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第4章 チキチキの合間に【メインメンバー集結!笑顔の裏に漂う暗雲】

全19話中の4話です。毎日夕方18時に更新しております。

前回、ヒロの前に現れて的確なアドバイスをくれた先輩の正体が判明し、メインメンバー4人が部室に集結します。みんなで走る「チキチキ」遊び、そして夕暮れーーー青春モノです


ちなみに作中は、令和2年想定の舞台となっております

――― ピッッ ―――


乾いたホイッスルの音。

並んで走り出す2人のクラスメイト。


しかしそのスピードは、見るからに遅い。


… ハイ、ちゃんと真面目に走って~!!! ~~

体育教師の声がゴールラインの方から響く。


とはいえ、先ほどからそれほど真面目に走っている人は少なく見える。キャッキャと笑いながら走ってる子さえいる。時々フォームもキレイに力強く走っている運動部っぽい子もいるが、サッカー強豪校で見ていたようなスピードは、ない。


まあそんなものか、と私は新しいクラスメイト達の走りを眺めていた。


問題は、そろそろ私の順番だ。


「走ることはほとんど大丈夫。…強く踏ん張ったりは危ないかも…」


医者に言われた言葉が重くのし掛かる。

もうあんな思いは二度としたくはない。


日常生活で階段を乗り降りしても痛みなどは全く無い。しかし全力疾走はあれから一度もしていない。勇気がない。


ついに私の番がきた。

スタートの後ろ蹴り足はとりあえず大丈夫な左足にしておこう。

迷っている暇もなく、スタートの笛が鳴り響いた。


――― 力が、入らない ―――


自分の意識より、重く、脚が前に出ない 。まるで夢の中で走っているかのような ―――


痛くは、ない。大丈夫だ。

徐々にスピードを上げられる…


…と思ったときには50mはゴールだ。


記録、7秒台にも届かない平凡なタイム。ちょっとショック。


とぼとぼと列に戻ると話しかけられた。


「関谷さんって、結構走れるんだね!」

いやそんなことは無いだろう。…周りの真面目に走ってない人に比べたらよいのかもしれないが。


「関谷さん部活とか入らないの?ソフトボール部とかどう?楽しいよ?」

170cm近くの長身で少し日に焼けたこのクラスメイトの名前は確か上野さんだったか?

ソフトボールも楽しそうかもしれない。そう考えていたこともあったのだが。


「あ…ゴメンね。私もうほかに入部しちゃってるんだ…」


「えっ!?そうなの?えっ!?ナニ部に入ったの?」


当然の質問だ。少し言いよどんでから返事する。


「…えっと、同好会なんだけど、ラジコン同好会?に…」


「えぇっっっ!!!?」


ザーーーーーーっ という音が聞こえた気がした。何かが引く音だ。

何かまずかったのだろうか。


「あの、〇×高校の2大残念美女が在籍しているあのラジコン同好会!!!!!!!!?」


なんだそりゃ。はじめて聞いた。

後はこちらから聞いても無いのに上野さんが詳しく教えてくれた。見た目によらずゴシップ好きのようだ。


「まずは須川千絢先輩。見た目はどこから見ても、女子高生のお手本のような清楚系で可愛い美人!!!話してもすごくフレンドリーで優しそうでこんな先輩がいて欲しい!!!ランキングをひらいたらトップクラスな感じなのに!」

そんな冗談のようなランキングが集計されたのだろうか。上野さんが嘘を言っているようにも見えない。


「耳元で囁かれてついふらっと誘われるがまま須川先輩についていったら校舎の隅の暗い部屋に連れ込まれそうになって危うく逃げ出した1年生犠牲者が何人か出たって聞いたわ!それが須川先輩よ!」

…なんだろう?どこかで聞いた話のような気がしないでもないけど。


「そしてもう一人が宮崎沙也加先輩!クォーターの端正なお顔立ち!そしてなんといってもスポーツ万能なところもカッコイイ!何をやらせてもすっごく上手で!あぁ…あの右中間ライナー性の当たりなんて凄かった…あんな打球打てたら気持ちいいだろうなあ…それなのに!」


「それなのに?」

残念要素が特に見当たらなそうなんだけど。


「それなのに!ソフトボール部やテニス部の勧誘をけってまで入部してるのがラジコン同好会なのよね~ すごく残念…」



――――――


「宮崎先輩、っていう方は、部員なんですよね?今日も来られないんですか?」


放課後。残念な暗い部屋にて。何もそんな言い方もないだろう。

確かに角部屋でちょっと薄暗いし黒い何かわからない物体が所狭しと机の上にも壁にもいっぱいだしちょっと変わったオイルの匂い?もするけどそんな魔窟のような言い方しなくても。


「あ~…宮崎さんは、毎日は来ないから…でもたぶん、そろそろ来るんじゃないかな?」

仁科先輩はなにかスマホをチェックしながら答えてくれた。


そういえば仁科先輩は話題には上がらなかった。そりゃ常識人だもの。うんうん。

なにか試験管立てみたいなものに刺さっている細い容器に怪しい色の液体を流し込んでほくそ笑んでいるように見えてきて一瞬自分の認識が間違っているのかも…?と疑うがそんなはずは無いはずだ。たぶん…


よく見ると仁科先輩の机が一番モノが多い。しかも雑多に積み上げられている。


色んな工具はもちろん、なにかのメーターがついているような電子機器のようなもの?やその這いまわる配線、なにか色々な目盛りがついた不思議な定規のようなもの?そのほか確かハンダゴテとかいう熱くて危ない器具など私にはまだ全然覚えられないモノがごちゃっとしている。アレでどこに何があるのか把握してるんだろうか?


それに対して須川先輩の机は、予想外にキレイだ。失礼な話だけども。

ラジコンと、プロポ、そして使い方を教えてもらった充電器とバッテリー。工具少々。以上。


なにか二人の性格を考えると意外だな~~~と私は思っていた。まだこの頃は。


「それより、そろそろヒロちゃんも一緒にチキチキやろうよチキチキ!」

と須川先輩が言いかけたとき、


ーーー ガラっっ ---


「須川さん、今日こそ負けないよ~~~っ!!!」


のしのし入ってくる栗色のロングヘアー。あ、あの朝練の時の先輩だ。

そのままつかつかと空いている長机の上に鞄を下すと、鞄からおもむろに取り出した。


ばんっ!


ボディを外したままのラジコンを1台と、プロポ。


「おおっ~~~~!」

おもむろに覗き込む須川&仁科先輩。私も後ろから伸びあがって覗き込む。


…私には何が違うのかまではよくわからないが。

真新しいそのラジコンカーは、車のあちこちに青い部品がたくさん散りばめられていた。私の借りている車とはまずソコが違うようだ。しかしよく見ると、車全体の大きさ以外、ほとんど作りが違うようにも見える。あと同じなのは…タイヤぐらい?


そしてプロポも違っているようだ。なにか上にスマホが乗っかってるようにも見えた。あんなプロポもあるのか。


「これは……」

「最新型だ~…思い切ったねえ…」

仁科先輩は車を持ち上げてくるくる回して眺めている。実に楽しそうだ。


「今日こそは!!!これで本気で勝ちに行くからね~ …と言いたいところだけど、今日シェイクダウンだから。しばらくはセッティングと確認練習させてもらうね~」


「あ、あの…」

割り込む私。


「あ!今朝の、え~~っと、」


「関谷です。関谷ヒロです。よろしくお願いします。…宮崎先輩、ですよね?」

今度こそ私からしっかり自己紹介。礼儀は大切だ。


「そういえばわたしも名前言い忘れてたね~ゴメンね!わたしがこのラジコン同好会のMSこと宮崎沙也加です。よろしくね!」

また新しい単語だ。なにかのあだ名なんだろうか?


「えむえす…?ってなんですか?」コッソリ仁科先輩に聞いてみる。

「まあそれはまたおいおい…」口を濁した。なにかマズいことがあるのだろうか?



――――――


「そんなわけで、ヒロちゃんも今日から一緒にチキチキやりましょう!」


いつもの場所で、パイロンをコースが分かるように貼り終えてから須川先輩がもちかけた。


「そうだね~まず、どれぐらい走れるようになったか練習に走ってみてもらって、それ見てからスピード合わせよっか。…じゃあ関谷さん、ちょっと何周か走ってみて!」


「わかりました。…それでは、行きます!」


練習の成果を見せる時だ。

今日のコースは手前に近いところが直線で、奥側が左右対称にS字コーナーが2回繋がっているような、割と単純なかたちになっている。


直線はまっすぐにしっかり握る。うん!真ん中を通れている!

曲がる前にスピードを落として…

右に曲がって、曲がり終わったらすぐ左!そしてすぐ加速!


――― 3周ほど


パイロンを踏まずになかなかスムースに走れてるのではないか?


そして8の字練習より、楽し~い~~~!!!


「どうですか!?練習の成果出てますか?」

鼻息荒くなかったかな私。


「しっかり曲がれてるし、ちゃんと握るところ握れてるし、凄い上達速いね!!!やっぱり才能あるかも!!!」

嬉しそうな須川先輩。私も嬉しくなってくる。


「じゃあ…、わたしたち2人は、80ぐらいで行きましょうか?」

「うんっ♪ それぐらいかな~」

なにかプロポをカリカリいじっている須川&仁科先輩。80?とは何の数字なんだろう


「じゃあこれから、チキチキ遊びをします~~~!」

満面の笑みの須川先輩。

「簡単に言うと、追いかけっこで~す!まずは、ヒロちゃん先行ね!わたしたちを置いてくつもりで逃げてね!」


「わかりました!」


よーい…どん! ―――


むっ!直線はこっちが速い!!!スタートの直線で数メートルは引き離す!


「…先輩たち、手を抜いてないですか~!?」

「ダイジョブダイジョブ!すぐ追いつくよ~~~っ!」


そんなこと言って。よ~しこのまま逃げてやる!


一つ目のS字を越えて短い直線、そして次のS字…

アレ!!!?

いつの間にか後ろにピッタリ2台!!!なんで?特にミスもしなかったのに???


最後の右カーブをググっと曲がって ―――


もう仁科先輩の赤いマシンは私のマシンを外から追い抜きそうっ!!!

須川先輩の蒼いマシンも後ろにピッタリ!


「いやーーーーーっ」


思わず声が出る私。やっぱり先輩たち速い!!!

そして直線。


んっ?

じりじりと前に出る私のマシン。

直線のスピードはこっちが速い!???


差が数メートルできたと思ったのもつかの間。

今度は一つ目のS字の出口にはピッタリマークされた!今度は立ち上がる内側から須川先輩がっ!!!


――― 曲がるのが遅いってこと???


慌てて2つ目のS字に突入!あっっタイミングがずれ…


カッシャーーン、ズサーー


パイロンに乗り上げて転んでしまった…


「ゴメンゴメン!ちょっと近かったね~~~」

起こしに行ってくれる須川先輩。


「あ、ありがとうございます…それにしてもコレ、スピードは差をつけてるんですか?」


「さすがヒロちゃんすぐ分かったね~ まあこれはまだハンデみたいなもの。もっと慣れたらおんなじスピードで遊べるよ!」


80と言っていたのを思い出す。プロポでそんな調節をしていたんだなと理解した。

むーやはりそれはそれで、少し悔しい。


「…なるほどわかりました。次はしっかり逃げます!」

「ふっふーん♪ 負けないよ~~~!」


集中だ!ひとりの時と違って、後ろから追われるとつい、焦ってしまう。

そして、曲がるときに追いつかれるのなら、最短距離だ!

パイロン近いところを小さく回る!その方が速いって仁科先輩も前に教えてくれた。


同じパターンで追いつかれた2つ目のS字!

シッカリ減速して ――― ココっ!パイロンギリギリを左にターン!これならっ!


「アレ~~~♪ 遅いよ~♪」

キュキュキュっ!とタイヤを鳴らしながら、今度は須川先輩が外から並走!!!?

次の右ターンがーーー 押し出される?!?!


アウトに膨らむっ…コーナーから脱出するスピードが全然負けている?

ラインどり、と今朝聞いた言葉が脳裏に浮かぶ


「おっさき~」その隙に仁科先輩も追い抜いていく。

ぐるっと回って直線だが、20mでは追いつかない!!!


「今度はヒロちゃんが追いかけてね~~~♪」


「???! ハッ、ハイ~~~!?」


考えている暇もない…なんとか頑張って2人に付いていこうと走る!

しかし直線で追いつきかけるもやはり曲線に入るとじりじり置いて行かれる…


曲がってるときは追いつけないっ!

なら!ギリギリまでブレーキを我慢して!!!……


…あっっっタイミングが


パーーンっ!


仁科先輩の横っ腹に当ててしまった。


「スミマセンスミマセンっっ」


「大丈夫大丈夫♪ それぐらいじゃ全然壊れないから大丈夫だよ! でもあんな風に横からまっすぐ当たるのはマナー違反だから覚えといてね♪」


「わかりました…気を付けます。」



――――――


それから、時間を忘れるようにチキチキ遊び?を楽しんだ。抜きつ抜かれつ。


……これは、


「須川先輩!すっっっごく、楽しいです!!!」


「デショデショっ!わたし、このチキチキが一番好きなんだ~♪ 」


いつまでも、走っていられるような不思議な感覚にとらわれる。

10数分おきにバッテリーは切れるのだけれども。


仁科先輩は、疲れた~~~~~!と言って今は休憩中。

須川先輩とふたりで走っていた。


「………先輩」


「ん?なあに?」


視線は交わさないまま。その方が話しやすいこともある。

今、伝えておきたい、と心から思った。


「須川先輩。ありがとうございます。私を誘ってくれて。本当にありがとうございます!」

何も考えられなかった高校生活に、まさに陽が差してきたのだ。


「…えっどうしたの急に。別にわたしは何もしてないよ?」

見えはしないが、ちょっと照れてるようにも聞こえる須川先輩の声。


「そんなこと無いです!今、本当に、楽しくなってきたんです私!須川先輩のおかげなんです!!!」


「…よくわかんないけど、こちらこそありがとうね!一緒に遊んでくれて。」


「これからもよろしくお願いします。センパイ♪」


変わらずモーターと、タイヤの音だけが響き続けていた。

不思議なもので、なんだか心地良いような、いい音だな、なんて気分にもなってくる。


「……こう、もうちょっと…」


「なんですか?先輩?」


「…須川先輩、って固ーいから、皆みたいにスーちんって呼んでくれない?」


「…………先輩は、先輩です…できません」

集中して遊びすぎたからか、夕方だというのに暑くなってきた。


「え~~、ほら、スーちんって言ってみて?」


かっっっっしゃーーーーーーーんっ!!!!!!


今日一番の勢いでパイロンジャンプして5回転半した。


「……す、す…意地悪ですね、先輩…」


――――――


「なにやってんだ、あのふたり」

宮崎先輩は今日はチキチキにはあまり加わらず、ひとり走らせたり部屋に戻ったり練習していたようだ。



そんな本当に夢のように楽しかった1日。

こんな日がずっと続けばいいのに!と私は心の底から思ったのだった。


――――――

――――――


「むふふ、スーちんさーん、なかなか仲睦まじい感じじゃない。みーちゃった」


「もう!ふーさんはすぐそういうこと言う…」


「いやーだって、可愛い後輩に慕われるスーちんってなんだか新鮮で」


「もう、そういうんじゃないってば。ただ…」


「ただ?」


「…ただ、わたしは、ふーさんや皆と、楽しくラジコンしたいだけなんだよ。ただそれだけなんだよ…」


「あっ、あー、…そう、だよね。からかう様な、ことを言ってゴ…」


「帰ろっか。ふーさん」

第4章をお読みいただきありがとうございました。嬉し恥ずかし楽しそうなヒロの裏で、しかし須川先輩と仁科部長が交わした不穏な会話。彼女たちが笑顔の裏に隠している秘密とは?

明日の18時更新の第5章は、前半の「ゆるふわ日常編」の締めくくりです。

彼女たちの行く末を見守りたいと思ってくださった方は、ぜひブックマークや下部の【☆】評価で応援をお願いいたします。

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