第13章 とあるラジコン少女たちの話・後編【すれ違う本気と、再生への道】
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前編から続く、二人の過去・後編となります。楽しくて仕方がなかったラジコン。しかし、同世代の少年との出会いと、あるレースの結末が、彼女たちの運命を大きく変えていくことになるのでした・・・
そして年も明けて。
クラスの何人かは、お受験だ~っとずっと大変そうだけど、
それぞれの地元の公立中学に行くことに決めていたわたしたちはいつも通り、遊んでいた。もちろん別々の中学校だったけど、合う場所がサーキットだから関係が無い。
目指せ年末のAメイン!と練習したいところだが、バギーは真冬はオフシーズンになるため、わたしたちは電車で行けるオンロードのサーキットを探してやってきていた。
そこはラジコンショップ併設のサーキットで、いつもの所よりも人が多くて活気があった。冬休みだからかわたしたちと同じぐらいの学生の姿もチラホラ(もちろん男子だけだけど)。
マシンはお年玉で、評判の良い入門キット+少しのオプションを準備していた。
もちろんジャンプ台はないけど、ラジコンはなんでもラジコンだと思った。楽しい~!
こう走った方が速いかな~とかキャッキャしながら追いかけっこして遊んでいた。
たぶんだけど、お互いに恋とか好きとかどうこうとかの感情ではなかったんだと思う。
2歳年上のAくんというひとりの常連中学生男子がそのサーキットにはいた。
最初は、今までよくいた大人たちと同じように、挨拶して、どんな車かとか見て、珍しい女子を見学するように話しかけてきた。いつもどおり、よくあることだ。
今までと違ったのは、その年齢の近さぐらいだったと思う。
それもあってか、あっという間に、スーちんとAくんは仲良くなっていた。
「スーちんはちょっと握りすぎだよ?まだまだだね~」
出会った初日からAくんはスーちん呼びで並走して遊んでいた。
「お~Aのアニキ速いっすね~!」
スーちんに至ってはアニキ呼ばわり!
「でもなかなか筋がいいよ!…この春から中学生だっけ?や~子どもはやっぱりうまくなるのが早いな~」
「アニキだって中学生の子どもじゃないですかwww」
スーちんにしては、今まで身近にいなかった同年代でさらに自分より速い相手。
いつも以上に楽しくラジコンが出来ていたんだと思う。
別に約束したりはしなかったけど、わたしたちが休みの日にサーキットに行くと大抵Aくんもいたので、一緒に遊ぶことが多くなった。
そして数ヵ月後。
「ふたりとも、ココのレースにでるんだろ?っていうか出ようぜ!楽しいよ?」
春休みが終わるころ、Aくんにわたしたちはこのサーキットで行われる月例レースに誘われたのだった。
スーちん的には、そろそろバギーが走りやすくなる(まだこの季節は寒いと霜でオフサーキットが朝べちゃべちゃになりやすいのでスーちんは走らせにくそうだった)ので、そろそろ地元サーキットでバギーがしたそうだったけど、ま、一度出てみよっか?ということでレースに参戦することとなった。
――― 後で聞いたところによると、Aくんはそのサーキットでは割と小学生ぐらいから鳴らしてた存在だったそうで、今では大人に混じっても全然遜色ないレベルで走っていた…負けじと頑張っていたらしい。
月例レースともなれば大人が3~40人は集まるこの大きいサーキットのレースでも、AメインとBメインを行ったり来たりするぐらいの実力だったそうで。今年こそはAメイン常連に!そして表彰台だ!
と頑張っていたのだそうだ。
「初心者クラスもあるけど…レギュ問題ないからG〇クラスに出るだろ?スーちんぐらい走れれば大丈夫だよ!仁科さんは…まあがんばれ」
「Aくん、それはひどいですよ~」
「じゃあアニキ、レースで勝負ですね!!!」
「俺はAメインに入る(はずだ)から勝負にはならないかな~ 決勝で一緒に走ることは無いだろ ♪」
「なにお~まけるもんか~」
G〇クラスとは、使用できるシャーシやモーターのパワーなどレギュレーションで厳格に決められていて、トップスピードの差が少ない、イコールコンディションでのレースが楽しめる人気のクラスだった。
その頃、わたしたちのマシンは始めこそ入門車だったけど、足回りサス回りなどバージョンアップ(沼に入ってるよと言われたが)して周りと遜色なく走れるぐらいには仕上がってきていた。
そしてわたしも、まあせっかくのレースだし、と気合を入れてスーちんのマシンをメンテしたものだった。
「じゃ、ふーちゃん、これお願い。」
「はいはい、」
いつもの儀式。
スーちんの髪の毛をギュっとまとめ、蒼いシュシュでとめる。
「ハイ、これで完璧。出来たよスーちん!」
「よ~し!やるぞ~!」
「おっ?どうしたんだ?そんなチョンマゲみたいにして?」
それを見て少し笑うAくん。
「わたしはコレが気合が入るんですっ!」
レース前までは和気あいあいと。
でももちろん、レースでは皆、本気になってしまう。そういうものだ。
でもわたしたちは、つまるところ、まだまだ子どもだったのだろう。
もちろん今でもまだ子どもだとは思うけど。
――――――
Aくんは、頑張っていた。
予選一回目結果。
順位タイムが印刷された掲示板を皆、穴が開くほどに見つめている。
「くっ、今のままだと、ギリギリAメインぐらいか…やっぱりあそこでのミスが痛かったな…」
Aくんはべストラップはかなり良かったが、細かいミスがあって伸び悩んでいたようだ。
「でもアニキ、ミスなくイケたら上位に届きそうですよ!」
「バッカだなスーちん、それが出来たら苦労してないよ。…どれどれ、スーちんは…おっ!今の感じだとBメインに残れそうじゃん!」
「いやーなかなか難しいですね~ …そういえばふーちゃんは?」
「…聞いてくれるな…」
わたしは下から数えた方が速かった。まあこんなものだ。
そして運命の予選二回目 ―――
「…っウソ…だろ……」
Aくんは立ち尽くしていた。
余りタイムアップは果たせず。惜しくもB-1の予選結果となった。
それよりも、
A-5 須川千絢
スーちんは徐々に調子を上げていたとは言え、予選二回目はノーミスの稀に見る快走!見事のAメイン入り、だったのだ。
そこに最高に間の悪いことに、仕事で出場はできなかったウチのパパが応援にやって来たのが最悪で。
「おっ!風花ここにいたのか!なんとか決勝前には間に合ったよ…
どれどれ、風花は…う~ん、相変わらずイマイチだなあ…
スーちんはっと…、おっ!流石Aメイン入りか!さっすが年間チャンピオンは違うね~~~」
場が凍り付いたのに気が付かなかったのはもちろんパパのみで。
「年間…チャンピオン!?」
Aくんはスーちんをギロッと睨み付け…
「おいっ!おまえちょっとコッチこいよ。」
「ちょっ…そんなに引っ張ったら痛いよアニキ…」
「アニキとかふざけんなよ!」
人混みから離れ、言い争うようにする2人にわたしは近付けなかった。
遠巻きにしか聞こえなかったし、スーちんも詳しくは教えてくれなかった。聞けなかった。
「……騙してたのかよ………なふりして……バカにして………」
「……そんなこと……わたしは……」
ふたりの言い合いは切れ切れにしか聞こえなかった。
「もういいよ!あーあ、バカらしくてやってられねーよ!」
Aくんはスーちんを突き放すようにしてその場を立ち去っていった。
「スーちん、大丈夫!?」
「…誤解…なのになあ…」
いつもラジコンしている時は勝っても負けても楽しそうにしていたスーちんが、その時だけはしょんぼりした顔をしていた。
そんな最悪の状況でも決勝は時間通り行われ…
AくんはBメインのトップからスタートも、ミスしまくりで下位に沈み、
Aメイン決勝のスーちんもただ淡々と走っただけだった。ただ走っただけで、順位もどうだったのか今となっては覚えていない…
―――――
それから、Aくんはサーキットに姿を表さなくなった。
わたしたちも、なんとなく行きにくくなり、バギーの季節になったのもありそれからはそのサーキットには顔を出さなくなった。
風の噂では、Aくんはそのままラジコンを辞めたのでは無いかな?と聞いた。スーちんの耳には届いて無いと思うけど。
でも、それから、スーちんの走りは精彩を欠くようになった。
「う~ん、なんか、疲れちゃったね、ふーちゃん…」
わたしと2人で走らせている時、ポツリとスーちんが呟いた。
ただ、楽しくて走らせて、ただ一生懸命に走っていただけなのに。
いろんなことを受け止めるにはまだまだわたしたちは子どもだったのだろう。
そうしてスーちんはレースに出るのは辞めてしまった。
「ラジコンは、辞めないよねスーちん?」
「う~ん、まあ、ふーちゃんが遊びたいときには、つきあうよ?レースはしばらくは…まあ、いいかな?」
そう言って寂しそうに笑ったスーちんの顔はわたしの心にも深く突き刺さった。
こうしてあの時の約束は、果たされなくなってしまったのだった。
それからのわたしたちはというと、普通の中学生のように街で遊んだり、ラジコンをわたしがしたい!と言ったときには、レース日を避けてバギーで遊んだり、市営のただ河川敷に舗装路があるだけの無料サーキット(レースはもちろん他に何の設備もない!)でその時の気分のマシンで走らせて遊ぶようになった。
わたしとしては、とにかく、スーちんとラジコンの繋がりをなくしてしまうのはもったいない、悲しいなという想いだけだった。
そんなふうに中学の3年間は何もしないまま、あっという間に過ぎていった。
転機とチャンスが来たと思ったのは中3のある日。
スーちんが珍しく、「高校の進路とかどうする~全然考えてないんだよね~」と話題を振ってきた。
実はわたしは以前からネットで下調べをしていた高校があったのだ。
なんと、「ラジコン部がある女子高!」
わたしたち二人とも通学圏内。そして奇跡的にもわたしたちの学力でも圏内!なんという僥倖!
それとなくソレは隠したまま、スーちんにその高校を薦めてみた。
「〇×高校は~?スーちんでも偏差値足りるんじゃない?わたしも密かに考えてるんだけど…」
内心ドキドキ。
「う~ん、高校からはふーちゃんと学校も一緒か…ま、それもいいかな?」
「そうだよそうしようよ!きっと楽しいよ!」
「まあ、ふーちゃんがそう言うなら考えてみよっかな~」
そうして春、見事にふたりとも同じ高校に通うこととなったのだ!ヤッタ!
まあしかし大きな誤算が「ふたつも」あったのだけど。
なんとまあ、ラジコン部が部員不足で無くなってるとは思わなかった・・・
しかし、わたしは奮闘したのだ。
今度は、今度こそはわたしがスーちんを助ける番なのだ、と一人考えていた。あの時わたしが手を差し伸ばされたように。それを返さないといけない。
「部室はまだ空いてるみたいだから…スーちん、ラジコン同好会を、わたしたちで立ち上げようよ!!!」
「え~っ本当に!?まあ、ふーちゃんがやりたいんなら、わたしは付きあうよ?仕方ないなあ…」
「もう、高校生なんだからふーちゃんは恥ずかしいから辞めてって言ったでしょ…」
「そっか。じゃあ…新しく作る同好会の部長だし、ふーさんということで!」
「ぜんぜん変わんないじゃん!!!?」
そして紆余曲折あり、なんとかかんとか、ふたりだけのラジコン同好会として無事、高校生活はスタートしたのだった。
なかなか部員として定着してくれる子は他に現れなかったけど、楽しく走っているスーちんを見てわたしはスゴく安心したものだった。
それにしてももうひとつ、内心驚いていたことは、
まさかあのスーちんが、こんなに女子高生の制服が似合う美少女になるとは思いもしなかった!(これは単なる笑える話だけど)
天は二物を与えるというやつかコレが。
「ほら、ふーさん!早くチキチキしよーよ!」
部室の外から満面の笑みでわたしを呼ぶスーちんの顔が、5年生の時の眩しかった顔に少しダブって見えた。
「うん、すぐ行くから先に走らせてて!」
わたしはあれから大事にしまったままの、蒼いシュシュが入ったバッグを引出しの奥にパタンっとしまいこんだ。
いつかまたこれが必要になる時が来るまで。
わたしたちも、あれから少しだけとはいえ成長し、大人になった筈だ。
その時は案外早く来るかもしれない。
そう思いながらわたしはラジコンとプロポを抱えて、スーちんを追いかけ始めた ―――
第13章をお読みいただきありがとうございました。
これで4人の過去全てが繋がり、物語は再び現在へと戻ります。明日の夕方18時更新の第14章から、ついに、本当の意味で全員が「本気」になったリベンジレースが幕を開けます。4人の激闘を、どうぞ応援よろしくお願いします~




