第2章 スロットルとブレーキと【常識人(?)のメガネ部長登場!】
毎日夕方18時に更新しております。※第1話をお読みでない方は、ぜひそちらからお楽しみください。1話の内容は挿絵みたいな感じの内容のお話となっております〜
RC同好会へ連れて行かれたヒロ。今回は、同好会をまとめるメガネのしっかり者、仁科部長が登場します。
「ふーさん!将来有望な大型新人を連れてきたよぅっ!!!!!!」
ガラッ!!!と須川先輩は引戸を元気良くバーンと開け放った。ココが部室?
先輩に連れられるがままグラウンドから教室棟~渡り廊下を通ってたどり着いた、音楽室などの特別教室や教材室のある分棟。
その一階隅っこのあの今朝の外階段!に繋がるドアのとなりに、その小ぢんまりした部屋はあった。
ドアのすりガラスには、
どこかの男性エアーロックグループ?が着ていたようなどこかで見たような星のロゴマークや、その他全く見たことの無い英字のロゴマークのシールがペタペタと貼っており、そしてその真ん中にお決まりのごとく収まっているのが…
……?
「RC同好会」
と印刷された紙が貼ってあり、その右下に手書きで書いたような、
「ラジコンであそぼ~」の文字。
同好会?
…まあ、そうか。そりゃそうだよね。
なんとなく予想はしていたがちょっとだけ落胆。
しかもRCってなんだろう?普通に考えたらラジコンの略だろうか?
その横に開いたドアの方に気を取られていると部屋の中から少し低いハスキーな声が
「ちょっとスーちん!!!また朝パイロンもコーンも出しっぱなしにしてたでしょ!!!わたしが怒られるんだからね!?」
あっ!そういえば呆然としてたので私も気付かなかった…アレは片付ければ良かったのか…
「ゴメンゴメンそんなことより!」
先輩それは全然謝れてないよ…
「凄いの!やったこと無いって言うのに超天才かも!?ビッグルーキーだよ!」
誉められるのは悪い気はしないが流石にそれは言い過ぎだよ…先輩の後ろから出るに出れない私。
「またそうやってすぐ誤魔化す…」
仲の良さそうな二人の会話が続いている。
「…で、そのルーキーとやらはどこの誰なの?」
これは出ていかざるを得ない。こういうことは最初が肝心だ。
ひょこっと須川先輩の後ろからお辞儀をしながら一歩出て、
「はじめまして!!!関谷ヒロと申します!これからよろしくお願いしますっっっ!!!」
…
……静寂。アレ?
そっと顔を上げる。
やはり、まさかとは思ったんだけど。
部屋の壁に据え付けられた長机。その前の椅子に座ったまま上半身だけひねって私を見ていた人は、
まあ、仕方ない。ある意味想定内でもあったが、やはり、
一人だけだった。がっくり。
(須川先輩について行ってもまあなんとかなるだろう!キリッ!)
とか数分前にやったばっかりだがちょっとその自信が揺らぎだした。頑張れ私。まだ可能性はある。
「紹介するね!!!こっちが部長のふーさん!ふーさんは…」
「仁科 風花です。スーちん…須川と同じ2年生です。よろしくね!関谷さん♪」
流石部長!須川先輩の話をさえぎって、立ち上がってきちんと挨拶してくれた。
そもそも部長というものは私の経験上では、実務などにも長けたいわゆる常識人がなるものだ!と思っている。そのため、チームのキャプテンなどとはまた異なった人物があてられるのが普通だ。そうでなくてはチームとして機能しない。
立ち上がった仁科先輩は、須川先輩よりは少し背が低いくらい?(それでも150前半の私よりは高いが)で、肩にかかるぐらいのおさげにした黒髪に少し度のキツそうな黒縁メガネが実によく似合っている。まさに『THE 部長』。須川先輩とはまるで真反対のような信頼できそうなタイプだ。この認識が間違いでないことをこの時点では凄く期待できたのだが。
「ふーさんとは、小学生の時からの友達なんだよ~~~!」
正反対に見える二人が幼なじみ?ちょっと驚いてしまったけど、ビックリしてみせるのはさすがに失礼だろう。
「…えっと、部員はお二人だけなんですか?」
ここはあえて聞かなかったことにして一縷の望みをかけて仁科先輩に尋ねる。
「あ~~…もうひとり、時々だけくる子がいるんだけど。その子を入れて3人。まあだから同好会なんだよね。でも関谷さん、ホントに入ってくれるんだよね!?大丈夫?」
大丈夫とは一体なんだろう。
「スーちんに無理やり連れて来られたんならちゃんとそう言ってね?それか適当なこと聞かされてるとか…そうだ、なんの同好会かわかってる?」
付き合いが長いというのは本当なんだろう。須川先輩の特性をよ~く知っているみたい。
この先輩たちとなら、きっと大丈夫。
すうっっと息を吸い込んで
「大丈夫です。私、ラジコンやってみたいです!!!」
――――――
「じゃあ一応形だけなんだけど。この書類に記入してね!」
部員が増えたことにすごく嬉しそうな仁科先輩から「入会届」を渡された。
「あっ、このあたりの机、適当に使ってね!」
そう言いながら須川先輩が、何か大量の黒い物体?が所狭しと乗っていた机の上を、がさっと押し広げてスペースを作ってくれた。
どぞ~と椅子までひいてくれる。こういうところは優しい。
椅子に座って記入しようとするが、ふと少し部屋を見渡してみた。
……とにかくモノが多い!
目の前は机の隅に押し寄せられた黒いプラスチックの山。散らばった小さいネジ。
そしてペン立てみたいな箱にたくさんの工具が入っている。
そして壁が凄い!
まるでお店みたいに何かの部品?がパッケージごと吊り下げられている一角もあるし、
そしてラジコンの車もたくさん壁に吊り下げられている所もある!?え~と、何台あるんだろう…
「これが…ラジコン同好会か…」
と呟きながら今更ながらに思う。
私にラジコン、本当に出来るのかな?
「……で~、ホントだってば~一度も間違えなかったんだから。…ありえないよ~」
「スーちんがあんまり見てなかったんじゃないの~ふつう……」
須川先輩と仁科先輩が何かキャッキャとコショコショ話している。全部は聞き取れない。
ちらっと二人を覗き見るーーーさっきも驚いたことだけど、
同じ学年だし、小学生の時からの友達!?いわゆる幼馴染?あの二人が。
外見は失礼かもだけど対称的。性格もおそらくそんな感じ。
「仲良いんだな……」
ちくりっ
?
胸の奥で。なんだろう?深呼吸してみる。胸筋を軽くストレッチしてみる。大丈夫だ何ともない。
とにかく届け出を書いてしまおう。
私はようやく紙に目を下し、書き始めた。
――――――
「それは、空間認識能力が優れている!っていうやつなのかなあきっと。」
「またふーさんが難しーこと言い出した…もうちょっと分かりやすく説明してよ…ヒロちゃんは知ってる?くーかん…、…超能力?」
「…えっ、と聞いたことはありますけど――― よくは知りません。」
つい、嘘を付いてしまった。
あまり自分から話したくは、ない。
のどがゴクンと鳴る。
―― ちくりっ
今度は本当に胸が痛んだ。
空間認識能力。サッカーのコーチに褒められたあの感覚。昔のことを思い出す。何か関係があるのだろうか?
「えっと、簡単に言うと、例えばラジコンなら操縦するとき、もちろんラジコンに自分が乗ってるわけじゃないんだけど、乗ってる目線になって操縦できる。今回のことだとそういう意味なんだけど…」
それを聞いた須川先輩は余計にこんがらがってるようだ。首がさらに傾いて今にもモゲそうだ。
「う~ん、わたしも上手く説明できないな…… よし、論より証拠!実際に試してみよう!そうすればスーちんが見間違えただけだったのかどうかも判るし」
そう言うが早いか、仁科先輩は部屋の隅に置いてあった、スーパーの買い物カゴようのうなものを持ち上げた。
中には朝見た黄色いパイロンがいっぱい。
なるほど。アレに片付けるのか。
――――――
「じゃあ、とりあえずこれぐらいでっと。」
「え~8の字~!?もっと面白いことやろ~よ~」
須川先輩がぶーぶー言っているが、仁科先輩は赤いコーンを二つ。5メートル間隔ぐらいに置いた。
部室から出てすぐ横の外階段へ通じるドアを出ると、今朝の舗装スペースだった。これは便利だ。
「まあまずは確認だよ。じゃあスーちん、模範演技をよろしく」
「は~い…」
今朝とは違う、黄色いラジコン。CMや街中でよく見かける少し小さめの乗用車の形をしていた。あんな普通の車もあるんだ。
そう思っていると、最初渋っているように見えた須川先輩が走らせ始めた。機嫌よく。
仁科部長の人心掌握力?を垣間見た気がした。
「…とこんな感じに、ポールの周りを8の字に回る基礎練習なの。簡単そうでしょ?」
そう言いながら須川先輩から取り上げたプロポが私に渡された。
途端に、おもちゃを取り上げられた子供みたいに分かりやすくシュンとする須川先輩。本当に分かりやすい。
それにしても素人目にみても、やはり上手だ。
寸分たがわず同じ「8」の形をキレイに描いて走る。
シュイーーンっ キュー シュイーーンっ キュー
一定のリズムでアスファルトをゴムが蹴り付ける音が奏でられる。
見た目は可愛くみえるほどの普通の乗用車のラジコンなのに、とても機敏に走り回る。
思わず見とれてしまう動きだが、私はまず今、出来ることをしよう。
「…それでは、行きます!」
左手のアクセル固定!ハンドルに集中!
一定のスピードで右に~左に~
と赤いコーンを回っていく。
うん、大丈夫だこれならイケる!
「……わぁっ本当だ~」
「デショデショ!嘘なんか言ってないって」
なにか騒がしいお二人。
「じゃあ関谷さん、今度はこっちに立って、走らせてみて!」
仁科先輩に今度は2つのコーンをななめにみるような位置に連れてこられた。
…?しかしやることは一緒だ。
しゅるるるるー
速くはないがこれなら出来る。
しかも今朝の蒼いスポーツカーよりも、気持ち簡単な感じがする。
2度目だから慣れたのかな~?
「なるほど~初めてでコレは上手だね!」
「ねっ!凄いでしょ才能あるよね~」
何故か自慢げな須川先輩。
しかし二人が何に感心してるのかよくわからない。
―――――
「あのね関谷さん、普通初めての人は、車が自分から離れていく時と戻ってくる時でハンドルが逆になっちゃうんだよ」
「そうそう!それがくーかん超能力!」
略し過ぎです須川先輩。しかも間違ってます。
「でも関谷さんは、見る角度を変えても全然間違わなかった。初心者はこれがなかなか出来ないんだよ~」
……?よくわからない。
「えっ、でも右に行きたいから右に切って、左なら左に切るだけですよね???なにか難しいことなんですか?」
目を丸くするお二人。
「こ、これは…」
「天才肌?というかは天然?なのかなあ…」
「まあでも、出来るってことは凄いことだよ!」
またなにかコショコショ話している。
何故かムッとする。
「それよりも、スピード上げると全然うまく行かないんですよ…どうしたらよいんでしょう?」
左手を握り込む。
しゅいーんと音が上がりスピードが増していく――
ココだ!とハンドルを切る…
ぱっっかーーん
赤いコーンよゴメンなさい。
コーンの芯を見事にヒット!その飛距離記録は約5メートルだった…
「やっぱり初心者はこうじゃなきゃ可愛くないよね~」
須川先輩が笑いながら私の頭をかいぐりかいぐり。
「むうっ…先輩、私のことからかってるでしょう!」
「そんなこと無いよ~カワイイカワイイ」
ナデナデ。
ムッとするような嬉しいような恥ずかしいような…なんとなく困ってしまう私。むぅー
「関谷さんはちゃんとブレーキ、減速することを覚えなきゃだね~」
仁科先輩は真面目にアドバイスをくれた。
「スピードを出した場合は、曲がる前にしっかりブレーキ。ブレーキって言ってもスロットルを戻すだけである程度はスピードが落ちるよ。」
スロットルってなんだっけ?まあ文脈からすると左手のコレか。
「自転車でもスピード出したままは曲がりにくいでしょう?スピードを落としてからの方が小回りも効いて速いんだよ!」
なるほどよくわかった気がする。流石部長。
「それか一気にバーっとリアを流してギュッとまっすぐ立ち上がれば…」
「スーちんはちょっと黙ってて。」
漫才のようなやり取りが頭上で繰り広げられている。
よしっ、とにかく分かった。
私はまだ頭上に置かれていた先輩の手を軽く払うようにして意気込む。
「わかりました!それがこの基礎練の目的なんですね!!!私、頑張ります!」
転がっていったコーンを取りに小走りしながら思う。
はじめてのことなんだから、出来ないことなんて一つ一つクリアしていけばよいのだ。
それから電池が切れるまで(バッテリを1パック使ったという言い方をするらしい)
スロットル(須川先輩は分かりやすいようにとアクセルと言っていてくれたらしい)
ブレーキに意識を向けながら走り込んだ。
時に須川先輩が応援して励ましてくれ、時に仁科先輩がぴしっと注意してくれる。
なんだか二人がスロットルとブレーキみたいだな…
となんとなく思った。口には出さなかったけれども。
――― そして、うまく誤魔化せたかな?とも思った。
少し、胸に痛みは感じたけれども。
第2章をお読みいただきありがとうございました。
幼馴染ふたりの「スロットルとブレーキ」という関係性など、この3人の空気感を楽しんでいただけていれば幸いです。
明日の夕方18時更新の第3章では、ヒロが胸に抱える「ちくりとした痛み」――彼女の隠された過去と、放課後に見かけた「テニスをしていた少女」が物語に絡み始めます。
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