らせよう…


朝の日課自主練の1パック8の字練習。

次の車とは動きが全然違うので練習にはならないとは思うのだけれども、

やっておきたいと思った。

梅雨近くになりどんより曇り空だが、予報では全然大丈夫なはずだ…


いつもの分棟の裏に向かって歩いていると、聞き慣れたモーター音が風に乗って聞こえてきた。


「久しぶりに、須川先輩来たのかな?」


少し小走りになる私。

分棟の角を曲がって ―――


…小気味のよい音を鳴らして走っている車は…


―――!


白・ピンク・青の三色が炎のような波をうっているデザインの車、

(フレアパターンと呼ぶらしい)

アレは宮崎先輩の車の、勝負ボディなんだ!と言っていた。そしていつもの練習のときは傷つかないようにとこれとは違う白いボディを使っていたので、このボディで走っているのは初めて見る。


そしてこの時間に一緒になるのもはじめてのことだ。


「…宮崎先輩、おはようございます。」


「あら関谷さんおはよう。」

一瞬こちらを一瞥して走らせ続け始めた。

真剣に練習している…


朝はあまり時間の余裕はないし私もはじめよう。

いそいそといつもの8の字練習を始めた。今日で最後のこのコ。


「そういえば、そろそろ新車が出来そうなのにまだそれで練習するんだ。」

宮崎先輩は何かをノートを確認しながら話しかけてきた。


「…はい、まあ今日で最後かな?と思って…」

あまり返事になってないかな?とも思ったが、


「へえ…案外真面目ねえ…」

と宮崎先輩は自分のマシンの確認作業をし続けている。


私も気を取り直して走らせ始める 。


しばらくすると宮崎先輩も走らせだした。私との距離、3メートルほど。


――― 何か…気まずい…


よく考えると、ふたりきりになるのは初めてだ。

モーターの音、タイヤの音だけがしばらく鳴り響いていた。今日の音は、いつもの心地よさではなく、緊張感を感じる。


……


「…先輩、宮崎先輩は、どうしてラジコン同好会に入ったんですか?」 


思わず、聞いてしまった。

(ソフトボール部やテニス部の勧誘をけってまで ―――)

クラスメイトの話していたことを思い出していた。


「なあに?いきなり」

笑いながらのごもっともな返事が返ってきた。


しばらく無言でラジコンの音だけが聞こえる。

おたがい、視線は交わさないまま。


「…そうね…わたしは、真剣な勝負、ってことが好きなんだと思う。もうこれは性分、というか性格だと思うんだけど、なんでも本気でやった方が楽しいじゃない?本気でのめり込んでやって、そうやってはじめて、勝っても負けても楽しいのになって。」


「…う~ん、うまく言えないなあ。まあ不完全燃焼が嫌いってことかな。あの二人は普段ふざけてるようでも、すごく、ラジコンに対しては真面目でしょ?少なくともあの ―――」


そこまで言って宮崎先輩は言いよどんだ。


「…あの?」

思わず口に出てしまった。


「ううん?なんでもない。」


そう言うと宮崎先輩はまた車を拾い上げ、ん~?と考えながらメモを始めようとしていた。


私は、先月見た光景を思い出していた。

遠目でしか見えていなかったがやはりあれは ―――


「…そろそろ時間だね。関谷さんもあがろっか?」

「はい…」


少し、バッテリーも余ってしまった。

不完全燃焼な感じ。

真剣な勝負、か… その言葉が、校舎に戻ろうとする私の右脚を重くさせたような気がした。今の私には凄く遠い昔の話のように心にしばらく響き続けていた。


――――――


そして放課後。


「……出来た~!!!」


ようやく、そしてなんとか出来上がった私のはじめてのラジコン!


「ありがとうございます。おかげで出来上がりました!」

ぺこりとする私。とにかくうれしい。


「どういたしまして~~~♪」仁科先輩と須川先輩の二人の声がステレオに。


「さて、あと残りは…ボディはこのキットついてないんだけど、ボディはお古で本当にいいのね?」

仁科先輩が念押し。


「はい!まだ私どうしてもコケたりぶつけたりするからまずは中古ボディでよいかなって。なにかお勧めのモノはありますか?」

この部室の壁にはたくさんのボディが掛けられている。それを使ってくれてよいとも以前から言われていて、ご好意に預かることにしたのだ。


「そうねえ…壁のこの辺のM用のならたいていは付けれるけど…」

仁科先輩が、ん~と眺めながら考えている。


実は目星をつけていたボディがある。


「これは私の車に付けられますか?」


ひと際目立つ、キレイなオレンジの車。形は、ウチのパパが若いころ乗ってた!という写真で見た車に似ている気がする。


実は、ボディのデザインの傾向に気付いてはいたのだけれども。

半分は、二色や三色のラインが少し入ったようなデザインのボディ。

そしてもう半分は単色で光るような色のボディ。


「あ~~それ、わたしが前にちょっと使ってたやつだ~ あんまり傷んでないし、06にも合うと思うよ~♪」

眺めていた須川先輩が教えてくれた。


「じゃあ私、これにします!」

…ちょっとわざとらしかったかな?シャーシに続いてボディまで真似していると思われるのもちょっと気恥ずかしさを感じるし。でも見た目もキレイで気になってたのもホントだし。


ボディを載せてみると、ピッタリ収まって車らしさが一層引き立った。

私はその時すごく上機嫌だった。と思ったのだけれども ―――



「関谷さんって…あんまり笑わないよね。すごく嬉しそうなのに…」


ぽつりっと一部始終を眺めていた宮崎先輩が呟いた。3人の視線が集まる。それに気づいて自分で自分にビックリしたようにハッとしてすぐ言い直し


「あっ、ゴメンゴメン、全然変な意味じゃなくて!!!何言ってんだろわたし… そういえば、笑ってるところ見たことないな~って思ったのかな? ゴメンね~急に変なこと言っちゃって…」


頭を掻きながら気恥ずかしそうな宮崎先輩。

そうか、そう見えるのか。


「そうかな~?そういえば、見たことない?かもしれない?どうだっけ?」

首をかしげる仁科先輩。


「……!?あっ! わたし見たことあるよ~!ヒロちゃんが笑ってるの。確か最初の日!すごくケラケラ笑ってたよ~!」

そんな笑い方はしてないと思うんですけど須川先輩…


「えっと…私そんなになにか表情おかしいですかね?」

正直に聞いてしまった。


が、


「そんなことないよ~~~ヒロちゃんこんなにカワイイのに! 宮崎ちゃん、後輩いじめたらダメだよ~!かわいいかわいいナデナデ♪」

と、須川先輩にまた頭をなでられてしまった。

むーなにか誤魔化されてしまったような。まあその方がいいか。


ゴメンね~と、顔の前で手を合わせている宮崎先輩。


「ほほう、それでは関谷さんはスーちんの前でだけ笑顔を見せる、と。フフフ…メモメモ」

なにか不気味に呟いている仁科先輩。



――――――


そんな和気あいあいとした雰囲気の中、宮崎先輩が不意に立ち上がった。


「さて、お楽しみのところ悪いんだけど、須川さん」


凄く表情が真面目だ。キリっと美人。


「そろそろ、約束通り、わたしと真剣勝負、してくれるんだよね!?」


しばしの静粛。眼をパチパチさせる須川先輩。そして何かに気付いたかのように、

「え~…ホントにするの~~~」

須川先輩はぐでたまのように溶けて机に突っ伏してしまった。


「してくれるんだよね!!!」

ゆさゆさ。揺さぶる宮崎先輩の語気が強い。顔は笑顔だがいつになく押しが強い。



「……なにか、前にあったんですか?」

コッソリ仁科先輩に私は聞いてみた。


「えっとねえ… ココでは…う~ん、」

先輩はしばし考えてから、

「チョット!!!わたし、関谷さんとお手洗いに行ってくるね~~~お二人は勝負の計画を立てといてね~♪ 」

とガバッと立ち上がって私の手を引いて歩き出した。


助け舟を求めたがっていた須川先輩は、あうー絶望に近い表情をしていた。

許せスーちん!っと呟きながら仁科先輩は私を部室から連れ出したのだった。



――――――


部室から少し離れた廊下を仁科先輩と二人で歩いていた。それにしてもこの分棟校舎は本当にこの時間はひと気がない。

先輩はぽつぽつと話し出した。


「――― えっとね、宮崎さんはちょっと、いや、かなりラジコンを真面目に速く走らせたい!って気持ちが強いでしょ? それで半年ぐらい前にスーちんに真剣勝負を挑む!って言って勝負したんだけど、あの子高校に入ってからのラジコン歴なのもあるし、その時はあんまり勝負にならなかったのね…」


先輩は、周りに人がいないことを確認するかのように見渡してから、廊下の壁に背をぽふっと預けて続けた。


「勝負が終わって、スーちんとしてはいつもどおり、楽しかったね!!!っていう感じだったんだけど、宮崎さんはすごく悔しがって。でも、これから特訓して経験の差を埋めてやるからまた半年後に真剣勝負してくれって言う宮崎さんはスゴク嬉しそうでもあったのね…」


「スーちんはまた、お~受けてたと~ みたいな返事してたけど、宮崎さんは…やっぱりあの子って、本気なのよね~」

少し困ったような仁科先輩。


「それからはある程度は関谷さんも知ってると思うけど。ニューマシンにプロポも買って。よそのサーキットで練習もしてたみたいだし、最近はここのアスファルト路面に合わせたセッティングも進んでたみたいだから、わたしはそろそろ来るかな~って思ってたんだけど。たぶんスーちんは今日、青天の霹靂な感じだったんじゃないかなあの様子だと。」


なるほど、そんなことがあったのか。

なんとなく、私にはどちらかというと、宮崎先輩の気持ちが分かった気がした。


「……須川先輩は、嫌なんですか?勝負するのが。」

ふと疑問に思った。いつもあんなに楽しそうにラジコンしてるのに。

あんなに速く走らせられるのに。


さっきは宮崎先輩の誘いにあんまり気が乗らないように見えた。


「嫌っていうか… 説明するのが難しいな…」

先輩は、なにか言いにくそうだった。


「スーちん、あの子はほら、楽しくラジコンしたい!!!っていうのが『今は』一番なのよ。みんなで仲良く楽しく。関谷さんが入ってくれてからは特にすごく楽しそうにしてるもの。やっぱり人数は多い方が楽しいし。」


「だから…かな… スーちんはもう、一度そういう所から降りちゃったから ―――」


……?

「どういう意味ですか?」

仁科先輩が最後にぼそっと言った言葉が私にはよくわからなかった。

先輩はハッと気付いた顔をして、

「――― ううん?ゴメン何でもないよひとりごと。とにかく、まあスーちんもうかうかできないんじゃないかな~最近の宮崎さん、すごく速くなってるしね~」


私は口をはさんでもう一度聞こうかとしたが、


「さて!!!もどろっか。あんまり長いと疑われるしね~~~」

先輩が先手を打った。


「…何を疑われるんですか?」

「あんまりわたしが関谷ちゃんと仲良くしてるとスーちんが嫉妬しちゃうじゃない!?」

わざと意地悪く言う先輩。


「……そんなわけ、ないじゃないですか///」

そんなわけ、ない、と思うのだけれども。


「どちらかというと、時間が長いと、『大きい方!?』って言いそうですよね須川先輩って」


「おっ!スーちんのことよくわかってきたねえ♪ 流石関谷ちゃん!」



完全にタイミングを逃して誤魔化されたが、まあいいか。

あまり無理して聞いても悪いし。


と思いながら私たちは二人が待つ部屋へと戻っていった。

第6章をお読みいただきありがとうございました!

明日の夕方18時更新の第7章では、ついに宮崎先輩と須川先輩の、真剣勝負の火蓋が切って落とされます!

明日も読みたい!と思ってくださった方は、ぜひページ下部の【☆】評価やブックマークで、彼女たちの不器用な青春を応援していただけると嬉しいです!

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