第17章 決着、そしてそれから…【青春と尊いの大団円】
毎日夕方18時に更新しております。全19話中のついに17話、クライマックスです!
激闘のファイナルラップ、チェッカーフラッグを受けるのは誰なのか。そして、レースの後に訪れる、少し甘酸っぱくて騒がしい彼女たちの「それから」を、どうぞ。
楽しくて幸せに走っていたような時間もやがて終わりを迎える。
今、何周目なのかもわからなくなってきた。ついさっきまで心地よかった風が、今は少し肌寒さを感じる。
集中力の限界だ。息が続かない ―――
特訓のときも店長さん相手だとせいぜい数周しか持たなかった私の能力。
須川先輩の蒼いM06との距離が少し開いてきたようだ。まだ、まだこのままついていきたいのに…
私が限界を感じ始めた、その時、
――― 異変に気付いた。というか音が聞こえた。
「わっっ」パサッッ
須川先輩の声???
そして視界の手前の端から何かが入ってきた。小さい…猫?いや違う。
蒼い小さななにかがコースの中に風に吹かれてコロコロ転がっていった…アレは?
「えっっっ何!??」
宮崎先輩の驚く声。
集中力の落ちつつあった私の眼にかろうじて見えた光景は ―――
間の悪いことにちょうど私たちが突入しようとしていたコーナーに飛び込んできた蒼いなにか。先頭の宮崎先輩のM07はかろうじてアウト側に膨らんで避けた。
すぐ後ろの須川先輩がインから避けようとして…
「わわっっっ前が見えな――」
「あっ」
私も同時に声が出た。
須川先輩のM06はインに入りすぎてパイロンを踏んでしまった…少し小ジャンプしたかのようなマシン。そしてその着地点には ――― 膨らんだアウトから戻ってきた宮崎先輩のマシンが!!!
―――――― かっしゃーーーんっ!
時間が止まったかのような大クラッシュ!
宮崎先輩のM07の横っ面にまともに正面からぶつかってしまった須川先輩のM06。2台とも重なり合うように転がっていった…少し離れ気味になっていた私はその脇を何とかすり抜けることができた。
宮崎先輩のマシンは!!!?横転した状態で止まりそうに…
「くっっ」
隣で切羽詰まった声!倒れた方向にステアリングを切ってスロットル握れ!って前に聞いたような気がする――
ぱたんっ
何とか宮崎先輩のマシンはその四輪のタイヤを地につけたのだった。
そして須川先輩は!!!?
「あああああああうぅ~~」
気が抜けるような悲鳴とともに、須川先輩のマシンが車の屋根を軸にくるくる回っているのが見えた…ステアをパタパタしているところまでが見えてなんとなく物悲しかった ―――
「あっっ…ゴールゴールッ!終わったよゴールだよ関谷さん!!!」
そこに慌てた声の仁科先輩のコールが告げられたのだった。
「えっっっっ!???」
ゴール!?20周?だったの今?
私のM06ももうストレートを終えて第一コーナー回ったところでようやく止めることができた。プロポを握る指が震えている。なにがなんだかわからない…
少し遅れて宮崎先輩のマシンもゴールラインを超えて、私のマシンの少し後ろで止まった。
そして、くるくる回っていた須川先輩のマシンも、その回転がちょうど止まった。
そしてその横に転がっていたものは… 蒼い…布のような?あれ?アレは…
その時、須川先輩が自分のマシンのほうに急に走り出した!それこそ鬼気迫る勢いで!前に見た時の走りよりも必死に速く走っているように見えた ――― 実際は前と同じ全然遅いスピードだったんだけども。
そして自分のマシンのところにたどり着いたかと思いきや、転がっている蒼いM06には眼もくれずに、その横の蒼い布――先ほどまで髪を留めていた、シュシュを大事そうに両手で拾い上げた。
少し遅れて仁科先輩もそこにたどり着いた。
「……切れちゃった?ふーちゃんのシュシュ駄目になっちゃったのかな…?」
「ん、見せて?…大丈夫。中のゴムが切れたか、それか緩んだだけだよ。よく考えたらもう結構古いからねソレ…簡単に治せるよ。…ほらそんな泣きそうな顔しない、大丈夫だから。」
「な、泣いてなんかないしっ!!!」
――――――
「え~と、つまり…?」
私一人、あまり状況がつかめてないかのようにポカンとしていた。
「関谷さんが1位、わたしが2位、でレース終了ってことだね…」
同じく隣で立ち尽くしていた宮崎先輩。
そんな馬鹿な。こんな幕切れでよいのか。
「今のはちょっとアレだから、もういっ―――」
宮崎先輩がそう言いかけたが、
「くやしーーーーーーっ!じゃあふーちゃんのせいじゃん!ちゃんと留めてくれてると思ってたのに!風で前髪ばさばさして全然見えなくなったんだよ?!!!」
子どものようにプンスカしている須川先輩。はじめてあんな表情を見た気がする。
「何言ってんの!?レースにアクシデントはつきものデース?そもそも他の二人はちゃんと避けたんだし。避けれなかったスーちんが悪いし宮崎さんに魚雷したのもスーちんだしシュシュを飛ばしたのもスーちんだしそれまでに追い抜けなかった展開だったのもスーちんが遅かったからじゃん。スーちんの負けでーす。」
「ぐぬぬ……」
まるで小学生のように言い争っている。実に楽しそうだ。
隣では宮崎先輩が出しかけた声を引っ込めていた。
「ま、わたしは一度も前を譲ることもなかったしね。今回は完勝ということにさせてもらおうかな。」
一応、満足しているようだ。
私は ―――
「え、ちょっとちょっとちょっと!待ってください!コレで私たちの勝ちってことで本当にいいんですか?」
思わず大声をあげてしまった。
「いいも何もないじゃない。関谷さんだってあんなに最後まで食らいついてなかったらトップには届かなかったわけだし。堂々の1位。宮崎さんが2位。スーちんがビリ。これで今回の真剣勝負のレース結果は確定ね ♪」
仁科先輩たちも言い争いながらコッチに歩いてきていた。須川先輩もM06を小脇に抱えている。
「むーーー。悔しいけどふたりとも速かったよね…それにしても!!!」
須川先輩がプロポとマシンを地面に置いた。もしや、と思った瞬間 ――
がしっっっ
手を握られた。ビクッとしてあやうくプロポを落としそうになるところだった。
「ヒロちゃん凄い凄い~~やっぱりわたしが言った通り天才じゃない!?いつの間にあんな速くなったの?すごいピッタリくっついてきたよね?わたしがズサーって走ったらズサーって付いてきたしあんなカッコよく走れるようになっててビックリだよ~~」
手を握ったままぶんぶん振りながら捲し立てられた。さっきまで震えて少し冷たかった指先が汗ばんでいるように感じる。
「いえ、まあ、ちょっと、あの、み、宮崎先輩と特訓に行っていて…」
いつかのようにまたしても、返事が拙くなってしまう。思わず顔を横にそむけてしまう。熱くなった顔に風が心地よいように感じた ―――
――――――
「え~?そんな能力あり?」
仁科先輩が不満そうに言う。
「でも、本人もそう言うし、サーキットの店長さんにも協力してもらって検証してみたんだけど、どうやらホントっぽいんだよね~ズルいよね~」
宮崎先輩が笑いながら解説してくれていたのだが仁科先輩は半信半疑のようだ。
「まあでもあの走りを見せられちゃうと…ホントなんだねえ。オカルトみたいだねえ…」
またメガネを光らせて怪しい笑いを仁科先輩がしていた。きらーん。
「へーーすごいすごいね~ なんだっけ?空間…何とか能力のたまものだね!ヒロちゃんカッコよかったよ!!!」
目の前の須川先輩がまだ手を握ったまま、こちらをじっと見つめたまま話しかけてくる。顔が近い…眼がキラキラしている ―― シュシュで留めてないので風に吹かれたサラサラの髪の毛が右へ左へと踊っている。いい匂いがしてくる…本当にズルい。
「そうだ!!私、せっかくもう一つの勝負法を考えてたのに!!!」
私は思い出して手を振りほどいて叫ぶように言った。手を離された須川先輩の顔が少し悲しそうになってちょっと私の胸にも罪悪感を感じさせたが、続けた。
「普通のレース勝負で勝てると思ってなかったから…これならイケるかも?と考えてたことがあるんですよ!」
「なに関谷さん、そんなこと考えてたの?何も言ってなかったじゃない。」
宮崎先輩も不思議そうに聞いてきた。
「フフフ…その勝負法は… こうです!!!」
私は3台ともをスタートラインに、『後ろ向きに』並べて置いた。
「後ろ向き…バック走行レースです!!!」
「「ええっ?バックでレース?」」
ふたりともが同時に驚きの声を上げた。
練習していて何となく気づいたことだが、私の空間認識能力は、バックするときのステアリングの向きにも適応?されるようだ。
「それじゃあ…とりあえず、3周ぐらい勝負で…スタートです!」
「「え?ちょっとまって…」」
同時に声が出て戸惑うほかのふたり。
ふたりのマシンがよろよろ動き出したのを見てから私は余裕のスタート。
バック走行だともともとスピードも全然出ないがそれは問題ではない。私はいつも通り何ごとも無かったかのように、スルスルコーナーをクリアしていく……
「えっっ?ちょっっこれは???」
ヨロヨロ蛇行する宮崎先輩。
「…これは!!コッチだ!!」
ぱーーーーんっ
叫ぶと同時に宮崎先輩のマシンにまた体当たりする須川先輩。
「ふたりともお先で~~~す」
あっという間に一周してラップしていく私。非常に気持ちがいい。
「これは3周するまでもないね…」
少し部室に戻っていた仁科先輩がやってきて呟いた。その片手には…
「じゃーーん!わたしもこの2週間でようやくニューマシン組んだよ!M08様のお出ましで~~す!!!」
「よ~し、じゃあこの勝負もヒロちゃんが勝ちということで ♪ 皆で普通にチキチキしよっか!!!」
須川先輩はバック走行を早々にあきらめて、くるっとスピンターン。スタートラインにいち早く自分のマシンを到着させていた。
「M08の走り…わたしも興味ありますね…」
それに続く宮崎先輩。
「じゃあヒロちゃん、チキチキしよっ!」
満面の笑顔の須川先輩に、私もハッキリと答えた。
「ハイ、須川先輩!!!」
――――――
それから夕焼けであたりが赤くなるまで、バッテリーの交換時間も惜しむように笑いながら皆で走り回った。
仁科先輩がまた部室から取り出してきた、4系統!とかいう充電器もフル回転。
私がまた後追いの走りをして見せたり(そして相変わらず先行ではうまく行かないところを見せつけたり)、
新車のM08を皆で代わる代わる試走してみたり(それにしても安定感のある走りで1台手に入れたばかりなのになんとなく羨ましく感じる。…これが噂に聞く沼と言うやつか)、
「皆のもの、こんな良いタイヤもありますよ~ ♪」
と、仁科先輩がラリータイヤとかいう四角くでこぼこしたタイヤを人数分持ってきて装着してはツルツル滑って走って悶絶して大笑いしたり、
本当に楽しい時間はあっという間にたってしまった。
…最後に心残りだったことを、私は伝えなければならない。
ちょうど仁科先輩はどこか壊れたというパーツを探しに部室へ、宮崎先輩もプロポの充電~と言って充電器の方に行っており、今、走っているのは私と須川先輩のふたりだけだった。
いつかの夕方のように、私は前を向いて操縦したまま、隣の須川先輩に話し始めた ―――
「…せんぱい、あの、私、」
「な~に?ヒロちゃん」
この二週間になにも無かったかのように、いつも通りに話してくれる須川先輩。本当に優しい…
「あのっ!スミマセンでした!生意気なことを言ってしまって…」
――― すこし、静寂が続いた。
「…えっと、どの話?」
「えっ?」
本気でそう言ってるのか?判りかねた。拍子抜けだ。
「あの、2週間前の時………」
うぅ、自分で自分のやったことを説明するのはちょっと恥ずかしい…
「なんだそんなこと! わたしの方こそ悪かったと思うし全然忘れてたし気にしてもなかったよ…それより!」
それより?他に何かしてしまっていただろうか?
「それより、わたし、ヒロちゃんに嫌われちゃったかな~ってそればっかり気になってたよ… いつも人との距離感がおかしいよ!注意しなよ!ってふーさんに注意されるんだよね…わたし、そういう空気読めよ!みたいなのが苦手で、また失敗しちゃったのかなって―――」
「いえ、先輩は、全然そんなこと無いです!嫌ってなんかいません…私は、先輩のことが、」
「わたしのことが…?」
ふと気付くと、いつの間にか二台のM06は動きを止めていた。
ふたり並んで正面を向いていたはずが、須川先輩はこちらに振り向いて、少し首を傾げて覗き込んでいた。思わずバッチリ眼があってしまった。
「!!!っえっ!わ、せ、せんぱいの…」
ナンダコレ???何が起こっているのか?
相変わらず先輩の瞳はキラキラとキレイで吸い込まれるように私の眼も全くそこから逃げられなく夕焼けにキラメクサラサラした髪の毛がキレイに輝いていて、
ゴクンっという空唾を飲み込む自分の喉の音が鳴り響いた気がした…
ダメか?もうダメなのかこれは…
ナニガナンダカ全く判らないまま私はまるで蛇に睨まれた蛙、まな板の上の鯉のように硬直して、動いているのはものすごいスピードで高鳴っている心臓だけのような錯覚を覚えながらその艶やかな先輩の唇が動くのがかろうじて視界の中に捉えてしまい、
「わたしのことが?、―――」
駄目だ!これ以上は!!!視てはいけない!と、思わず眼をギュッと瞑ってしまった。当たり前だけど、これでなにも見えない ―――
…あれ?でもこれは…余計に!!!この姿勢は不味いんじゃあないのか?
眼を開けられないまま、両手は胸の前でぎゅっと固く握りしめ……
ジャリ、と先輩が1歩近付く音が聞こえた。
ああっ、お父さんお母さん今までありがとう、私はもう………
「なにやってんのアンタたち…」
「ぎゃああああああああああっっっ!!!」
宮崎先輩の呆れた声が後ろから聞こえて大声で叫び声をあげてたぶん人生で最大最高高度に達するジャンプをしてしまったかもしれない…
うぅ…でも助かった気がする何かはよくわからないけど本当にありがとう宮崎先輩無事生きて戻って帰ってこれました。
そんな私のことはなにも無かったように話し続けている宮崎先輩。
「それにしても須川さん、今回のことは『わたしも』本当にごめんね…『わたしも』色々突っかかるような言動ばっかりだったし、」
えっ!?
「わたし…も!?って言いました今、宮崎先輩・・・?」まさかどこから
「あっ」
「チッ」がさっっ
後ろの茂みから出てきた仁科先輩がツカツカ歩み寄ってきてそして宮崎先輩の襟首をつかんで引き摺っていった。
「じゃあ、わたしたちは急用ができたから、あとのことは二人よろしくね~~~♪」
片手で顔の前で手を立ててごめんね~として引き摺られていく宮崎先輩。引き摺っている仁科先輩のその反対の手には…
スマホが!?
そして私の視界はまたしても捉えてしまった ――― その画面は動画撮影モードだ!!!赤く光る録画中のしるし。
一体何を!!!いつから撮影していたのだぁぁぁ!!!!!!!!!?????????
「スーちん、ちゃんとパイロン片付けてね~~~」
パニックになっている私をよそに遠くから仁科先輩の声が聞こえ、そして私たちはまたふたり取り残された…
一体どうしろというのか…
悩んでいると、須川先輩から声をかけてくれた。クスクス笑いながら。
「じゃ、ヒロちゃん。わたしたちもそろそろ片付けて、帰りましょうか?」
いつも通り。
いつもの須川先輩だ。
「そ、ソウデスネ……」
私一人が空回りしてる感じ。
パイロンを拾い回っていても何か気まずい気がする… 何か喋らなくては!
「あの…そういえば!もうすぐ夏休みですね!高校初めての夏休みなんで凄く楽しみです!」
サッカー漬けじゃなかった夏休みなんて記憶にあまり無い。本当にそう思ったんだけども、
「…ヒロちゃん…知らないかもしれないけど、その前に期末考査ってものがあるんだよ…」
あ、完全に忘れてた。
そして一気にローテンションになった須川先輩はさらに聞いてきた。
「まさか、ヒロちゃん『も』成績良い、なんてことないよね?」
そんな訳はない。スポーツ推薦で生きてきた人間である。
「あのふたりはズルいんだよ~(泣) いっつも一緒に遊んでるのに成績凄く良くって~~~」
――― 後日談
宮崎先輩「わたし?わたしはまあ、普段からちゃんと勉強してるし。」
仁科先輩「わたしはほら、勉強できそうなキャラでしょ?」
(ホントは、スーちんに合わせてランク落としてまでこの高校に来たんだから楽勝楽勝 ♪)
―――
「大丈夫です先輩!私も全然出来ませんから!」
「なんだ~良かった」良くはない「それじゃ、ヒロちゃんも補習仲間だね!☆」
私だって別に最初から補習を狙っているわけではないのだけれども。
――――――
パイロンを片付け終わる頃にはあたりは薄暗く、空には少し星が見えてきたような気がする。光が瞬いてキラキラしている。
試験のことはさておくとして、これからの高校生活がキラキラと楽しいものになってくれるのだろう!と、その星を見て予感のように直感のようにそう思えた。そんな詩的な想いなんて私にはガラでは無い、と思うけどその時は本当にそう思えた。
「ヒロちゃ~ん、早く!部室閉めちゃうよー?」
「ハイ!先輩、今行きま~す ♪」
私の高校生活はまだ、始まったばかりなのだから ―――
――――――
(あともうちょっとだけつづくんじゃ)
第17章をお読みいただきありがとうございました。
レースが決着し、4人の爽やかな大団円を描けたんじゃないかな?と勝手に思っていますw
ここで◆◆FIN◆◆ …でも良いかな?とも思ったんですが、まだエピローグが残っています。むしろ一番書きたかったのがエピローグの部分でもあったりします。
明日夕方18時からの、全2回にわたるエピローグを、最後まで見守っていただけると嬉しいです。
そしてここまで読んでいただいた読者の皆様へのボーナストラック?的に、17話アフターif【原作者スピンオフ】のR15短編があります
https://ncode.syosetu.com/n5660mm/
あくまでもIF世界の話として楽しんでもらえたらと思います(笑)
もしご興味がありましたらどうぞ~




