第16章 決戦ふたたび!・後編【シンクロするふたり】
毎日夕方18時に更新しております。全19話中の第16話。あともう少しです!
先に行かせた須川先輩の後ろにピタリと張り付き、覚醒した能力を発動したヒロ。果たして須川先輩に通用するのか・・・!?
☆☆ 関谷’s view ☆☆
程なく見えてくる私だけの景色 ―――
先を行くマシンの軌跡が見えてくる。
須川先輩のM06の後ろに沿うように、蒼いラインが視界に浮き上がってきた。
!!!これはっ?
見えた瞬間、ゾッと背中に流れる冷や汗のようなものを感じた。
…このラインに、私は乗れるのか ―――!?
あのサーキットの店長さんに先行してもらった時と同じぐらいか、それ以上の険しいラインだと、本能的に感じ取った。
あとで聞いたところ、あの店長さんはああ見えて昔はラジコンの全日本選手権にも選手として出ていたような存在だったそうだ。ブランクがあるしもう全然だよ?と本人は言っていたが。
ほんの少し油断しただけで、あっという間にズレて置いて行かれてしまいそうだ…
やるしかないっ!
もとより私には、付いていくことしかできないのだから。
昨日まで特訓した時と同じように、その蒼いラインに私のマシンを置きに行く ―――
視えている蒼いラインに自分のオレンジのM06を乗せて同じように走ってついていく。昨日までは単純なことだと思った。簡単にできた。と思っていた。
――― っっっくっ!?そんな?
速いっ!!!
ラインに置こうと思っても少しずつズレていく。遅れていく…
少しずつ私のオレンジのマシンから遠ざかっていく須川先輩の蒼いマシン。手を伸ばしてもドンドン届かない距離になっていく。
ついには須川先輩と離れすぎて、軌跡の蒼いラインがだんだんその色が薄くなっていき、もうほとんど見えなくなってきた…
私の視界の能力の射程距離、それ以上離れるともう真っ暗だ。何も見えなくなる。
走りのどこが違うというのだろう?短いストレートでスロットルを握りこむ指に力が入るばかりで、マシンは全然前に進んでないように感じる ―――
そしてついに、蒼いラインが見えなくなった。
駄目か…コレで終わりだ…?
結局なにもできなかった……
!? そう思った矢先に、蒼いラインの切れ端のようなものがちらっと見えた。
あれ?まだ見える?
先を行く須川先輩の蒼いM06に、ちょっと近づけたのか?
何が起こったのか一瞬分からなかったのだけれども。
一体何が???
理解できないままに走っているとしかしすぐにまた、ジリジリ薄くなっていく…
そしてまた蒼いラインは見えなくなった。焦るばかりで何もできなかった。
しかしまた特定のポイントで、ちらちらっと蒼いラインが視界に覗いた。近づいた?その繰り返し。
その時、須川先輩の蒼いラインがときどき、アウトにインにとマシンを揺らしているのが分かった。何となくだけど。これは…!
宮崎先輩だ!!!
まだ宮崎先輩が、須川先輩の頭を絶妙に抑えて走っていてくれている!!!
須川先輩は、追い抜こうとするためにアウトからプレッシャーをかけたりインの隙を伺おうと、マシンを左右に振っていたのだ。
それが走りのロスになり、私が追いつくための時間を作ってくれていた……
「宮崎先輩……」
思わずつぶやいた。
「………っ、関谷さんっ、イケそう!?」
返事まで振り絞ってしてくれた。もう自分の勝負に徹してくれてもよいのに…
そもそも私が走っていること自体がこの勝負にはオマケみたいなものだ。
それなのに ―――
もちろん自分が抜かれないため、ということもあるだろうけど、ブロックしているということは宮崎先輩も少し、ベストのラインから外している筈。
宮崎先輩の本当の走りはこんなものではない筈だ。私なんかに気を使って貰っている場合ではない。私が足を引っ張ってはいけない。
それだけはあってはならない。
「……先輩…」
いま一度、口から出てしまった。今度は返事がない。
宮崎先輩にも、余裕なんて全くない。
――― 集中だ…精神を―― 研ぎ澄ませ……!
宮崎先輩のために、私が出来ることをしなければ。
優しくしてくれた先輩に、私からお返しするんだ!
そしてそれを須川先輩にぶつけるんだ!!!
☆☆ 仁科’s view ☆☆
風向きが変わった…?
熱戦に気を取られていたが、ふと気づくと後ろから吹き付けるような風が吹いていた。梅雨は明けたかと思っていたがまだ天気は変わりやすいのかもしれない。まあ空を見る分には雨が降ることはなさそうだけど。おっとコールをと。
「14周目で~す」
宮崎さんもギリギリのところでトップを守っているが、さっきからはずっとスーちんが追い抜こうと、右から左からと隙を伺っている。ぶつかりそうなほど、ピッタリと後ろに付いている。今にも抜けそうなんだけど…
わたしとしてはヤキモキする展開が続いていた。
それにしても宮崎さんも凄いな~ この展開ならわたしだったら2周も持たずにミスしてしまうだろう。
そのままのテールツーノーズの展開で周回してまた戻ってきて、そしてそのまま2台連なるようにストレートを立ち上がっていく。
「15周目で~す」
走りゆく2台を左に眺めながら惰性で特に何も考えずにそうラップを唱えた瞬間、
『シュイ―――――――――――ンっっっ!!!』
わたしは完全に忘れていたもう一つのモーター音が唸りを上げていたことに気が付いた。右耳に飛び込んできた!
蛍光オレンジの弓矢になったかのように、一直線に関谷さんのM06がストレートを疾走していた!!!
まさか!?差が広がっていない???
いや違う!追いついて来ている!!!関谷さんとは抜かれてスグに、少し差が開いたはずだ。
序盤の作り上げられたスローペースと違って、今はかなり速いペースで走っているようにわたしの眼には見えていた。スーちんの走りからしてもそうだ。これを追いつくなんて…
走っている間にレベルアップしたとでもいうのか?覚醒イベントがあったというのか???まさかそんなゲームや漫画じゃあるまいし!?
一体関谷さんに何が・・・?
コース奥のインフィールドに入っても、前の2台とさほど離れていない位置で、遜色ないスピードで走り続けている。
遜色がないどころじゃない。コーナーをクリアするリズムがピッタリ同じ、同調しているようにも見えてきた…
――― あの走りは!?まさか!
関谷さんのオレンジのM06がタイヤのスキール音を甲高く奏でながらコーナーをクリアしていく。その動き、走りが一瞬、昔から憧れて眺め続けていたスーちんの走りに重なって見えた。
それぐらいに、通っているライン、そしてそのマシンの動きがピッタリとスーちんと重なっていた ―――
「…あれ?ヒロちゃん!?」
スーちんの訝しがる声が聞こえた。スーちんも異常事態に気付いたようだ。
☆☆ 宮崎’s view ☆☆
ラジコンは精神力の勝負だ!!!
って言っても流石に限界があるよ…
店長さんの言葉を半ば憎らしく思いながら走っていたが、流石にキツイ。プロポを握る指も疲れが出たかのように震えてきた。
最低限度、後ろの須川さんを半台分ほどでブロックする走りを続けてきたが、後ろにも気を使いながら走るのは凄く精神的に疲れる。これならいっそ前だけ向いて自分の走りに徹したほうが最後まで持つか…?
心の底で少しだけ、関谷さんを待っていたい気持ちもあったのかもしれない。でももう限界だ。わたしだけでも逃げ切る ―――
そう考えていた矢先のことだった。
「…あれ?ヒロちゃん!?」
須川さんがつぶやいた。
……まさか?ようやく、来た!!!?
「先輩、お待たせしました…」
次いで関谷さんの声も聞こえてきた。
一瞬目をM07の後ろに送ると、関谷さんの蛍光オレンジのマシンが、しっかり付いてきているのが視界の端に入った。
本当に、このペースにも追い付いてこれたなんて…ほんと、どうかしてるあの子。
少し可笑しく感じた。
気持ちに少し余裕が出来た気がした。本当に頼りになる後輩だ。
よしっコレで…思い残すことなくラストスパートだ!そしてそんな可愛い後輩に最後にプレゼントを。
最終コーナーを回って ~ ストレートへの立ち上がり。
いつもは全開でスロットルを握りこむところ。
…これぐらいなら須川さんも避けてくれるだろうし走行妨害というほどでもないはずだ。
一瞬スロットルを緩める ―――
「っっっ!」
隣で無言の緊張の声が聞こえた感じがした。そして同時にスロットルを握りこむ!
一瞬回避行動をとった須川さんのM06がストレートの立ち上がりに手間取った形になった。
計画通り!
そうこっそりほくそ笑むわたしは少し悪い顔をしてたかもしれない。
ちょっとだけ先に行かせてもらうよ?
そして ―――
「須川先輩っ!もう一度、勝負です!!!」
その一瞬の遅れで、関谷さんも完全に追いついた。
後追いが得意だからっていっても本当に程がある。トレースするだけだから簡単!なんて嘘みたいなこと言ってたけど。
でも本当にここでもやって見せてくれた。
そしてこれからが
「関谷さん、プランBね!」
「プランB!イケます!」
ほぼ同時にふたりで叫んだ。
プランBって言ってもなんてことはない。わたしは全力で走る。そして関谷さんは後ろから須川さんにピッタリついてプレッシャーをかける!
関谷さんは抜くことはできないけど…って言ってたけどレースなんだから何が起こるかはわからない。最後まで諦めずに付いていけばよいのだ。
「じ、17周目ですっ!」
仁科さんの声も少し上ずっていた。いかに須川さんといえども今の状況に少しは動揺しているはずだ。このまま逃げさせてもらう!!!
わたしは少し差を広げた状態のままM07を第一コーナーに飛び込ませていった。
☆☆ 関谷’s view ☆☆
たぶん私の集中力は限界を超えていたのかもしれない。
いつもよりマシンの動きがゆっくりに見える。そして須川先輩の蒼いM06から伸びる蒼いラインもくっきり見える。
さっきは全然分からなかったけど、前を行く蒼いM06の動きが手に取るようにわかる ―――
あっ、こんなところからもう向きを変えている!あっ、もう加速し始めた!…
すぐ前に最高のお手本が走っている。私はそれに必死についていった。
少しでも操作がブレたらマシンがどこかに飛んで行ってしまいそうな不安定さを感じる。
大丈夫だ。まだついていけている。タイヤのグリップが金切り音を上げながら、ぎりぎりアスファルトの路面を捉えている感覚を肌で感じる。
自分の心拍がものすごいスピードで高鳴っているのが聞こえる。眼で見たものとプロポを握る指とそして走っているマシンがすべてが繋がっているかのように感じる。
そして ―――
楽し~~~い!!!スゴイスゴイ!
このスリルと緊張感、そして須川先輩にピッタリついてコーナーを曲がっていけたときの快感!もっとだ!このままもっとイケそう!
そして前を行く蒼いM06の走りを通して須川先輩の声まで聞こえてくるように感じた……
いや違う、目の前を走る蒼いマシンが楽しげにテールを踊らせているその動き、その挙動ひとつひとつが、言葉以上に雄弁に私の脳内に直接語りかけてくるんだ…
(ヒロちゃんすごーい!いつの間にこんなに速くなったんだろう!わたしの走りにピッタリついてきてる!)
――― はい、須川先輩!私、頑張って特訓したんです!宮崎先輩もすごく優しく教えてくれたんですよ!サーキットの店長さんや常連さんも皆優しくて。楽しかったんですよ!
ストレートも全く同じスピードで駆け上がり、コンマ数秒もない差でコーナーに飛び込んでいく二台のM06 ―――
(ヒロちゃんやるな~!じゃあ、これならどうだ~!!!ついてこれるかな~♪)
――― すごーい!須川先輩のM06がほとんど真横に車を向けてコーナーに入っていった!? …え~と、こうかな?こんな感じかな?
きゅきゅきゅきゅーっとタイヤの音を派手に鳴らしながら走っていく二台のM06。まるで踊っているかのように ―――
(スゴーい!…ヒロちゃん、ラジコン、スッゴく楽しいね!)
――― はい!須川先輩!私もです!!!
本当に夢のように楽しい時間。このままバッテリーが尽きなければいつまでも走っていたいと心の底から思った。
いつか感じたような気持のよい風も先ほどから吹いており、梅雨が明けたような青空がドコまでも清々しく心地の良さしか感じない。
それでも…それでももう、終わりの時間が来てしまう。
私、このレースが終わったら、ちゃんと須川先輩に謝らなきゃ…失礼なこといっぱい言っちゃったし。
そして私に手を差し伸ばしてくれて本当にありがとうって……
――― そして一陣の風が吹いた。
第16章をお読みいただきありがとうございました。
後編と銘打ちながら、まだ決着させることができませんでした(笑)。
須川先輩のラインに、ピッタリと重なって走るヒロ。
明日の夕方18時更新の第17章は、ついに真の決着となる【決着、そしてそれから…】をお届けします。4人の青春の決着を、お見逃しなく~




