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第11章 気合を入れて、【決戦の朝。そして、ヒーローリボーン】

全19話中の11話!毎日夕方18時に更新しております。

前回、覚醒を見せたヒロだがその能力にはレースで勝つためには致命的すぎる「ある弱点」が隠されていました。店長さんが授ける秘策、そしてついに訪れる決戦の放課後 —――

今の感覚は…?


私が呆然としていると、どちらかというと私より興奮した宮崎先輩が走りよってきた。(とはいっても操縦台の上の二~三歩のことなんだけど)


「スゴい!今、関谷さんスゴいペースで走れてたよ!?今までで一番速かったんじゃない!?…もしかして何か掴めた感じ?」


正直、自分でも良く分かっていない。集中して常連さんの後ろに付いていこうとしただけだ。


「…よくわからないですけど、イメージと動きがピッタリ合った気がします!もう少しこのまま試したいです!」

さっきの感覚を忘れないうちに私も確認したい!


「じゃあ、常連さん!少し先行して走ってみて下さい!」

宮崎先輩に言われて、あまり訳が分からずキョトンとしていた常連さんが、じゃあ行くよ~とグリーンのM06走らせ始めた。

私も付いていく。集中!!!


――― 程なく見えてくる視界


先行する常連さんのM06の軌跡のように光る、緑のラインに自分の動きを委ねる ―――


そのラインからズレること無く、重なって走ってゆく私のオレンジのM06!今までの私の走っていたスピードとは雲泥の差なのが分かる…!


「常連さん、ちゃんと真面目に走ってますよね!?」

「M06久しぶりでセットもいまいちだけど手は抜いてないよ~」


宮崎先輩たちの2人の会話が遠くのように聞こえる。

そのまま3周ほど、常連さんの方がミスするまでその走りは続いた。


その瞬間、


――― アレ!?

今、どうやって走ってたっけ???


集中はしてる、と思う。だけれども、一台だけになったとたんに、何かを見失ったかのようにペースダウンしてしまった私のM06…

焦れば焦るほどギクシャク。そしてフェンスにパーーンっ!

大ミス……


「アレ?どしたの急に?何か車のトラブル?」

宮崎先輩が心配して声をかけてくれた。


「えっ…別に…そんなことはないんですけど…」

でも、走りにくい。

気を取り直して再び走り出す。うん、別に壊れてはない。

いつもどおりに走れる ――― ぅん?いつもどおり!?


「…あれ?バッテリー垂れてる?そんなことないよね?」

先ほどの快走と比べ物にならない走りになってしまい宮崎先輩も不思議がる。


「う~~ん、まさか先導車がいないとペースが上がらないのかなあ…そんなことってあるかなあ? 関谷さん、じゃあわたしが前を走るから付いてきてみてね!」


「……わかりました。」

私も何が何だかよくわからない。

とにかく、集中して前についていったらよいはず!!!


入れ替わるように宮崎先輩のM07が前を走る。ココを集中だ!


集中して、宮崎先輩のM07の軌跡をトレースすれば ―――


!??????


ズレる!

M07の後ろに光るラインは視えるのに、トレースできない!!!

どうして?


どんどん遅れていく私のM06……



――――――


それから、色々前後を入れ替えたり車を入れ替えたり試行錯誤すること小一時間。


「まさかとは思ったけど…見事にM06の後ろにしか付いていけないね…」

宮崎先輩は半分呆れながら笑っていた。

「でも逆に言うとM06の後ろならかなりのハイペースで走れる…なんて、意味わからなすぎるんだけど」


「え?でも後ろを全く同じようについていくだけなんだから簡単じゃないですか?」

逆になんとなく私自身は分かってきた気がした、のだけれども。


「そうですよ、だって先輩のM07や店長さんのM08だと動きが全然違うじゃないですか。その動きに付いていくなんて難しいですよ。でも、すぐ前を走るおんなじM06の動きをそのままトレースするだけでいいんだから簡単じゃないですか?」


試しに運転してもらった、店長さんドライブのM06にも短時間、集中が続くまでは付いていけたのだ。私にとってはそれが当たり前のことのように思えたのだけれども。


「……えっっっ、それって本気で言ってるの?トレースするだけが簡単って???」

宮崎先輩は眉をひそめていた。私、なにかやっちゃいました?


「まあそれでも実際、速く走れてるわけだしねえ…信じ難いけど、関谷さんはきっと、ものすごく目が良いんだね。ほかの車の動きがよく見えてるんだよ。視野が広いっていうのかな…」

店長さんがフォローしてくれた。


「でも、問題は…」

店長さんの顔が少し暗くなる。


「それ以外が…まだまだだね…わけが分からないよ…」

宮崎先輩は混乱しているようだ。


そうなのだ。私にもよくわからない。

自分が前に出ると途端に、トレースするべきラインが分からなくなる。私一人ではハッキリとしたラインを見つけられないのだ…


「…でも!須川先輩はM06なんだから付いていけると思います!」

気を取り直して私は言ってみた。が、


「…でも、それだとずっと後ろを走ることになるから…レースでは負けになっちゃうよ?」


「あっ……」

宮崎先輩に言われて、当たり前のことを気付かされた。そりゃそうか。

つまり、堂々巡りだ。



「……ということで悪いんだけど、そろそろ閉店時間なんで片づけ始めようか。続きはまた明日ということで…」

店長さんに言われてはじめてもう遅くなっていることに気が付いた私たち。


「じゃあ常連さん。明日もM06お持ちいただいて、一緒に練習お願いしても大丈夫ですか?」

慌てて片付けながら、宮崎先輩がお願いする。


「がってんしょーちのすけ!午前中からの3時間ぐらいしか無理だと思うけどなんとかするよ!」


なにか私にはよくわからない呪文のようなものを唱えて、常連さんは手を振り振り帰っていった。がってん……?


それから私たち二人も、帰り道であーでもないこーでもないと私の走りについて相談しながら駅まで歩いた。

とにかく特訓は、明日の1日で最後だ。



――――――


特訓最終日 日曜日


朝から再度色々確認してみるも、やはり私が速く走れるのはM06が走っている後ろをついていく時だけ…ということがはっきりした。う~ん、どうしたモノか。


約束の三時間も終わり、常連さんが帰ってしまった後、私たちはどうしたものか2人考え込んでいた。

そこに店長さんが助言に来てくれた。


「アレから少し考えたんだけど…こういう作戦はどうだろうか?」


―――


「え?でもそれってちょっとズルくないですか?」

正直に言ってしまう私。


「でも2人ともが勝とうと思うとコレが最善だと思うんだよ…関谷さんは一度追い抜かれたら抜き返せないとしか考えられないんだし。」


「…この作戦だと、わたしが如何に須川さんを抑え込むかがカギになる…というかほぼそれが出来るかどうかだけの勝負になりますよね。わたしに出来るかな…?」

宮崎先輩は考え込んでいる。


「そうなるね。だから今日これからは、その練習に集中しよう!」

店長さんもすごく考えてくれているようだ。それは凄く嬉しいのだが。


「でもその作戦だと、私はどうすれば…」

私が出来ることはあるだろうか?っていうか私の役割は…?


「関谷さんは、とにかく走りの精度を今は少しでも上げること。ミスするようだと作戦にならないからね。」



むぅー、

とりあえずそれしかないか。と、午後はそれぞれの練習を行った。

出来ることは、やったんじゃないかと思う。

二週間、頑張った。


あとは、やるしかない!!!



――――――


そして勝負の日、早朝。

梅雨が明けたかのような気持ちの良い好天。今日は暑くなりそうだ。


久しぶりの部室裏アスファルトにて、私と宮崎先輩は、最終チェックとして路面の違いを確認しに来ていた。


どうもサーキットの路面は同じアスファルトと言っても質が違うので、こういう普通の駐車場アスファルトとは走りの感覚もかなり異なるとのことで、確認しときなさい!と店長さんと宮崎先輩に言われていたのだった。


「どう?大丈夫そう?関谷さん。」

少し不安そうに聞いてくる宮崎先輩。先輩は二週間前の時のセットにもう変えているようだった。いつもと変わらない感じで、スルスルM07を走らせている。


私はしばらくの間、適当に数枚置いたパイロンの間を走らせて、グリップ感の確認をしていた。

確かに滑りやすい。というか、はじめてサーキットで走った時はグリップの良さに感動したものだったな~としみじみ。たった二週間前だけどだいぶん前に感じる。


「…そうですね。少し滑りますけど、大丈夫だと思います。」

日曜特訓の最後に、店長さんが屋外アスファルト用に!と少しセッティングを変えてくれていた。細かいことはよくわからないが、これなら問題ない!と思った。


さあ、これでいよいよ準備は万端だ!!!


と、思ったとき、不意にうしろから声をかけられた ―――



「あっ…あの、ふたりとも、おはよー!久しぶりだねっ!?」


振り向かなくても誰だか分かった。脈拍がどきんっと、跳ね上がる。

1秒、少し眼を閉じて心を落ち着かせる。顔を引き締めて。緩まないように。


「須川先輩、おはようございます。」

振り向いて軽くお辞儀をしながら言えた。―――ちゃんと言えてたかな?

目線はあまり合わせられなかった。


「あっ、あの、ヒロちゃんたちも朝練するの?わたしも珍しく今日早く起きちゃったから…天気も良いし… あの、」


その呼ばれ方に懐かしさとそして嬉しさを感じてしまうが、まだダメだ。ここは我慢だ。


「――― ちょうど今、練習終わりましたので。」

宮崎先輩の方を見ながら続ける。

「宮崎先輩、行きましょうか?敵に手の内は見せられませんしねっ!」


面と向かってはとても言えなかった。

私は今、酷い顔をしていたかもしれない。


手早く片付けて、この場を立ち去ろうとする。とてもじゃないけど先輩の顔はまともに直視出来なかった。


胸の奥が痛い ―――

でも、先輩の方がきっと、もっと悲しい…


「それでは失礼します。練習されるんなら、パイロンは置いておきますね…」


私は眼を伏せ気味にそのまま立ち去った…

先輩の、何かを言いたげな哀しそうな視線が胸に刺さり続けていたが、気付かない振りをし通した。



「――― 関谷さん、すこし、冷たすぎたんじゃない?」


部室裏から少し離れてから、宮崎先輩から言われた。それは充分に、分かっている。


「ええ!いいんです。アレぐらいしておかないと、須川先輩は分かってくれないですからね!」

私の本気をぶつける!大切な先輩たちのために。


「関谷さんって、ホンットーに、不器用だよね…」


やはり私は酷い顔をしていたのだろう。先輩がこちらを見つめながら続けた。


「…本当に、関谷さん、ゴメンね…そしてありがとうね…」


「そして、絶対、勝ちましょうね!」


「ハイっ!」

袖で眼を擦り上げて、気合いを入れ直して答えた。



――――――

――――――


放課後。同好会の部室。

今日は久し振りに良い天気になりそうだな!と思いながらスーちんのM06を見ていた。


弛んではいないけど、ヘックスドライバーを各所のビスに当ててまわり、弛まないように、無事帰ってこれるように!と、祈りを込める。

スーちんのレースの前には必ず行ってきた、わたしの昔からのルーティーン ―――


「ねえ、ふーさん…ヤッパリわたし、ヒロちゃんに嫌われちゃったかな…」


スーちんは、顔を机に突っ伏して座り、脚をプラプラさせていた。

元々は2人だった部室に戻っただけなのに、今はスゴく広く感じる ―――


「大丈夫だって。あのふたりは、それこそスーちんなんかより精神的には全然強い子たちだよ。」

2週間前のことがつい昨日のことのように思い浮かぶ。

「今度こそ、ちゃんと走るんだよ。先輩として叩きのめしてやればいいんだよ!」


「わかってるよ…わかってるけど、」

まだスーちんは拗ねている。


全く、こういうところは全然成長しないなあと吹き出しそうになるのをすんでのところで堪えた。

外見はこんなに変わったのになあ…

はじめて会った頃の子どもだったスーちんの笑顔が脳裏に浮かぶ。


わたしは、大切にしまってあったバッグを取り出した。ちーっ、とチャックを開けると、中から、懐かしくもある、見慣れたモノが見えた。


「ほら、コレ。ちゃんと準備しといたよ。」


まさか!という顔でこちらを見るスーちん。

そのスーちんに手渡すM12Sと、蒼い髪留めのシュシュ。


スーちんは、悲しそうに嬉しそうに胸にソレをぎゅっと両手で抱きしめた ―――


「ひどいなあ…本当に。今の生き方、気に入ってたのになあ…」


「生き方って。大袈裟ねえ、スーちんは。」


「髪の毛だって!!!わたしにしてはスゴくお手入れしてるんだよ!今は。」


「ハイハイ。――― ほら、貸して。留めてあげる。」


スーちんのキレイでさらさらな髪の毛を、ぎゅっと持ち上げて、シュシュで留める。あの頃、何度も繰り返した、懐かしい行為。


「ハイ、これで完璧。」


「…ありがとう、ふーさん。」


「ふーさん、わたしは…本気を出して、いいのね?」


「もちろん!本気で走って…本気で勝てばいいんだよ!」


「…わかった!!!」


スーちんの眼に、あの頃のような、気合いが宿ったのがわたしには見えたのだった。

第11章をお読みいただきありがとうございました。

じつはこの後半シーンが、全体通して一番書きたいシーンの一つでありました(わかりにくいですけど)

元ネタがわかった方は同士です!!!www


明日の夕方18時更新の第12章からは、ついに決戦!…ではなく過去回想編に入ります。もしよろしければご一読くださいませ~

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