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(28) スターダスト

「うん、ガタナーさんの方もうまくいったみたいだね」


「若旦那、今日はわざわざあっしのために、ありがとうございやした」


「いやあ、たまたまちょうどいいイベントがあってラッキーだったよ」


 そう。以前から高木さんに頼まれていたのよ。

「一度宝箱になって誰かをからかいたい」て。


 たしかにダンジョンからこのかた、高木さんは何人も何人もからかってきたけれど、それは全部俺の鎧に擬態してのこと。

 普通のミミックならば「残念でした~。宝箱でなくミミックでした~」がスタンダードなのに、それを一度も経験したことがないのはやはり不本意なんだって。

 それで俺もずっと考えていたのよ。

 高木さんが宝箱として誰かをからかう、その良い機会はないものかってね。


 それで今回。

 ガタナーさんがお城に行くことになって、しかもそこに「宝箱の中身を入れ換える奴がいる」と聞いたことで、これはチャンスと思ったわけよ。

 つまり。


①大きめの木箱を用意しました。

②その木箱を高木さんがいったん収納しました。

③木箱に擬態した高木さんに俺が入って、それを王城まで運んでもらいました。

④宝箱のいっぱい置いてある部屋に運ばれました。

⑤部屋が無人になった隙に、他の宝箱を開けて俺がその中に隠れました。

⑥やってきたマヌケ野郎を高木さんがからかいました。

⑦驚いているそいつの背後に俺が高速で接近、首トンで気絶させました。

⑧高木さんに本物の木箱を出してもらって、中にダンジョンで拾った剣を入れておきました。

⑨高木さんと俺は騎士団の人に化けて「大変だ、大変だ」とそこから退避しちゃいました。


 とまあざっとこんな感じ。



「それで高木さん、どうだった? 宝剣を出すだけの価値はあったのかな?」


「へい。もちろんマヌケ面のためなら剣の一本くらいは安いものでさ。ですが……」


「うん?」


「何つうか、実際にやってみて思ったんですが、あっしとしては宝箱になるより鎧の方が楽しいかもしれやせん」


「え、マジで?」


「へい。ボロっちい鎧なのに中身は今代の堕神様、そんなことも知らねえ馬鹿どもをからかった方が、そいつらのマヌケ面の方がゾクゾクするんでさ」


「うーん、高木さんはノーマルな宝箱プレイではもう満足できないのかぁ」


「あっしにこんな倒錯した喜びを教えたのは若旦那でやすからね」


「高木さん、渋いおっさんの声でそんなパパ活女子大生みたいなことを言わないでおくれよぉ」


「やはり初体験のときのインパクトが強すぎたんでやすかね?」


「初体験つうとダンジョンで竜兵をからかったとき?」


「へい。実はあのときのボンの顔が今でも」


「うわぁ。高木さん、渋いおっさんの声でそんな夏休み明けのJKみたいなことを……」


 その竜兵ではあるが、王宮広間のあちらこちらから熱い視線を集めている。

 王座から離れた平民ブロックにいるというのに、そこにいる豪商たちばかりでなく貴族や教会関係者もまた、ガタナーさんと竜兵のことをチラチラと見ているのだ。

 どうやら皆、あの宝剣の入手先が気になっているみたい。

 今はまだ式典の最中だからチラ見で済んでいるけれど、これが終わったらガタナーさんと竜兵のところには人が殺到するんだろうね。

 しかも堕神様性能の聴力によると。


「あの商人を捕まえて、なんとしてでも宝剣の出所を吐かせろ」


 なんて部下に命じている貴族様もいたりするし。

 まあ式典が終わってもすんなりとは帰してくれないか。

 それで竜兵まで捕まっちゃったらいろいろとマズいことにもなりそうだよねぃ。

 もちろん。


 すんなり帰れるようにはするけれどね。



◇◆◇◆◇


 新王の即位式典。

 厳かな行事の締めくくりに、王座の元へ大きな台が運ばれてきた。


「これよりは、王子殿下による首狩りの儀の御披露目となります」


 係官が幕を取ると台の上には凶悪な犬の首が二つあった。

 熊の頭ほどにも大きい、恐ろしげな犬の首である。

 そのあまりの迫力に、広間の貴人たちが息を飲んだ。

 そこに貴公子が颯爽と進み出て王座に拝礼した。


「陛下。これなるはドブクサイの大迷宮、その第三階層の主、双頭の魔犬オルトロスの首でございます!」


 それで広間がまた大きくザワついた。


「第三階層だと? 大迷宮の最深部ではないか!」


「大迷宮の第三階層といえば、おそろしい剣歯狼が群をなして襲ってくる地獄であるぞ」


「その地獄を通り抜けて、主の部屋まで到達したのか」


「双頭の魔犬の存在は聞いたことがある。だがまさかそれを討ち取るとは!」


「知っておるか、今回第一王子様は首狩りのために王国騎士団の精鋭百名に加え、あの剣聖とその一門二十名まで動員したとのことだ」


「首狩りのために軍を動かすとは、なんとも豪儀なことよ」


「しかもその半数は生きて帰って来なかったとか」


「レニーリン王朝の初代国王として今から箔をつけるためには犠牲は厭わぬということか」


「犠牲というならあの第二王子様も……」


「し、めったなことを申すでない。レニーリン侯爵家の耳に入ればそなたの首が飛ぶぞ」



「あー、諸君。皆も知ってのとおり余の弟、第二王子オータニウスは大迷宮に首狩りに赴いたきり未だその消息を絶ったままである」


 貴公子の発言に新王の表情が険しくなった。


「おそらく、余の弟オータニウスは魔獣に殺されてもう生きてはおるまい」


 第二王子オータニウスの「事故死」。

 それは「公然の秘密」であったはずなのだ。

 誰もがそうと知りながらも、新王即位の祝賀ムードに水を注さないために誰もが口に出さずにきたデリケートな一件であったはずなのだ。

 それを今、第一王子は堂々と口に出している。

 つまり第一王子にはもはや王への配慮などはない、その宣言にも等しいのだ。


「余は悲しい。弟がこうして不慮の死を迎えたことが悲しい。だがそれ以上に!」


 第一王子が声を張り上げた。


「余は情けなく思うのだ。王家の男として、オータニウスのことを情けなく思ってしまうのだ!」


 第一王子はまるで舞台の役者のような身振り手振りで。


「オータニウスの求めたのは、この双頭の魔獣オルトロスではない。たかだか中層の主キングオークであったのだ。キングオークならば王国騎士団の手練れが数人いれば狩りとれるというのに! その手練れを、余はオータニウスに付けてやったというのに!」


 その騎士団の手練れとは、オータニウス殺害の密命を帯びたあの四人のことである。


「しかしオータニウスは帰って来なかった! 同行していた騎士団員も帰って来なかった! おそらくは未熟者のオータニウスが足を引っ張り、護衛の兵士ともども魔獣に殺されてしまったのだ! たかだか中層の主、キングオークごときに!」


 ここに列席する貴族や上級市民たち。

 そのほとんどは薄々察してはいるのだ。

 第二王子オータニウスが、第一王子によって謀殺されたであろうことを。

 しかし第一王子は更に熱弁する。


「余は情けなく思ってしまうのだ。オータニウスはなぜ護衛騎士まで全滅させてしまったのかと。王家の男ならば例えその身は朽ち果てようと、王の御前に首を運ばせるべきではないのかと!」


 実際に第一王子の計画では、四人の騎士はオータニウスの遺品とともに、キングオークの首を持ち帰るはずだったのだ。


「むろん余が狩り取ったこの双頭の魔獣オルトロスに比べれば、豚の首などとるに足らないものかもしれない。もしかしたら終生『豚の王子』などと不名誉な呼称がついてしまうかもしれない。それでも!」


 そう。だから第一王子は、騎士たちが生きてキングオークの首を持ち帰らなかったことを残念に思っていたのだ。


「オータニウスはここに首を持って来るべきだったのだ。例え死しても王家の男として、その務めを果たすべきだったのだ。この余のように! 王家の象徴である双頭のドラゴンと同じ、双頭の魔獣を討ち取った余のように! この『双頭魔獣の王子』マルクゥズ・レニーリン・エンゲルスのように!」


 第一王子マルクゥズがカーテンコールの役者のように諸手を挙げると、それにおもねるように、参列者から万雷の拍手が贈られた。

 参列者は拍手をせざるを得ないのだ。

 なぜならこのマルクゥズこそ、次代の王であるからだ。

 それも新王ミーノウルのように、実権を奪われたエンゲルス王家ではなくて。

 エンゲルス王家から実権を奪った門閥貴族の長、レニーリン侯爵家による新しい簒奪王朝の初代国王となるべき人物だからだ。


 だから第一王子マルクゥズは、まるでこれが自分の即位式典であるかのごとく万雷の拍手に手を振って応えるのだった。

 そこにが来るまでは……。



「止まれ! 貴様ここをどこだとブヘラッ!」


「隊長! 貴様やりおったなゲハァッ!」


「敵襲だ、敵襲だ! 暴漢が襲って来おっゴフォッ!」


「貴様いったいどこのガフォッ!」


「王城にたった一人で奇襲だと? 舐めおっグヒョアッ!」


「くそ、コイツかなり強いぞ、全員でいっぺんに掛かれ」


「ゴフォッ!」


「ガフォッ!」


「グヒョアッ!」



 警護を固めた衛士たちを蹴散らして、王宮広間に入って来たのは深紅の全身鎧を纏った一人の騎士であった。


「貴様、いったい何者だ! 名を名乗れ!」


「我が名はスターダスト!」


「こ、この狼藉者め! 近衛よ、この狼藉者をば取り押さえよ! いや、切り捨てても構わぬ!」


 第一王子マルクゥズの号令で王宮広間に整列していた重武装の近衛兵が動いた。

 王国三軍でも最強と黙される王国騎士団。その中でも選りすぐりのエリート兵団である近衛兵が、深紅の男を取り囲んだのだ。

 その装備も練度も、衛士隊とは比較にもならないはずだった。

 なのに。


「それ、ヒッ、ヒッ、フーッ!」


「ゴフォッ!」


「ガフォッ!」


「グヒョアッ!」


 その剣は深紅の男には届かなかった。

 深紅の男は近衛たちの猪突も斬撃も、その神速で尽く躱してしまう。

 そして武器も持たず無手のまま、襲い掛かる近衛たちを纏めて。


「それ、デッ、ハッ、ポンッ!」


「ゴフォッ!」


「ガフォッ!」


「グヒョアッ!」


 ドカンドカンと弾き跳ばしてしまうのだ。


「ええい、陛下の御前であるぞ、なんとしてでも暴漢を討ち取れぃ!」


 近衛隊長の怒号が飛び交う中、参列者たちは声もなくこの深紅の男に見入っていた。

 突如現れた暴漢のはずなのに、心を奪われていたと言ってもいいかもしれない。

 なにしろこの男は美しかった。

 なにしろその身に纏うのは、大貴族や他国の王族でさえ見たこともないほどの見事な鎧である。

 ひとり王の背後に立つ大教主のみが「あの鎧はまさか聖天使様の……」と呟いていたが、その声は戦闘の雑音でかき消されていた。


 そして強かった。

 なにしろ鍛えぬかれた屈強な戦士たちを、まるで羽虫を追い払うように楽々と倒していくのだ。


「なんという、なんという強さだ」


「しかもあの者は剣すら帯びていないのだぞ」


「たったひとりで、しかも無手のままで、幾十人もの近衛を打ち倒しているなんて!」


「信じられぬ。あれほどの騎士がいるとは、信じられぬ!」


「いったい何者なのだ!」


「騎士スターダスト……」


「深紅の騎士スターダスト……」


「赤い彗星、スターダスト……」


「見ろ、スターダスト卿ひとりによって近衛がとうとう全滅したぞ……」


「あ、マルクゥズ様が!」


「弓だ、殿下がスターダスト卿の背後から狙っておるぞ」


 第一王子マルクゥズが放ったのは、王家伝来の魔弓による毒矢であった。

 しかし。

 擦っただけでキングオークでさえも即死する毒矢を、深紅の男はいとも容易く躱して。


「え!」


 驚いて声を漏らしたのはドレスの令嬢であった。

 すぐ目の前に毒矢があったのだ。

 たった今マルクゥズが放った毒矢である。

 騎士がスルリと躱した毒矢が、その後方にいた令嬢に突き刺さろうとして、その寸前に止められていたのだ。


 魔弓によって超高速で飛来した毒矢は、更に高速で戻ってきた騎士に握られて「ビィィィィン」と高らかに鳴っていたのだ。


「くそッ」


 魔弓に第二矢をつがえたマルクゥズに対し、深紅の騎士はその手を向けて。


 ドォン!


 見えない力で弾き跳ばしてしまった。


「王子!」


「王子がやられたぞ! 担架だ、すぐに治療を!」


「今の攻撃はなんだ! あの騎士は飛ぶ矢よりも速く動いてそれをば掴み、その上魔法さえも使ったではないか!」


「ありえぬ! 詠唱もなしに、あれだけの攻撃魔法を瞬時にだぞ!」


「なんという強さだ、なんという速さだ、なんという魔法巧者だ、なんという騎士だ!」


「赤い彗星、スターダスト卿……」


 そのざわめきにかき消されて。


「いい匂いがしますわ。この匂い、たしかどこかで……」


 命を救われた令嬢が呟いていたりする。



「そこまでだ」


 そのざわめきを止めたのは新王ミーノウルである。


「騎士殿よ。まこと見事な騎士殿よ。お招きした記憶はないのだが、改めて貴公にお尋ねしよう。貴公の目的は何かね?」


 王宮広間に累々と横たわる近衛兵たち。

 対面する新王ミーノウルと深紅の騎士スターダスト。

 息を飲んでそれを見つめる参列者たち。


「剣を持たぬ騎士殿よ。随分と暴れてはくれたが、見ればただのひとりの死者も出ておらぬ。それどころか愚息が見境なく放った毒矢より御婦人を守ってさえ頂いた。なれば貴公とてこの王国に仇なすおつもりではあるまい」


 これに深紅の騎士がコクリと頷いた。


「されば改めてお尋ねしよう。貴公がどこの何者であるかを。貴公が今日のこの場に参った目的は何かを」


「王よ。招かれずに参上し、いたずらに場を騒がしたことをお詫び申そう」


「うむ」


「この身に剣を帯びざるは、ここが祝いの席ゆえに」


「貴公は余の即位を祝いに来てくれたというのか?」


「正確に申し上げるならば、我はただの代理なり」


「代理だと? 貴公程の騎士を送ってくるとは、いかなる国の帝王なるか?」


「我が主は、他国の帝王に非ず」


「他国でない? するとこの国の……」


「我が主は、王国第二王子オータニウスなり!」


「なんだと!」


 王座の後方から叫んだのは、老軍務総長である。


「オータニウスは生きておるのか!」


「しかり!」


 深紅の騎士がそれに応えた。


「我が名はスターダスト! オータニウスが騎士、スターダストなり!」


 深紅の騎士の名乗りに、参列者たちが大きく揺れた。


「聞いたか、オータニウス様と言ったぞ!」


「オータニウス殿下は大迷宮で亡くなったのではなかったのか!」


「生きておられたのか、生きていて、あの見事な騎士をば臣下に加えておったのか!」


「すると、エンゲルス王家はまだ……」


「そうとも、ただひとりで一軍を圧倒するあの騎士がいれば、あるいは次代の王は……」


「それではレニーリン侯爵家が収まらないぞ」


「しかしレニーリン侯爵家は勝てるのか? たとえどれ程兵を集めたとてあの騎士ひとりで……」


 列席していた内外の有力者たちがざわめき、揺れていた。

 それはすなわち、この王国が揺れていることを意味していた。


「スターダスト卿と申されたな」


「はッ」


「オータニウスからの言祝ことほぎ、たしかに受け取った」


「王よ、待たれよ。我はまだ祝の品を納めておらぬゆえに」


 深紅の騎士は王前にツカツカと進んだ。

 その先には大きな木台が、真ん中にオルトロスの双頭が置かれた木台があった。


「し、しかしそなたは空手ではないか、いったい何を……」


 狼狽する老軍務総長には応えずに。


 ドガン!


 深紅の騎士は台上に巨大な首を置いたのだった。


「卿よ、それを今いったいどこから! それにそれは! まさかそれは!」


 深紅の騎士が虚空から取り出したもの。

 それは熊の全身程もある、巨大なドラゴンの首であった。


「これなるは、我が主オータニウスから王への祝の品。九首のドラゴンなり」


 そう言って虚空から次々とドラゴンの首を取り出してはドガン、ドガンと台上に乗せていく。

 ちなみに頑丈な木台はドラゴンの首が三つ乗せられたところでグシャリと壊れてしまい、オルトロスの首はコロコロとどこかに転がって行ってしまった。

 後に残ったのは、熊のごとく巨大なドラゴンの首が九個である。

 そのひとつひとつが、一国を一晩で灰に変えうるような、恐るべきドラゴンである。

 そんな恐るべきドラゴンの首が九つ。

 おそらくは伝説の双頭ドラゴンよりも遥かに格上で、遥かに凶悪であろう、九頭のドラゴン。

 その九つの首が、今こうして目の前に出されてしまったのだ。

 未だかつて誰も見たこともないほどに美しく、誰も聞いたことのないほどに強い深紅の騎士によって!


 こうなるともう参列者たちは目と口とを丸くしたまま硬直状態である。


「では王よ。我が主オータニウスからの祝いの品、受け取って頂きたい」


「う、うむ騎士スターダスト卿よ。破格にしてまさに空前絶後の、かくも見事なる祝いの品。このミーノウル、確かに受け取った!」


「されば我はこれにて」


「ま、待たれよ!」


 たち去ろうとする騎士を呼び止めたのは老軍務総長である。


「オータニウスは、本当に生きているならば、オータニウスはなぜここに帰って来ぬのだ!」


「我が主を毒蛇の巣に戻すことなどできぬからだ!」


「それはどういう……」


「我が主に同行していた騎士四名は、我が主をばキングオークの部屋にただひとり閉じ込めて殺めようとしていた」


「な!」


「そやつらは新しい皇太子殿に近衛の地位を約束されていたそうだ! 大金を貰って第二王子の謀殺を引き受けたそうだ!」


「なんということだ……」


「それゆえに不忠の輩はこの我が斬り捨てた!」


「……」


「我が名はスターダスト! オータニウスが忠臣スターダストなり! 無益な殺生など好まぬが、我が主に仇なす者は容赦なく斬り捨てるものと心得よ!」


 騎士は遠くに転がっていたオルトロスの首に手を向けると。


 スパン、スパンッ。


 見えない刃を飛ばしてこれを真っ二つに斬ったのだった。

 オルトロスの双頭は四つに増えて、その切り口から脳漿と血の塊がドロリと流れて落ちた。


 そして参列者たちの重苦しい沈黙の中、深紅の騎士スターダストは、今度こそ振り返らずに去っていったのだ。



「ウ、ウウゥッ!」


 それに感極まったのか、平民ブロックの末席で泣き出した婦人がいた。

 まだ年若い、ブラウンの髪の娘であった。

 その美しさに貴族たちもハッと目を奪われたものの、その娘は同伴者の商人に肩を抱かれてすぐに退席してしまった。


 それに残念そうな顔を浮かべる貴族たちの中で、ただひとりニイッと笑った者がいた。

 金髪ドリルヘアーの公爵令嬢である。





「おほほほほ。見つけましたわよ、オータニウス殿下?」


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