ヒロインの救出 (前編)
新たな希望が芽生える一方、過去の影が姿を現し始める。すべての背後にいる人物とは一体誰なのか?
お楽しみに。
そうして、俺は以前と同じように朝を過ごした。一緒に朝食をとる。母が作ってくれた卵焼きと味噌汁。向かい側に座る真冬は、美味そうにご飯を掻き込みながら、時々、俺の皿から卵を掠め取っていく。
「おい、それ俺の」
「うん、でも盗んだほうが美味しいんだよね」
「…まったく」
彼女はニヤニヤしている。母はただ呆れたように首を振りながら、微笑んでいた。
朝食を終え、俺たちは一緒に登校する準備を整える。鞄はもう肩に掛けてある。靴も履いた。
真冬と共に家を出る。
――しかし、突如として、俺は足を止めた。
風が吹き抜け、全身を撫でていく。冷たい。ただの寒さじゃない――骨の髄まで抉るような、そんな寒気だ。不愉快な感覚を伴って。
恐怖。
失うことへの恐怖。
俺は彼女が死ぬのを、もう三度も見ている。三度も、真冬を。
でも、今回は違う。今回はもう犯人が誰か分かっている。今回は味方もいる。今回は――
いや。今回は、もう二度と真冬は失わない。
「伊藤?」
彼女の声が、前の方から聞こえた。我に返る。真冬は数歩先を歩いていて、困惑した顔でこちらを振り向いていた。
「伊藤! 早く! 何ぼーっとしてるの?」
その顔。その声。その笑顔。
生きている。彼女は、まだ生きている。
俺ははっとした。首を振り、頭の中の悪い想像を全て追い出す。
「わ、わかった! 今行く!」
小走りで彼女に追いつく。真冬はむくれた顔で言った。
「今度からぼーっとしないでよ? 置いて行っちゃうからね」
「よくもまあ、そんなことが言えるな」
彼女は笑った。そして、その手が俺の手を握る。
「ほら、行こう! 遅刻しちゃうよ!」
俺の反応を待たずに、彼女はぐいっと手を引いて歩き出す。その握る手は、温かい。とても温かい。
温かいんだ。俺の腕の中で、その体が冷たくなっていった時とは、まるで違う。
俺は握り返した。より、強く。
彼女が一瞬、振り返る。少し驚いたように。でも、すぐに微笑んで、また手を引いて歩き続けた。
学校 – 10組の廊下
学校に着き、俺は廊下の分岐点で立ち止まる。
「真冬」
「ん?」
「先に教室行っててくれ。ちょっと、用事があるんだ」
彼女は眉をひそめた。「用事って? サボるつもり?」
「違うよ。…旧友に会いにいくんだ」
「旧友? 誰?」
「ある人だ。後で説明する」
真冬は疑い深そうに俺を見つめた。しかし、結局は頷いた。
「気をつけてね? 先生に見つからないように」
「分かってるって」
彼女は向きを変え、10組の教室へと歩いていく。その姿が廊下の角で見えなくなるまで、俺は待った。
そして、俺は反対方向へと足を進めた。
*10-C。*
俺は教室の窓の前に立ち止まった。ここから中が見える。生徒たちは一限目の準備をしている。話している者、本を出している者、まだスマホをいじっている者。
俺は一人ひとりを目で追う。
そして、ようやく見つけた。
肩までの黒いストレートの髪の少女。一番後ろの窓際の席に座っている。一人で。周りの喧騒など気にせず、静かに本を読んでいる。
その頭上には、はっきりとステータスが浮かび上がっていた。
【名前:小佐美 かぐら】
【役割:ヒロインの友人 – 情報提供者】
【説明:白雪真冬の中学校時代からの親友。現在はクラスが違うが、真冬とは頻繁に連絡を取り合っている。物語の核心に関わる重要な情報を持つキーパーソン。】
【特殊能力:鋭き観察眼 – 人の本質を見抜くことに長ける】
【注記:主人公の協力者となる可能性が高い。彼女の情報は、物語の展開を大きく変える鍵となるだろう。】
俺は安堵の息を吐いた。
真冬の中学の友達…小佐美かぐら。
彼女は、ステータスに「死亡」や「殺害」と表示されていない、数少ない人物の一人だ。むしろ、「協力の可能性」とある。
俺は10-Cの教室の扉をノックした。授業の準備をしていた教師が顔を向ける。
「はい? 誰を探してる?」
「すみません、小佐美さんに用があって。中学の同級生なんです」
教師は教室の中に声をかけた。「小佐美、お客さんだぞ」
黒髪の少女が、本から顔を上げた。その目が、こちらを見て細められる。彼女は本を閉じ、立ち上がると、教室の外へと歩いてきた。
俺たちは二人、廊下に立った。静かだ。他の教室から、授業が始まったらしい微かな音が聞こえてくるだけだ。
「小崎くん、だっけ?」その声は落ち着いていて、驚いた様子はない。「真冬の中学の友達。よく一緒にいるところ見るよ」
俺は少し驚いた。「知ってるのか?」
「あの子がよく話すから」小佐美さんは背中を壁に預け、口調は平坦だ。「でも、別にあんたら二人の恋愛事情に首を突っ込むつもりはないよ。付き合おうが何しようが、それはあんたら二人の問題だから」
俺は瞬きをした。その反応は、あまりにも…実用的だ。
「それより、わざわざこんなこと聞きに来たってことは、そんな雑談が目的じゃないんでしょ?」彼女は肩をすくめて続けた。「その顔、締め切りに追われてる奴の顔だよ。よっぽどヤバい話なんでしょ? 早く言いなよ。俺の休み時間は短いんだから」
俺は深く息を吸い込んだ。彼女の言う通りだ。前置きをしている時間はない。
「小佐美さん…真冬の中学時代について聞きたいんだ」
小佐美さんの眉がピクリと動いた。「へえ?」
「中学の時…真冬に何か問題はあったか? 誰かと?」
小佐美さんの表情が変わった。笑みが消える。
「何で、それを?」
「俺には…理由があるんだ」
彼女は長い間、俺をじっと見つめた。その目は、まるで俺の内側にある何かを観察しているかのようだ。やがて、彼女はため息をついた。
「いるよ」
心臓が激しく鼓動を打った。
「木下雄大っていう奴。私たちと同じクラスだった。大人しい奴でさ。よく遠くから真冬のこと見てたよ」
木下雄大。
「そいつ、中3の時に真冬に告白したんだ。真冬は断ったんだよ、優しくね。でも…」小佐美さんは眉をひそめた。「その後から、アイツ変わったんだ」
「変わった?」
「ああ。元々大人しかったのに、更に塞ぎ込むようになった。でも、時々…校門のとこで、真冬が帰るのを待ってるのを見かけたんだ。話しかけるために待ってるんじゃなくて、監視するみたいに…まるで…」
彼女はそこで言葉を止めた。
「ストーカー、みたいに?」俺は囁いた。
小佐美さんは、ゆっくりと頷いた。
世界が回っているように感じた。
木下雄大。アイツは中学の時から、真冬を狙っていたんだ。そして、前のループで…アイツが真冬を殺した。
「小佐美さん」俺は彼女の目を見た。「ありがとう。すごく助かった」
彼女は肩をすくめた。「でも、何でこんなこと聞くんだ? 真冬、何か危ないことになってるのか?」
俺は黙り込んだ。
「小崎くん?」
「俺が守る」
小佐美さんは俺を見つめた。そして、口元だけで微かに笑った。さっきのような冗談めいた笑顔じゃない。まるで…賛同するような笑みだった。
「良いね。もし真冬を泣かせたりしたら、探し出すから」
平坦な口調で放たれた脅し文句。だが、本気だと分かった。
「泣かせたりしない」
「それが良い」彼女は向きを変え、教室へと歩いていく。だが、扉の前で立ち止まった。「あ、そうだ。もう一つ」
「何だ?」
「その男…木下なんだけど。去年、真冬の家の近くで見かけたんだ。一人でさ。夕方。もう暗くなりかけてた頃に」
俺は凍りついた。
去年? アイツはもう…
「まあ、ただの偶然かもしれないけどね」小佐美さんは教室に入っていった。「じゃあな、伊藤くん。真冬のこと、ちゃんと頼むぞ」
教室の扉が閉まった。
俺は一人、廊下に立ち尽くしていた。手が震えている。
木下。アイツはずっと前から、真冬を狙っていたんだ。そして今…
俺は拳を握りしめた。
「今回は、俺が止めてやるからな。このクソ野郎」
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