菊水盆に帰る
「重陽の節句ですね」
桃の節句や端午の節句と比べて、見過ごされがちではある。
「七夕は盛り上がってるほうじゃないかな」
季節柄、イベントごとが目白押しだ。
「重陽の節句と言えば菊だけど、自分なりに色々調べたことがあるんだよね」
日本の高貴な方々の紋章となっている。
「菊の紋に似た図案は、けっこう世界各地に見られるんだ」
ただの偶然で一笑に付されるテーマである。
「日本人のルーツを辿れば、何も不思議なことではありませんね」
東アジアでは無い。もっとずっと西方である。
「レオンくんは皇家の方とも面識があるの?」
いま話していいものだろうか。
「私も短くはない年月を生きていますからね」
他に良いはぐらかし方が思いつかなかった。
「それなんだけど、菊って薬としても優秀みたいだね」
菊水伝説が言い伝えられている。
「霊薬として珍重されていますね。ありふれたものではあるのですが」
現代の祭りでは酒に浮かべて飲む程度であるが、しかるべきところには不老長寿の製法が伝承されている。
「レオンくんも飲んだの?」
生命力とは精の胆力である。
「知らない内に飲んでいたのかも知れませんね」
錬金術は卑金属を貴金属に変える試みであるが、体内を炉と見立てて錬金術を行えば、人の生はより長命になるであろう。
「これを食べると辛かった時を思い出すんだ」
メシヤ少年が菊最中を差し出してくれた。その餡を頬張る姿は、異性がほおっておけないであろう愛くるしさがあった。
暗黒は単に否定的なものではない。たえまなく続く生産の切っ掛けにもなる。
輝かしい業績や偉大さは、ともすれば富と権力の強欲主義に陥りかねない。
(奈落の底に落ちたメシヤくんなら、いまの日本の状況を好転させるのは、造作もないことだ)




