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辺境魔法学校  作者: 金暮 銀
【誕生編】
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第八章 神宮寺それは矛盾に満ちた存在(八)

 卒業式の日がやってきた。卒業式といっても、いつも授業を受けていたクラスで、魔法先生より卒業証書を受け取るだけ。


 嘉納は魔法先生に押し潰された時の怪我がけっこう重傷だったのか、両手、両足にギプスで、車椅子での卒業式になった。


 魔法先生の魔法で、本来なら圧死だった。魔法先生の魔法に耐えられたのは、嘉納はダレイネザルの謁見で肋骨を全て差し出し、臓器を守る骨格が強化されていたからだ。


 剣持から月形さんの名が呼ばれ、月形さんが返事をして、教壇を挟んで魔法先生の前に進み出た。 教壇の前では魔法先生が、感情を込めずに、いかにも儀式といった感じで、文章を読み上げた。

「月形弥生、あなたは辺境魔法学校で優秀な成績を修め、卒業した事実を、ここに認めます。月形弥生をダレイネザルの魔道師として認定します。おめでとう」


 文章を読み上げたあと、魔法先生は剣持から卒業証書を受け取り、両手で月形さんに差し出した。月形さんが一礼して、卒業証書を受け取った。


 嘉納にも同じ言葉を掛けられたが、最後の神宮寺のだけ違った。

 魔法先生は皮肉たっぷりに、感情を込めて語った。

「神宮寺誠、あなたは辺境魔法学校において最低の成績を残し、授業では不正とも思われる行為に及んだ挙句、教師に便宜を図らせ、あまつさえ、私を亡き者にするだけでは飽き足らず、学校をも破壊しようとしました。辺境魔法学校、始まって以来の最低の生徒であることを認めます。本来なら魔道師には認定したくないのですが、首輪の一つも着けておかないと危険なので、嫌々ながら、魔道師と認定します。文句があるなら、卒業を取り消し、資格を授与しませんが、どうします?」


 神宮寺は深々と頭を下げてお願いした。

「卒業させてください。お願いします」


 神宮寺の言葉を聞くと魔法先生は「本当ですね」と念を押して、剣持から卒業証書を受け取り、片手で突き出すように手渡した。


 卒業証書には、しっかりと「最低の成績を修め」と記載されていた。卒業式といっても短いもので、卒業証書の授与だけで、魔法先生が退出して終わりとなった。


 魔法先生が退席すると、剣持が口を開いた。

「これから、小清水と蒼井を火葬するが、従いてくる者はいるか」


 神宮寺が黙って手を挙げると、月形さんも手を挙げて、嘉納も「参加させてください」と発言した。


 剣持に連れられて、地下二階に下りると、校内に火葬場があった。

 火葬用の炉の前には「なんで私が立ち会わなければいけないのよ」と言いたげな水天宮先生が面白くなさそうな表情で、六輪の花を持って立っていた。


 神宮寺と月形さんは、花を二輪ずつ受け取ると、一輪ずつ小清水さんと蒼井さんの棺に入れ「さようなら」とだけ、短い別れの言葉を掛けた。


 最後に神宮寺が、手の使えない嘉納の代わりに花を入れて、嘉納が別れの挨拶をした。

 小清水さんと蒼井さんが炉に入れられた。炉は魔法の超高温炉なので、五分で二人は白骨となった。


 水天宮先生、剣持、月形さん、神宮寺で、骨壷に骨を拾って納めた。嘉納は手が使えないので、始終、黙祷していた。


 骨壷に骨が入ると、水天宮先生が「わたしは、これで」とだけ述べて、さっさと帰っていった。


 剣持が教師の顔で、最後に説明した。

「骨の引き取りを親族に問い合わせたが、引き取りは拒否された。辺境魔法学校では、そう珍しい事態ではない。骨は俺の責任で、札幌の公営の納骨堂に納める。なお、退学権利金を供託していない者の骨が墓に入るのは異例な事態なので、他言は無用だ。それと、お前たちに、最後に言っておく。魔道師は死んで墓に入れるとは思うな。以上だ」


 剣持なら約束は守るだろうから、心配ない。これで、寂しいが、決着がついた。

 嘉納と月形さんは、もう次に住む場所を借りていた。


 月形さんはタクシーで、嘉納は車椅子用の専用車が迎えが来て、辺境魔法学校から出ていった。神宮寺は学校で二人を見送って別れた。


 神宮寺は魔法先生との戦いで人生が終るかもしれないと考えていた。なので、新しい仕事も、住む家も決めていなかった。ただ、卒業したので、辺境魔法学校での生活が終るのは、確かだと思っていた。


 二人を見送ると、剣持が寮の前で待っていた。

「別れの挨拶は済んだようだな。じゃあ、部屋に案内するから、従いてこい。荷物は先ほど全部、適当にダンボールに詰めて、校舎地下の居住フロアーに移動させた」


「ちょっと待ってください、剣持先生。部屋に案内って、俺、辺境魔法学校に残るって、まだ決めてないですよ」


 剣持は幾分か芝居がかった顔で宣言した。

「それはおかしいな。魔法先生は学校に残すと言って、お前はお願いします、と答えたはずだ。今日付けで辞令も下りている。今日からお前は、辺境魔法学校の職員だ」


 辺境魔法学校に残る、残らない、というやり取りは記憶になかった。だが、魔法先生が「首輪の一つも着けておかないと危険」の卒業式での言葉を思い出した。

「あの、ちなみに、俺の仕事って、なんですか? 教員補助員ですか。それとも、誰かの助手ですか」


 剣持が顔を顰めて、仕事の内容を教えてくれた。

「ウトナピシュテヌを補助員や助手になんか、させられないだろう。神宮寺の仕事は、粛清官。内輪で問題を起こしそうな人物を観察し、場合によっては処分する仕事だ」


 神宮寺は思わず抗議した。

「それって、俺が一番なっちゃいけない役職じゃないですか。というか、見方によっては俺自身が対象者ですよね」


 剣持は即座に同意した。

「俺も、そう思う。お前は高校中退だから知らないが、人事ってそういうものだ」


 辺境魔法学校を卒業したので、学校生活は終ったと思った。でも、正確には、学生生活が終っただけで、辺境魔法学校での粛清者としての生活がこれから始まる。 

 【了】


 いかかでしたでしょうか。神宮寺の話は一度ここで終わります。

 面白ければ評価をお願いします。この話の価値を知りたいです。

 

 それでは、また、別の話でお会いしましょう。


 

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めちゃめちゃ面白かった、引き込まれてからは感想とか考える暇もなく一気に読みました、休憩して後半に行きます。
[一言] 一部まで読みました クソ面白かったです
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