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第3章 とあるサッカー少女の話【明かされる過去と、さらなる出会い】

毎日夕方18時に更新しております【全19話中の3話目です】

前回、RC同好会の面々と過ごす中で、「空間認識能力」の片鱗を見せたヒロ。今回の第3章では、彼女がなぜサッカーを辞めなければならなかったのか、その過去回想編です

誤魔化すっていうほどのことではない。

話したくなかっただけ

聞かれたくなかっただけ


本当にありふれたどこにでもある夢を見ていた少女の話 ―――




憧れの選手を目指して始めたサッカー。

幸運にも少女には才能があった。


走ることは小さいころから好きだった。

幼稚園の徒競走では負け知らずだった少女にとって、サッカーの中でもそれが武器になることは火を見るよりも明らかだった。


少し小柄な体格も幸いした。


自分よりも大きな選手の間を縫うように踊るように駆け抜けていく。

誰もついては来れない。

――― 快感だった。


ちょうどその頃は女子サッカーの人気絶頂で。

中高一貫の強豪校を目指す学校からのスカウトを受けるほどだった。


プロ野球選手を目指す少年たちがそうであるように、

夢だったワールドカップやオリンピックへの道が開かれたと少女は思ったものだ。


中学入学してまもなく、さらに才能が見いだされる。


同じぐらい上手い選手たちにもまれる中、他人には見えてないものが見えていることに気が付いた。


きっかけは些細な事。

上級生に当たり負けして倒れそうになる時、ふとココに仲間がいるはず!と苦し紛れにそちらを見もせずにパスを出してみるーーー 無意識ではあったが、それはチームメイトのゴールへのアシストパスとなった。


それから集中して意識してみると、視界には入っていないはずのものが見えてきた。

仲間の位置、アソコで手を挙げてボールを欲しがっている ―――

ディフェンスの裏が反対側は開いてるはず ―――

サイドバックが裏から飛び出そうとしている ―――


パスが面白いようにつながった。

調子が良いときは、まるでゲーム画面を俯瞰しているかのようだった。


「空間認識能力が高いんだ」


コーチは嬉しそうにそう言っていた。サッカーにとても大事。特に司令塔になるような選手には必須のものだと。


少女は一層のめりこんだ。

新たな武器を手に入れて、ドリブルで切り込み、キラーパスも出せる。

絶対に負けない!!!私にできないことなんてない!!!


1年生の時から上級生のレギュラーメンバーに入れて試合にも出れた。

そこそこ、活躍したとは思う。それが短い春だったのだけれども。



少女は、小柄だった。

他の同期の少女たちが日増しに体が大きくなっていく中、少女の体は小学生のときのまま、ほとんど伸びはしなかった。

小学生のときならそれでも皆が上手ではなかったので、間を抜いていくことは簡単なことだった。

しかしソコは上手い選手が集まっている中で。


スピードや切り返し、ドリブルの技術は抜きんでていた。

それでもなお、頭一つカラダが大きいディフェンスふたりがかりでは……

体を入れられて、当たり負けする


そんなことがだんだん増えてきた。

だんだん通用しなくなっている!?少女も自覚していた。


まだだ!まだ私にはコレがある!!!

コーチが褒めてくれた空間認識能力。それを駆使して!

私がここまで切り込んでスペースを作り、空いたディフェンスの裏!ココにピンポイントでパスを出せば絶対にゴールだ ―――


――― 無理なパスばっかり出さないで 届くわけないじゃない ―――

チームメイトがつぶやいた。


なんでそこにいないの?おっそいよ?ちゃんと走ってよ!

空回りしていることに気づくには少女は若すぎた。


なら私がもっとギリギリまで……


トップスピードから、フェイント、ギリギリに切り返して……ディフェンスに阻まれ、倒れ込みながらパスを ――――――



てんてんとボールはサイドラインを割っていた。

少女は倒れこんだまま起きれなかった。




それが私の最後のプレイ。


後悔はない、と言えば嘘になるかもしれない。

しかし私の中で、もうやり切ったのだという感覚も、確かにあった。


右脚の切れた腱はつながったけれども、リハビリも頑張りはしたけれども、


「日常生活は全く問題ないよ!走るのもほとんど大丈夫!ただ…サッカーは無理かな?ステップ踏んだり、思い切り急激に力入れて踏ん張るような動きは駄目だね。また切れるかもしれないよ?」


医者の最後通告。そんなに都合の悪いケガってものがあるのか。

セカンドオピニオンもほぼ一緒。


こうして私の道は閉ざされたのであった。


季節は間の悪いことに4月を過ぎており。

一応私も高校に進級できることにはなっていたが、この学校にいる意味はない。


適当に入り込んだ地元の女子高が、現在私のいたるところだった。



そんな思い出したくもない、でも決して忘れることもできない過去が脳裏をよぎったその瞬間、


――――――


カッシャーーン、ガラガラ…


いけない、ボーっとしてた。

パイロンを踏んだ黄色いラジコンは、少し飛び上がって片輪走行の末、パタッと逆さになった。

スロットルから指を離すと、空転していたタイヤもひゅーんと停止した。

集中力が薄れていた。気を抜くとまだまだだな…


基礎練や、反復練習はとても大事だ。

無意識にできるレベルまでにならないと気が済まないタチだ。


「これ、初心者向けで練習にぴったりだからしばらくの間貸してあげるね!」

と仁科部長が貸してくれた黄色いラジコンは「S」のエンブレムが付いている。テレビのCMでも見たようなかわいいコンパクトカー。

最初に須川先輩が貸してくれた赤いマシンと違って、加速も曲がりもややゆったりしている感じがする。運転しやすい。

プロポも貸してくれたし、バッテリーにも「練習用」とラベルが付いたものを渡してくれた。充電のやり方も教えてもらった。


だけども、ずっと練習用マシンを借りっぱなしなのも気にはなる。シューズやサッカーボールも自分でそろえるのが普通だ。


むぅー これはなんとかせねばならない。

自分のお小遣いで買えるものだろうか?

そしてこの恩義に返すためには!!!(大袈裟な)


しっかり走れるように、上手になってみせることが一番だ。


私は朝の1パックの8の字練習を日課として始めていた。まだ数日だけれども。

だいぶスロットル、ブレーキに気を付けながらキレイに8の字を走れるようになってきた。

キレイにピタッとパイロンを曲がれるとそれだけでも気持ちがいい。


「ん~ 集中切れると駄目だな~」


転がったマシンをしゃがんで起こしていると、



「すこし、コーナーに対して突っ込みすぎじゃないかな…?」


不意に、後ろから話しかけられた。

振り向いた後ろに立っていたのは ―――


フワッとなびく軽くウェーブがかかった腰までありそうなロングヘアーは、少し明るい栗色をしていた。

胸には蒼いリボン~2年生の印をつけた少女が、こちらを見下ろすように胸の前で腕を組んだ姿勢で立っていた。


「今日は、あの須川…須川さんはいないのね。あなた1人?」


「須川先輩は、今朝寝坊したってさっきLINEがありました…」


つい正直に答えてしまった。先輩の名誉のためには適当に伏せとくべきだった。

ごめんなさい須川先輩。


それにしても、どこかで会っただろうかこの先輩とは…どこか見覚えがあるような ―――


「あ…練習邪魔しちゃってゴメンね…走りを見てたらつい気になっちゃって」

そういえば、何かアドバイスをくれていたような気がする。コーナーに突っ込みすぎとは?


「いえ、私も早く、ラジコンうまくなりたいので、教えていただけると嬉しいです。突っ込みすぎ、ってどういうことですか?」

私は素直に教えを乞うことにした。


「えっとね、今、8の字のパイロンを頂点にするように曲がってるでしょ?そのマシンでその走り方だとコーナーの脱出スピードが遅くなっちゃうの」

その先輩は、パイロンをさらに横に並べ置いた。


「スローインファストアウトって言って、ブレーキは早めに最初のパイロンの外側から入って、この2枚目との間をまっすぐに加速して立ち上がる感じかな。こういうラインどりのほうがスピードが乗るよ」

そう説明しながら先輩は練習用プロポを手に取って3周ほど見本走行。なるほど、実に具体的で丁寧なコーチングだ!


・・・丁寧ではあるのだが、今の私に出来るだろうか。今までの練習よりも格段に操縦技術が必要そうだと本能的に感じる。


「む・・・難しそうですね・・・つまり、そういう車の通る道筋?みたいなのを考えながら走るんですね」


「そうそう、走りを見てたら、初心者とは思えないぐらい上手に走れてたから、次はそういうステップかな。どうせ練習するなら、ちゃんと考えながら走ったほうが上達が早いと思うよ!」


考えながら走る、か。確かに、昔のサッカーのコーチも考えながらプレイしろって何度も言ってたかな~

その先輩に言われたことを踏まえながら、ふたたび8の字練習を始めてみた。早めにブレーキして・・・

こ・・・こうかな?


「ん!聞いてはいたけど本当にうまいね。そんな感じそんな感じ!」

隣で褒めてくれる先輩。

「そ、そういえば、先輩の、」走らせながら聞こうとすると ―――


きーーんこーーんかーーんこーーーん


「おっともうそんな時間になっちゃったんだ。この続きは、また部室でね!!!」


そう言うとその先輩は踵を返してサッと校舎のほうに走り去ってしまった。

その走りゆく先輩の後姿を見ると、なかなかに堂々とした走りのフォームだ。結構速い!!?


そして残されたのは、呆気にとられたように立ち尽くす私。なんだかついこの間も似たようなことがあったなあと思いだす。

う~ん、そしてまたしても名前聞きそびれてしまった。先輩に対して私は失礼だなあ…と反省ひとしきり。


その日の授業があまり集中出来なかったのは言うまでもない。

第3章をお読みいただきありがとうございました


明日の夕方18時更新の第4章では、ついにメインメンバー4人が出揃い、そして最後に物語の雲行きが急激に変わり始めます。ぜひ明日もお越しください。

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