第二十五話
大小さまざまな島々を経由しながら、船は進んで行く。これが現実のクルージングなら楽しかっただろうなと思いつつ、長旅を続けている。正直暇である。暇ゆえに、途中の島で乗船下船している人に目が行く。なぜか街がないはずの島で降りている人もいる。ただのNPCの住人であろうか? それとも何かレアアイテムでも手に入るのだろうか?
レアアイテムは気になるけれども、それをガチ勢と奪い合いをするほどゲームにのめり込んでいるかというと、そうでもない。まったりプレイヤーである。
私たちはベンチに一緒に座っているのだが、その相方の牛男はというと、寝ています。まあ、暇だから分からなくもない。
その寝ている牛男の顔をまじまじと見つめる。
(う~ん? 現実の顔とは全然かけ離れているな?)
恋愛もののお話だったら、ここで寝ている男の子に、女の子がそっと頬にキスをする。なんだろうけど……私たちだと何かが違うんだよね~。そもそもが性別が逆なのだし、付き合ってもいない男が女性にキスをしたら、通報案件だよ。
すると、船内アナウンスが流れて来た。
「まもなく海底エリアの街、《ブルーシェル・タウン》に到着いたします」
それを聞いた私は、慌てて牛男の肩を揺さぶり起こす。
「おにおんぐらたんさん、そろそろ街に着きますよ」
「う~ん、みなとちゃん。もうちょい寝かして」
眠そうにムニャムニャしている。みなとちゃん? それを聞いて複雑な心境である。ゲーム内で現実の名前を言うのはNG行為。でも、おにおんぐらたんさんにみなとちゃんと呼ばれると、なんか胸がきゅんとする。だが、海底エリアの街を観光したがっていたのは、どちらかというと牛男の方なので、心を鬼にしてたたき起こす。するとやっと目が覚めたようで。牛男はあくびをしつつ質問してきた。
「僕、なんか寝言言いましたか? 何か夢を見ていた気がするんですけど、思い出せない。変な感じですよね。身体は現実世界にいて、頭の中だけこっちにいる感じなのに、さらにその中で夢を見るなんて」
私は『みなとちゃん』と呼ばれた恥ずかしさで、視線を泳がせつつ答える。
「いえ、特に寝言は言っていなかったみたいですよ。それよりもうすぐ海底エリアの街に辿り着きますから、下船の準備をしましょう」
まあ、下船の準備と言っても、現実世界とは違い何もやることはないんだけど。
そして私たちは、船が停泊した島へと降り立った。降りるとすぐ目の前に洞窟がある。そこの入り口には看板があり、『ようこそ! ブルーシェル・タウンへ』と書いてある。その洞窟に入ると、下り階段がある。そして、所々を松明が灯している。階段を降りていくと、明るくなってきた。明かりの方向へ二人で急いでいくと、そこは不思議な光景であった。
海底の街。海の中に街がある。しかも海がまるで結界とかバリアみたいなもので覆われている。まるで水族館のように周囲を泳いでいる魚が見える。
そんな光景を見ると、つい思ってしまう。
(また、如月さんと水族館デートがしたいな。いや、オフ会か)
現実を突きつけられて、心の中でも臆した。私達はまだそんな関係ではない。と思った。
「どうします? 船だけで結構時間がかかっちゃいましたし、今日は宿屋に行ってログアウトしますか?」
現実の牛男の関係性に悶々としていた所に、突然声をかけられたので、動揺しつつ答えた。
「そ、そうですね。それがいいですね」
宿屋に向かっていき、セーブをした。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「……はい……おやすみなさい」
思わず返事が恋する乙女になってしまった感じがする。まあ気のせいでしょう。そして、ゲームからログアウトした。




