第12章 とあるラジコン少女たちの話・前編【キズナと果されなかった約束】
全19話中の第12話です!毎日夕方18時に更新しております。
前回、決戦を前に結ばれた「蒼いシュシュ」。第12章は、その二人の「5年生のあの日」へと遡る過去編の前編です。二人の始まりの物語をどうぞ見届けてください。
「ねえねえ!あなたもラジコン、する?スッゴく楽しいよ!!!」
操縦台の上から差しのべられた手。
逆光でも輝いて見えた笑顔。
まさにわたしにとって、彼女は憧れのヒーローだった ―――
5年生の春。
パパに、「カッコいい娘がいるから見に行こうよ!風花と同じ年なんだよ!」
と誘われて、最近は付いていくことのないラジコンのサーキットに行く事になった。
パパの昔からの趣味だというラジコン。
小さい頃はわたしも一緒に遊んで走らせていたし楽しかったけど、
だんだんと歳を取るにつれ、「ヤッパリこれは男の子のモノだ…」という少し気恥ずかしい気持ちが強くなってきた。パパには悪いんだけど。
かといってスポーツなんかも苦手だし。
引きこもり気味に休日を過ごしていたわたしを見かねてか、久し振りに ――― 1年ぶりぐらいかな?
パパが再びわたしをラジコンに誘ってきたのだった。
帰りに買い物に付き合ってくれる約束(何か買ってもらおっと)と引き換えに、わたしはOKを出したのだった。
郊外の山の中に車で行くこと約1時間ぐらい。どんどんと人里離れていく…
こんなところに本当にラジコンのサーキットなんてあるのかな?と思った頃に見えてきた。
ところどころ緑色のカーペットが敷かれた…土のサーキット?
そう不思議に感じた瞬間、聞き慣れた、シュイーーーーーン というモーター音に続き、
シュッッ、という乾いた音と共にわたしの目の前に、ラジコンが文字通り飛び上がってきたのだった!!!
ラジコンが空を飛んでる!!!?
ふわっと飛んだそのラジコンは、7~8メートルほどは飛んだのだろうか?
着地もふわっとしたと思ったら、そのままの凄い勢いで加速して次のコーナーを曲がっていった…スゴイスゴイ!ラジコンってあんなにジャンプできるんだ…
しばしの間わたしはそのラジコンの走りに見惚れていた ―――
そして声をかけられるまで、その操縦をしているのが、わたしと同じくらいの歳に見える女子だということに気が付かなかったのだった。
――――――
「わたし、須川千絢っていうの!よろしくね ♪」
「あ……あっ、わ、わたしは、仁科風花です…さっきのラジコンって須川さんが操縦してたの?」
「そうだよ?ねえねえ仁科さんもラジコンするの?そういえば何年生?わたしは5年生!」
「あ……わたしも、5年生で、あの、」
「おんなじだね~!!!同じ歳の女子っていなかったから嬉しいな!じゃあ、ふーちゃん?ふーさんがいいかな?わたしのことは皆、スーちんって呼んでるからスーちん!って呼んでね ♪ ふーちゃんは今日どんなラジコン走らせるの?二駆?四駆?タ〇ヤ?京〇?ヨ〇モ?それともアソ……etc.」
本当に嬉しそうに凄い勢いで喋られて圧倒されてしまった。
胸ぐらいまで伸ばしたサラサラでキレイな髪の毛。わたしのゴワゴワでいつも結わえてしまっている髪とは全然違う。少し日に焼けた、キラキラした満面の笑顔。
わたしには凄くまぶしく見えた ―――
「えっ、わ、わたしは今日は、パパの付き合いで来ただけで、ラジコンは昔ちょっと走らせたことがあるぐらいで、」
喜んで盛り上がっている須川さんに、少し悪いな…と思って言い淀んだ。わたしはそんなに一緒に遊べるようには走らせられない。と思ったのに、
「じゃあ、やったことあるんだね!ハイ!」
まっすぐに。差し出された。えっ?まさか…
「ハイ!楽しいよ!…プロポは使い方わかるんでしょ?じゃあ大丈夫 ♪ 思い切り走って思いっきりジャンプ飛んだら気持ちいーよ!!!」
プロポを手渡された。え~~~~~~!?
そんな、わたしと何もかも真反対のように見えた女の子。
でも、仲良くなるのに時間はかからなかった。わたしはどちらかというと憧れの目で見ていたのだけど。
そこでラジコンを走らせている人は、パパと同じぐらいな年齢に見える男の人ばっかりだった。時々高校生ぐらいの男子もいたかな?どちらにしてもわたしたちに比べると、みんな大人!
操縦台の上に並んでも、スーちん1人、周りより頭3つ分ぐらい背が低い。
それでも走りは全然負けてなかった。
ほかのどの車よりもジャンプでは遠くまで飛び、コーナーでは砂煙を立ち上げ、本当に楽しそうにそしてカッコよく走らせている。
本人に聞くと、アレだと走りのロスしてるのが多くて下手なだけなんだよ~ と謙遜していたが、それでもレースになるとさらに強かった!ミスも多かったみたいだけど。全然問題じゃない!
調子よくトップに立った!
と思ったら大ジャンプしてコケた!あっという間に中団まで順位が落ちた…
と思ったらまた凄い勢いで走り回り―――また大ジャンプ!今度は飛んだ!
ほかの大人が誰も一気には飛ばない3つの連続ジャンプ台をいっぺんにも飛び越して見せた。スゴイ!
その時のレースでは結局またジャンプでコケて2位だったんだけど。周りが大人の中の2位なんてカッコイイ!
「いや~ふーちゃんに良い所見せようと思ったら失敗しちゃった!くやし~www」
実に楽しそうな敗戦の弁。
とにかくすべてが、楽しそうでそれでいてカッコ良かった。
その時のわたしには、学校の子どもっぽい男子なんて比べるまでもなく、そしてテレビに映る芸能人なんかにも全然負けない、カッコよくて憧れの存在だったのだ。
――――――
それからわたしは、友達同士休みの日にショッピングに行くかのように、スーちんがラジコンをする、レースがあるというとくっついて遊びに行くようになった。毎度送ってくれて、そしてスーちんに合わせたラジコンも買ってくれるパパには感謝しかない。ママはちょっと眉をひそめていたけど。
ある風の強い日のこと。レースの予選一回目が終了したときのことだった。
「むーっ、風が強くて走りにくい…」
珍しくスーちんが悩んだ顔をしていた。
「そんなに風でマシンが飛ばされるの?」
「そうじゃなくて…髪の毛が顔の前にばさばさ飛んじゃって見えにくくて…切っちゃおうかな今。」
そう言いながら工具袋のハサミに手を伸ばすスーちん!?
「そ、そんなダメだよ!?そんなキレイな髪なのに!」
スーちんなら、ほっといたら自分でやりかねない。わたしは急いで自分の髪を止めていたゴムひもを1つ外した。
「これで髪の毛をまとめて止めたら…」
「え~でもわたし、自分でやったことないし。ふーちゃん、やってよ?」
わたしも他人の髪をまとめたことは無いけど、やるしかない。
スーちんの後ろに回って髪を引っ張り上げる。
「…これぐらい、かな?」
「もうちょっと、前髪が邪魔だから全部持ってっちゃってよ!」
スーちんに言われるがまま、出来るだけまとめて引っ張り上げて留めた…
なんだかチョンマゲみたいになっちゃったけど。
スーちんは見た目なんて気にした風ではなく、しばらく頭をブンブンと振って確認していた。
「すごいすごい!これなら全然邪魔にならない!バッチリだよありがとうふーちゃん!」
そういって嬉しそうにその後の予選二回目、決勝とそれで過ごした結果……
まさかの絶好調!!!
何と予選はTQ獲得し、決勝も独壇場!一度もトップを譲らないどころか全員1ラップする快挙まで成し遂げてしまった!
そして降りてきたスーちんを出迎えに行ったら、
「ふーちゃん!ありがと~~~!!!これバッチリだったよ!なんか頭も引き締まってすごく集中できた感じ!?」
歓喜の笑顔のままギュ~~っと抱きしめられちゃった!!!
わたしの顔はきっとヘンテコな顔になっていたであろう。周りの大人の人も微笑ましくわたしたちを見ていた。
それからスーちんのレース前には、わたしが髪をまとめることが習慣になった。
わたしはあまり、操縦は上達しなかったけど、その分、上手な人に色々聞いたりしてセッティングができるように頑張るようになった。真似事だけど。
スーちんはそういうの、あまり興味がなさそうだったから。
一緒にいるために、少しでも役立ちたいな?と思った。
スーちんはそれから、明らかにミスが減ってきたように思う。身内びいきかもだけど。
地元のレースではほとんど負けることは無くなってきた。
そして6年生の冬。なんとスーちんはそのサーキットの定例レースで年間ポイントランキングの二駆バギー部門トップを獲得した!
そして調子にのってブチあげたのが、
「大阪で大きいレースがあるんだよ行こうよ!!!」
スーちんが勢いにのって言い出したのだ。
もちろん二人だけでなんていけない。すったもんだあって両家族を巻き込んでの旅行になった。それでも修学旅行以外ではじめての友達との旅行!なんて楽しいんだろう!
わたしは出場するわけじゃなく付いていくだけなのでママは呆れていたが、スーちんとともに行きたかったのだ。それが当然だと思っていた。
はじめての大阪のサーキット。屋内で全面土のサーキットなんてわたしたちははじめてだった。
1年で一番大きい大会!とのことで、コントロールタイヤが配られるなんてのも初めて(そのぶんエントリー代は高いけど)
いちおう事前にネットで調べてセッティングも準備はしてきた。あとはスーちんが走るだけ。
練習走行時間の前。(練習時間さえちゃんと平等になるようにスケジュールされている!)
ガラになく!スーちんは少し緊張しているようだった。
「スーちん、そういえば今日、ちょっと早いけどクリスマスプレゼント持ってきたんだよ?」
わたしはカバンからプレゼントの箱を取り出した。
ずっとゴム紐だけだとちょっと寂しいな?とは思っていたのだった。
「わ~、かわいい髪留めかなコレ?でもこれ、わたしに似合うかな?」
スーちんは喜びながらもテレテレしていた。
「シュシュっていうんだよコレ。キレイな蒼色でスーちんにぴったりだな、と思って。ほら、つけてあげるね!」
いつものように、スーちんの後ろから髪の毛をまとめ上げ、蒼いシュシュで留めた。ウン、我ながら良く似合ってる!と思った。
「ハイ、これで完璧。…出来たよスーちん。」
「…ゴメンね、わたしは何も、プレゼントとか考えてなかった…」
「わたしがあげたかっただけだからいいよ~ ……そうだ!じゃあ、勝って。レースに勝って見せてよ。お返しは、それで良いよ?」
ちょっと悪戯っぽくおねだり。
一瞬えっ!とした顔をした後、スーちんはクスクス笑い出した。
「ふーちゃんは難しいこというなあ…
でも、わかった。できるだけ頑張るね!」
「うん、頑張れスーちん!」
――――――
そして……
うぉーーー~
アーーーーーー
興奮で盛り上がった観客の野太い声が、どよめき、鳴り響いた。
激しいデッドヒートを繰り広げたスーちんは、惜しくもトップに届かず!
Bメインとはいえなんと2位!!!
「クソー、追い抜けそうだったのに駄目だったよ…Aメインにも残れなかったのに…残念!」
「なに言ってるのスーちんスゴいよ!」
こんなに大人が何十人もいる大会ではじめてで充分好成績過ぎて。
本当にわたしにとってスゴいクリスマスプレゼントになったのだった。
「来年こそは目指せAメイン!だねスーちん ♪」
「…来年は、ふーちゃんも一緒に出場ね」
悪戯っぽくおねだりし返された。
「え~それは無理だよ~」
苦笑いして首と両手をブンブンと振った。
いつまでもこんな楽しくて幸せな日々が続くと、子どもだったわたしたちは疑うことなく信じていた。
でも、その約束は果たされることは無かったのだ。
第12章をお読みいただきありがとうございました。
明日の夕方18時更新の第13章(後編)に過去回想編が続きます。明日もぜひ、お越しくださいませ~




