第18章 たいいくさい!【エピローグ前編・一歩ずつの成長】
毎日夕方18時に更新しております。全2回にわたるエピローグの【前編】をお届けします。
あの激闘のレースから夏休みが終わり、RC同好会にも2学期がやってきました。相変わらず賑やかな部室に、宮崎先輩が持ってきた「文化部対抗リレー」のお話です。
あけ放たれた窓の外から、遠くかすかに聞き慣れたセミの鳴き声が聞こえる。
その音を聞くとより一層、暑さを感じるような気がするのは私だけだろうか?
「それにしても…こう暑いと何もやる気が起きないねえヒロちゃん…」
須川先輩は、顔の前になにやら20センチ角ぐらいの小さな扇風機のようなものを当てて涼んでいる。(聞いたところによると、モーターを冷やす扇風機だそうだ)
「そうですね…夏休みは凄く楽しかったですし ♪ 急に2学期始まってもなかなか気合は入らないですよね~」
そう。ついに夏休みも終わってしまい授業というものが始まってしまっている。学生なので当たり前なのだけれども。真夏の頃に比べれば少し涼しくなったような気がしないでもないが、遊び疲れて燃え尽きたせいか?なかなか授業に身が入らない苦痛の時間を乗り越えて、今、いつも通り私たちは部室に集まっていた。
「夏休み…あの灼熱の遠征バギーチャレンジ編!とか、真夏の祭典~部内対抗3時間耐久レース編!とか本当に楽しかったねえ ――― 興味がある人はドラマCDで是非聞いてみてね!」
仁科先輩が謎のカメラ目線をしている。また何か変なことを言い出した…
「なんですか先輩、そのドラマ…しいでぃい?って。なにか平成を通り越して昭和の香りがする感じですね。」
時々仁科先輩は誰にも判らないようなことを言う…さすがに私ももう慣れたけど。そんなものがあるわけ無いじゃないですか!
ガラっ!
そこに勢いよく部室のドアが開いた音がした。見なくても誰が来たのかもちろんわかる。
「ちょうどみんな集まってるね!早速、ものは相談なんだけど…」
宮崎先輩はこの暑さの中でもひとり、元気だ。
「え~~」
なにか嫌な気配を察したのか、内容を聞く前に先に須川先輩が反応していた。が、気にせず宮崎先輩は話続けた。
「今度の体育祭の、文化部対抗リレー!せっかく4人そろったんだから出るよね!!!」
――――――
「へーそんな競技があるんですね!」
私は正直なところかなり興味を持って聞いてみた。体育祭の花形と言えばやはり、リレーだと個人的には思っている。
「去年までは部員が人数足りなかったから出れなかったんだよね~ 今年なら関谷さん入れてちょうど4人だから出場できるかなって。」
宮崎先輩はやる気のようだ。が。
「え~~~ 走るのはしんどいな~~~」
須川先輩はずっとイヤイヤと渋っている。先輩が走っているところは何回か見たことがあるが、お世辞にも速いとは言えない走りだった。というか普通に遅い部類だろう。
「部対抗リレーってことは… なにか勝ったら賞金とか出たりするんですか?」
私は気になっていたことを聞いてみた。お兄ちゃんが持ってた漫画なんかではよく、部費をかけての勝負!!!なんてのが鉄板な展開だったことを思い出す。それなら燃える展開だ。
「まさか!そんなことしたら賭博になっちゃうよ…警察沙汰の活動停止だよ」
私の期待を裏切るように、仁科先輩がサラッと教えてくれた。ガッカリ。
「一応特典はあるんだけど… 来年度の新入生歓迎会での、部活紹介。そこでの持ち時間が優遇されることにはなってるんだけどね。」
う~ん、それは嬉しいんだかどうなんだか微妙な特典だ。
私がそう思っていると、どうやら微妙に思っていることが正直に顔に出ていたらしい。宮崎先輩が察して言い始めた。
「あらでも、その特典も大事じゃない?このままの人数だと部に昇格するどころか、いずれこのラジコン同好会がなくなっちゃうことになるじゃない?わたしたちはまだいいけど関谷さんは一人になっちゃうよ?」
「確かに…それは大問題ですね…」
先輩たちが卒業して私一人になったら、それはつまり廃部を意味することになるだろう。それはやはり悲しい、と思う。
「それに ―――」
宮崎先輩の眼がやる気に燃えている。
「出れる勝負事には出たいじゃない!!!?そして勝負するなら勝ちたいじゃない!?」
「…宮崎さんってこうなると止まらないよね~~~」
やれやれといった顔の仁科先輩は半分諦め顔でそう言った。そうなると残りは…
みんなの視線が須川先輩に集まった。その視線に居心地が悪そうにしながら須川先輩も諦めたようだ。
「…しょうがないか、出ればいいんでしょ出れば。でもわたし走るの遅いよ?勝てないよ?」
しかし往生際悪く須川先輩は言い返していた。
「それはわたしと関谷さんがカバーすれば何とか勝負になるかな~と思ってるんだけど。ね!関谷さん!」
そう返答しながら宮崎先輩に急に話を振られた。今度はみんなの視線が私に集まる。
「えっ?ヒロちゃん走るの速いの?」
「えっ…速い…?かな?人並みには走れる…かな?と思うんですけど…」
いきなりだったので思わず濁してしまった。正直な話、自分でも今どれぐらい走れるのかわからない。あれから全力では走っていない。
「そ、それより!リレーのバトンを何にするか決めなきゃだね~ 流石にシャーシは持って走れないし!」
宮崎先輩がうまい具合に話を逸らしてくれた。とは言ってもそもそも話を振ってきたのが宮崎先輩だったんだけども。私もそれに乗っかることにした。
「バトンって…普通のバトンじゃないんですか?」
「部対抗のリレーだから、面白くするために、その部の特徴になるものをそれぞれバトンにする、っていうルールがあるんだよ。吹奏楽部だったら楽器だったり、書道部だったら、筆だったり?」
仁科先輩が解説。いつも通り、解説役が似合う(失礼)
「ガチで行くならバッテリーがいいけど…見栄えは良くないよね…」
宮崎先輩も見栄えとかそんなところは気にするのか!と少し驚いた。
「そうなると…プロポ?」それしか残ってないねと仁科先輩。
「それしかないね…というわけで、ココはわたしの7〇XRの出番ね!この美しいフォルムで最高のカッコよさ!勝つための高度なセッティングを、レーシーな領域へと昇華させたこのプロポで勝利を確実につかむ!ってね ♪」
宮崎先輩にしては珍しく、セリフが長い。なにかこだわりがあるようだ…
むくっ
それを聞いて今まで机に突っ伏して拗ねていた須川先輩が起き上がった。
「いやいや、それはどう考えてもわたしの〇17がいいに決まってるでしょ?通信速度が2倍になることで世界最速レスポンスを達成したプロポがリレーでも最速な結果を約束されるに決まってるでしょ? それに何といっても軽いし!!!」
珍しく須川先輩までセリフが長い!
「あらでも、そんなプロポ、タッチパネル設定してる間にリレーが終わっちゃうんじゃないの?いつも大変そうですもんね~」
「ぐぬぬ、そっちこそ、営業不振になって通販ショップ部門がつぶれちゃったりして大変なんじゃないの~?」
「そ、それは関係ないでしょ!」
あわわわっ、なにか口喧嘩に発展し始めた!?しかも私にはよくわからない内容で…一体どうすれば?
そうだ!こういう時こそ仁科先輩の部長の力を発揮できるはず!!!?
私が仁科先輩に視線を送ると、それに気づいた先輩が任せときなさい!!!と言わんばかりにキラーンっっとメガネを光らせた。流石部長!頼りになります ―――
「す〇さんか〇さんふたりとも待ちなさい。そこは間をとってこのEX-N〇XTを ―――」
「「それは持ちにくいからダメ!」」
即座に同時に断られた。この二人仲がいいのやら悪いのやら…
「え~~じゃあM〇-8…」
「「もっとダメ!」」
二回断られてしょぼんとする仁科先輩。駄目だこれははやく私が何とかしないと……
「あっっでも!リレーのバトンなんかに使ってもし落としちゃったりとかしたら液晶画面とか大丈夫ですかね???」
ふいに思いついて私は声を上げた。
……結果は!?
ピタリとやむふたりの言い争い。
「…わたしは落とさない自信があるけど、確かに今回は遠慮しようかな… 須川さんどうぞ?ソレでバトンということにしよっか?」
「えっっっ!?わたしもなけなしのお小遣いで買ったばっかりだし…」
「じゃあ今度こそ、このM〇-8を…」おそるおそる仁科先輩。
「「どうぞどうぞ!…とは言いにくいなあ流石に。」」
何故そこまで声が合うのか。やはりこの二人、実は仲が良いよなあ…
そしてまた断られて落ち込む仁科先輩。
そうするうちに、私は部室のすみっこにずっと転がしっぱなしだったひとつのプロポに気が付いた。
ずっと前から使われずにおいてある、たしか初心者向けのプロポ…?
「あっ!!!じゃあこれなんてどうですか!?え~と、ふ、〇ぁいん…ス〇ック…?」
私は書いてあるアルファベットを読み上げた。
「「「ソレだ!!!」」」
今度は3人の声が揃った。
これで無事、リレーのバトン問題は解決されることとなった。めでたしめでたし。
◆◆ 登場するプロポ名は架空の存在です。実在する企業や各社の商標とは一切関係ありません ◆◆
――――――
そのあと。仁科先輩と須川先輩は暑~いと部室からなかなか出てこないので、宮崎先輩と私ふたりでいつもの場所にパイロンを並べて準備していた。それにしても本当に暑い。
不意に、宮崎先輩に聞かれた。
「そういえば…関谷さん、足は、大丈夫なの?」
……!?
えっっ?
「なんで、そのこと…あっっっ」
不意打ちだったので、ついうっかり言いかけてしまった。これではバレバレだ。部の誰にも、この学校の人の他の誰にも話してない。何故、宮崎先輩が…知っているのか?
「…どうして、宮崎先輩は、私がケガしてたこと知ってるんですか?」
正直に聞くことにした。
「う~ん、まあ、何となくだったんだけどね。わたしも昔テニスを本格的にやってたから。足を怪我して、隠してる人の歩き方ってのがなんとな~く、分かっちゃんだよね。」
宮崎先輩はぽつぽつと話し続けた。
「あまり聞かれたくないだろうしと思ってたんだけど、そんな歩き方だったのも5月の最初のころだけで最近は全然普通になってたから。すっかり治ったんだな~って思ってたからついさっきみんなの前で言っちゃって… でも走るの速いんでしょ?普段の動き見てたら大体わかるんだよわたし。」
「……宮崎先輩って、なんだかすごいですね。」
なんだか完全に見透かされてたみたいでびっくりだ。
「痛みとかは全然ないですし…走れると思います。速いかどうかはわからないですけど」
「そう。それならよかった。あ~、わたしがみんなを誘っちゃったし、走りたくなかったら悪いな~と思って。先に確認しとけばよかったね?ゴメンね…」
「いえ、大丈夫です。私の方こそ気を使わせちゃってスミマセン」
「え?いやいやそんなこと」
……
セミの鳴き声だけが響いていた。
すっかりパイロンも並べ終わってしまった。
……
「じゃ、リレーもほどほどに楽しくやりましょうね!別に練習なんかもないし、半分お祭りみたいなもんだから。ココの体育祭自体が。」
宮崎先輩が沈黙を切って話しかけてくれた。
「そうですね!私も出来る範囲で頑張ります! じゃあ、そろそろあの二人も呼んできましょうか?」
「来るかな~あのふたり?」
ふたりで笑いながらで校舎裏を後にした。
季節は変わりゆくし、私の心もカラダも、ドンドンと変わっていく。成長もしていく。
ずっと怖がってばかりではいられない。
私は足に力が入るのを確認しながら、一歩ずつ先輩たちが待つ部室へと足を進めた ―――
第18章をお読みいただきありがとうございました。
唐突に思われるかもしれませんが、プロットの段階から、エピローグは体育祭の話を描く!と決めていました。一歩ずつ前に歩き出すヒロの成長を感じていただければ幸いです。
次回の第19章をもちまして、本作は本当に【最終回】を迎えます。明日の夕方18時更新、グランドフィナーレとなります。彼女たちの不器用な青春の行く末を、ぜひ最後まで見届けてあげてください。




