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(34) 暴虐龍

「ふむ。そういえば王宮に現れた赤い彗星殿は、オータニウス殿下の臣下と名乗っていたそうですな」


「あ、あの、その、これは、その」


「なるほど、ならばここに殿下がいらっしゃるのも道理というものか」


「そそそ、その、そんな、ボクは殿下とかオータニウスとかではなくて、その……」


「殿下、オータニウス殿下」


 ついさっきまで。

 ここは誰も通さぬと、たとえキングオークであってもここは通さぬと、決意を固めていた竜兵であった。

 しかしキングオークすら斬って捨てる老人は、そんな竜兵の決意などいとも容易く両断するのだった。


「皆が心配しております。ワシがお供仕りますゆえ、城へお戻りくださいますよう」


「い、嫌だッ! ボクはもうオータニウスじゃない、リューへーなんだ! ボクは兄様の弟の……」


「オータニウス殿下」


 老剣聖が、表情を揺らさぬままスウッと距離を詰めてくる。

 竜兵は歯を食いしばると、その圧力にどうにか耐えた。


「剣聖様、お願いします、どうかお願いします! ボクのことは黙っていてもらえませんか!」


「それはなりませぬ」


「なぜですか! あなたも兄上の……、新しい皇太子様の味方だったのですか! あの皇太子様に味方して、母上や叔父上叔母上のようにボクの命を!」


「オータニウス殿下」


 老剣聖はフルフルと首を振った。


「ワシは、政治のことも王宮のことも知りませぬ。知ろうとも思いませぬ。ワシの胸にあるものは、この心臓を焼き、心を駆り立てるものはただひとつ、強さへの渇望のみ。それ以外の事など、ワシにとっては路傍の石ころも同然の小事」


「だったら! だったらボクのことは見逃しても!」


「ならばこそです! 今ここで殿下を見逃せばその小事が、つまらぬ政治が、煩わしい人間関係が、ワシを縛ることになります」


「そんな……」


「ワシは老いました。ワシにはもう時間が残されていないのです。更なる高みを渇望しながら、この心臓を焼き焦がしながら、小事に縛られ身動きとれず、このまま衰えるのを待って死ぬなど……、ワシには耐えられぬのです」


「そんな……、あなたは、剣聖様あなたはもう十分にお強いではないですか。既に大陸最強で、生ける武神で古今無双の英雄ではないですか」


「あれを見るまでは!」


 老剣聖は魂を絞るように吠えた。


「ワシとてこれまで数多あまたの武人を斬り、数多の戦場で生き残り、師もなく一派を興し剣聖と称され、大陸最強とも生ける武神とも呼ばれて、あとはこの生涯に満足して死ぬはずだったのです……、あれを……、あれを見るまではッ!」


 鋼鉄だった老人は、まるで火を吐くように吠えたのだった。

 まるで、その胸を焼く灼熱の塊を吐き出すように吠えたのだった。


「ですから殿下、観念なさいませ。ここで見つけてしまった以上、ワシは殿下を逃がすわけにはまいらぬのです。この胸を焦がすあの刃のためには、あのお方の下で精進する年月を得るためには……」


 老剣聖が、ギラリと強い眼光で。


「たとえ力づくでも」


 竜兵に迫ったときだった。

 竜兵が必死に歯を食いしばり、それでもその圧力の前に一歩踏み出したときだった。



『グゴアアアアアアァァァァァッ!』



 それは、天空を切り裂く雷鳴のような。

 それは、大地を揺さぶる爆嵐のような。



 地獄から蘇ったばかりの魔獣の咆哮であった。


◇◆◇◆◇


 例えるならば「もうダメ、漏らしそう、漏らしそうッ」の人がトイレに駆け込んで、便座に座ったのとほぼ同時にモリモリッと出てきたような状況だった。

 つまり、ギリギリセーフのタイミングだったと思う。


 竜兵と別れてここまで走ってきて、「高木さん、ここなら!」と叫んだのとほぼ同時。

 高木さんが「出しやすぜッ!」でモリモリッとさ。


 そんでモリモリ産みたてホカホカのこんもり山ですよ。

 そしたらそのこんもり山から恐竜の首が一つ、二つ、三つ、四つ……とニョキニョキ持ち上がって。

 更にはウネウネのそいつらが天に向かって一斉に。


『グゴアアアアアアァァァァァッ!』


 と全くカワイクない産声を上げたのよ。



『我こそは九首の暴虐龍なりいいぃッ!』


『天空の覇者にして地上の覇王おおぉ!』


『神なる大迷宮の深淵のおおぉ!』


『邪神に至る最終門をば守りたるううぅ!』


『すなわち世界の守護者たるううぅ!』


『不死にして不滅不敗の暴虐龍ううぅ!』


『さあさあ我が直々に、死を呉れてやろうぞおおぉ!』


『黄泉路の手向けに聞くがいい、汝を屠るこの名こそおおぉ!』



「そ、そんな、まさか……」


 目の前の巨大ドラゴンに、俺はしばらく声を失っていた。


「う、嘘だろ、なあ高木さん、嘘だって言ってくれよぅ……」


 情けないことに声が震えていた。

 こんなはずではなかったのだ。

 こんなことになるなんて、まったく予想もしていなかったのだ。


「高木さん、嘘だって、嘘だって言ってくれよぅ……」


「若旦那……」


 しかし現実は非情だった。


「若旦那、残念ながら」


 絶望に震えるこの俺に、高木さんが冷たく言い放ったのだ。


「若旦那、野郎は生き返りやしたが首の数が八個・・しかありやせん。どうやら図体も一回り小さくなったようで」


「そんなぁッ!」


 俺は魂を絞るように吠えた。


「殺しても殺しても生き返って、喰っても喰っても減らないんじゃなかったのかよ! 無限肉じゃなかったのかよ! 肉の永久機関じゃなかったのかよおおぉッ!」


「残念ながら」


 くそう、さすがにこれは予想できなかった……。

 あのドラゴンは殺しても生き返るのだが、肉の量は元には戻らない仕様だったのだ!

 ダンジョンで俺が喰ったり、お城に置いてきた首の分だけ体重が減っていて、その減った体重で首とかを生やしたものだから……。

 くそう、生き返ったのはいいけど、可食部分はむしろ減っているじゃないか!

 くそう、融通の利かない魔法世界め!

 くそう、質量保存の法則め!



『わ、我こそは八首の暴虐龍なりいいぃッ!』


 ホラ、あいつもなんか言い直してるし!



『グゴアアアアアアァァァァァッ!』


「うるせぇよッ! 照れ隠しか知らんけど、でかい声で何度も吠えてんじゃねえよ」


 それが聞こえたのか、巨大恐竜の八つの首が一斉にこちらを向いた。


『おい兄弟よ、今何か聞こえたか』


『いいや聞こえぬぞ、第一この我に語りかけるなど』


『不死にして不滅不敗の暴虐龍に意見するなど』


『さような愚か者、さような身の程知らずなどいるはずもなかろう』



「いや不敗ってなんだよ、おまえ一度負けてんじゃん」


『き、聞こえぬなぁ……、何も聞こえぬなぁ』


『されど見れば我が足下に』


『目障りな虫ケラがおるではないか』


『目障りな虫ケラなどは』


『叩き潰すのみいいぃ!』



 突然。

 俺の真横から、巨大な壁が襲ってきた。

 ブオンなんて風切り音はない。

 音速を超えて迫っているからだ。


 だから俺は……。



◇◆◇◆◇


「に、兄様ああぁーッ!」


 あのドラゴンの咆哮を聞くや、ハッと表情を変えて走り出した老剣聖だった。

 そしてその老剣聖を追いかけて、ここまでやって来た竜兵だった。

 そこで見てしまったのだ。


 それは小山程もある八首のドラゴンであった。

 その足元にいるのは、豆粒ほどに小さな兄の姿であった。

 そしてその豆粒の兄に向けて、ドラゴンがその巨大な尾を横薙ぎに打払ったのだ。


 その一閃!

 王都の誇る堅牢無比な城壁ですら紙のように引き裂くであろう恐るべき竜尾の一撃であった。

 ドラゴンの旋回に少し遅れて、爆風が周囲の木々をバキバキと折っていく。


「そんな、にいさまが……」


「あれを、あれを避けるのか……」


「え」


 竜兵が老剣聖の呟きに顔を上げ、再度見ると。


「待てよ、殺して生き返るたびに希少部位も復活すると考えれば……」


 何事もなく哲也が立っているではないか。


「いや、それでもA6肉は減るしなぁ……」



『うぬぬぬぬ、チョコマカと生意気な虫ケラめ』


『されどはしこく逃げる虫ならば』


『逃げても無駄なよう』


『辺り全体を焼き尽くすのみいいぃ!』




「に、兄様ああぁーッ!」


 八首のドラゴンの八個の口から哲也に向けて放たれたのは、八種類の魔法ブレスであった。

 それは、絶対に逃れられない範囲攻撃であった。

 そう。絶対に逃れられないはずであった。


「そんな、にい、さま……」


「あれを、あれを弾くのか……」


「え」


 竜兵が老剣聖の呟きに顔を上げ、再度見ると。


「あ」


 竜兵が見たものは光の柱。

 ドラゴンの八種類の魔法ブレスは哲也の前で一つに纏まり、一本の眩い柱となって佇立していたのだ。

 いや、よく見ると哲也に向けて放たれたドラゴンのブレスが、威力もそのままに真上に向けてグニャリと曲げられているではないか。


「でも、どうして」


 どうしてわざわざブレスを曲げたのか。

 哲也であれば、またあの神速で回避できるではないか。


「ここにワシらがいるからですよ」


「あッ」


 老剣聖に指摘されて竜兵もようやく気がついた。

 哲也が上空に曲げていなければ、あの恐ろしいブレスによって今頃ここいら一帯は火の海となっていたのだ。


『なぜだ! 虫ケラよ、なぜおまえは死なぬ!』


『なぜおまえは生きておるのだ!』


『ありえぬ、ありえぬぞ!』


『我らの攻撃がまるで通じないなど、それではまるで』


『まるで、あのときの……』


「そうだ! 高木さん、グッドアイデアが浮かんだぞ!」


『あのときの、不死なる我らを殺した……』


『邪し……』


 何かを言いかけたドラゴンが。

 ドラゴンの首のひとつが。

 見えない刃で切られてボトリと落ちたのだった。


『!』


『!』


『!』


『!』


『!』


『!』


『!』



「おおお、できた、できたぞ高木さん、やっぱ思ったとおりだ!」


 先程何かを言いかけた首のあった場所を。

 首のないその場所を。

 血も流れぬその切断面を見つめて。

 残された七つの口は、あんぐりと開いたまま言葉を失っていた。


「そうそう、黒いカルマでさ、切り口をラッピングしてみたの。どうよ高木さん、たぶんこれならさ、首なんて二度と生えて来ないんじゃね? とりま生き返らなきゃ、これ以上貴重なA6肉が減ることもないんじゃね?」


 肉祭りじゃ、肉祭りじゃあとはしゃいでいる兄がいた。

「うわぁ……」と微妙な表情を浮かべる弟がいた。

 そして。


「殺気を、あの凄まじい殺気を、逆に操ったのか……」


 驚愕する老人がいた。


「カミソリよりも薄く、板のように幅が広く、地上のいかなるものよりも硬く、いかなるものよりも速い。つまりそれは鋼鉄に非ず、魔法に非ず……」


 老人はカッと大きく開いた目から、溢れては流れ落ちるものを拭いもせずに。


「殺気であったのか……。あの刃の正体は敵の放つ殺気であったのか……。あの方は、あの方は、敵の殺気を自在に操っておられたのか……」


 哲也の言う黒いカルマ。

 哲也が自在に操る敵の害意。

 哲也の他には、誰も見ることもできないはずのその光。

 その光を、老人はたしかに見てしまったのだ。


「兄様、ごめんなさい、ボクが間違っていました」


 竜兵はなおいっそう微妙な表情で。


「ここにいましたよぅ、特異体質の人が……」



『ぶわははは、な、なかなかやるではないか!』


「あれ、竜兵だけかと思ったら爺さんもいたのかよ!」


『そなたとはここで決着を付けてやるのも一興、されど!』


「おいおいおいおい、見られたの? 爺さんにこの恐竜を見られちゃったの?」


『されどこの我には果たすべき責務がある!』


「足止めしろって言ったのに、何やってんだよ竜兵はぁ」


『そうそう、大迷宮の深淵で邪神に至る最終門をば守護するという神聖なる責務がな!』


「うわぁ、マズいって、そりゃあマズいってば」


『ということで急ぎ戻らねばならぬゆえ、今は見逃してやろうぞ!』


「引っ越しなの? せっかくここの暮らしが馴染んできたのに、俺たち夜逃げせなあかんの?」


『だが、次に会ったときは覚悟いたせ、容赦はせぬぞ!』


「うわぁ、参ったなぁ、絶体絶命のピンチじゃん、俺たちぃ」


『ぶわはははは、ではサラバだ!』



「き、消えた! 兄様、ドラゴンが消えてしまいました!」


 一方的に何事かを語っていたドラゴンが、すうッと消えてしまったのだ。


「ドラゴンが逃げてしまいました……」


「いや、逃げてはおりませぬ。まだそこにおりまするぞ」


「え」


 竜兵は目を凝らすが、ドラゴンの巨体は影も形もない。

 しかしなぜか、この老人にはドラゴンの放つ黒い光が見えるらしいのだ。

 やがて。



『グゴアアアアアアァァァァァッ!』


 再び雷鳴の咆哮とともにドラゴンが現れて。


『なぜだ! なぜ逃げられぬのだ!』


『やはり邪神からは逃げられぬのか!』


『というか動けぬ、身動きもとれぬではないか!』


『何をされた! 邪神にいったい何をされたのだ!』



「おい」


『ひッ』


「俺と次に会ったとき、どうするって?」


『そ、それはッ』


 哲也がドラゴンの首のひとつに声を掛けた。

 先ほど消える直前に捨てゼリフを吐いた首である。

 他の六つの首もまた、この捨てゼリフの首を注視している。


『ど、どうもこうもないわッ』


 六つの首の視線を集めて。

 仲間たちから「こいつ余計なことを言いやがって」の表情を向けられて、捨てゼリフの首は逆に怒り出したのだ。


『いいか、我を怒らせてタダで済むと思うなよ! たとえ貴様にこの爪この牙このブレスが届かずともな、戦い方はあるのだ!』


「ふーん。たとえば?」


『そ、そうだ、たとえば貴様の暮らす町を焼いてやろうか!』


「あ?」


『どうだ恐ろしいかッ! しかしそれだけではないぞ! 貴様の暮らす町を焼き、貴様の暮らす国を焼き、山も川も大陸丸ごと焼き尽くしてくれようぞ、むろん貴様の家族も……』


 しかし、捨てゼリフの悪態はそこで途切れてしまった。

 その首がボトリと落ちてしまったからだ。


『!』


『!』


『!』


『!』


『!』


『!』


 その切断面を、残った六つの首が見つめて。


『あの、邪、邪神様……』


「高木さん、さっきの何あれ? え、まさかあれで消えた積りだったの? あんなカルマ丸出しでぇ?」


『あの、自分らもう反省してますんで、行ってもいいすか?』


「うん高木さん、そうそう。カルマでグルグル巻にしたからさ、もう逃げられる心配とかないし」


『すんませんッ! ホント反省してますので、このとおり謝りますので』


「うん、そこは大丈夫。これだけ光ってれば順番に首を落としてもさ、そんでもう二度と首が生えてこないように傷口をラッピングしてもさ、カルマは十分に足りるし」


『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、許してください、何でもしますからぁッ!』


「まあ考えてみたら、肉が少し減ったとはいえまだ一生喰いきれないくらいには残ってるしさ」


『ぐす、ぐす、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ほんとマジで許してください、死にたくない、死にたくないよぉ、肉とか、肉とか食べないでぇ……』


「あ、今度飯屋のおばちゃんにもさ、分けてやろうかな、このA6肉。きっと喜ぶぞぉ」


『うえーーん、せめて話をッ、話を聞いてよぉッ』



「あの、兄様……」


「ん、どした竜兵」


「いや、その、さすがにちょっと可哀想かなって」


『!』『!』『!』『!』『!』『!』



「許してあげることはできませんか?」


『!』『!』『!』『!』『!』『!』



「はあ? おまえ何言ってんの? A6肉だぞ、A6肉ぅ! 肉祭りだぞ、肉祭りぃ!」


「兄様、言葉を話して心を通わせることのできる者を食べるのは、やっぱり間違っていると思うんです」



『おおお、あの邪神に意見してるぞ!』


『話の通じる人が来てくれたぞ!』


『あの邪神が素直に聞いてるぞ!』


『神だ、神が降臨した……』


『助かるの? ねえアタシたち食べられないで済むの?』


『頑張って、小さい神よ、説得、超頑張って!』



「でもよぅ竜兵、コイツは野放しにできんだろ? さっきも町を焼くとか国を焼くとか大陸を焼くとか、俺の家族をどうこうするとか言ってたぜ?」


「あなたたちは、そんなことをするのですか?」


『しません、しませんって!』


『する訳ないっすよ、自分らそんなこと言ってませんし!』


『そうそう、アイツ、アイツがちょっとチョーシいてただけで』


『もうね、アイツはホント困った奴でして』


『いなくなってくれて、ホント助かりましたわ』


『あのリューへーさん、いやリューへー兄さんとお呼びしてもいいっすかね?』



「そうは言うけどよぅ、竜兵おまえ責任持って面倒みれんの? トイレとか餌代とかどうすんの?」


「えーと……」


『大丈夫っす、自分ら魔法生物なんでトイレも餌代も問題ないっす!』



「第一おまえが心配してたことだろ、国が滅びるとかなんとか」


「えーと……」


『リューへーさん、リューへー兄さん、ホントマジで誓いますから、けして兄さんに面倒は掛けませんから!』



「せっかくのA6肉だぜ? あんだけ楽しみにしてた肉祭りだぜ?」


「兄様……」


『お願いします、リューへー兄さん、どうかお願いします、頑張って、説得、超頑張ってぇ!』



「兄様ッ、このとおりです、何かあったらボクが責任をとりますので、どうかこのドラゴンの命を助けてやってください!」


『ぐす、リューへー兄さぁんッ!』


「でもなあ……」


「兄様、お願いします!」


『お願いします!』


 竜兵に続いて六つの首が下げられて。

 重たい沈黙の後で。


「あーあ、仕方ねぇなぁ」


 哲也が残念そうに息を吐いた。


「おい、A6!」


『はッ、はいッ、自分っすか?』


「A6おまえ、竜兵にここまで言わせたんだ。裏切ったら、分かってるよな?」


『はいッ、もちろんッす! このエーロク、リューへー兄さんの顔に泥を塗ることはけして致しませんので!』


「ええぇッ、ドラゴンさんの名前、エーロクでいいんですかッ!」



 六首の暴虐龍エーロク。

 対物理攻撃無効にして対魔法攻撃も無効。

 たとえ傷を負ったとて瞬時に回復してしまうし、たとえ死んだとてやがて蘇ってしまうという不死不滅の怪物である。

 攻撃すれば城塞すら一撃で粉砕する物理攻撃と、大陸すら焼き尽くす六種のブレス、そして透明化能力。

 そんな神話の怪物を前にして。



「そうか、その手があったのか」


 何かを悟った者がいた。

 何かを見つけた者がいた。

 老人は息を吸い息を吐き、地に膝をつき、両手をつくと。


「御令弟!」


「ご……、え、ボク?」


「御令弟、リューへー(・・・・・)殿!」


 そう、老人は悟ったのだ。

 話の通じないその方を、説得する唯一の方法を。

 見つけてしまったのだ。

 話の通じないその方を、説得できる唯一の人物を。


「このとおり、このとおりでございます、どうか、どうか、ワシのことも取りなしてくだされぇッ!」





「え、なんで? なんでボクに土下座なんですか、やめて、すっごい困ります、すっごいすっごい辛いです、やめて、ねえ剣聖様、やめてくださいよぅ、剣聖様ってば、お願いです、やめて、土下座とかやめてぇーッ!」

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