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辺境魔法学校 作者:金暮 銀
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第八章 神宮寺それは矛盾に満ちた存在(二)

 翌日の日曜日、四時間かけて蒼井さんの姉。国井(くにい)志穂(しほ)。旧姓、蒼井志穂の住む札幌に出てきた。国井家は郊外の住宅街にある、ごくありふれた小さな家だった。

 神宮寺は家の外で、『ファフブールの召喚』を唱えて、ファフブールを召喚した。
『ファフブールの召喚』を学んで知ったが、ファフブールは大きさもパチンコ玉大にまで小さくでき、ウトナピシュテヌともなると感覚を共有した使い魔とする状況が可能だった。

 神宮寺はさっそく、小さくしたファフブールを国井家に侵入させた。これで、国井家の様子が、中にいるようにわかる。

 国井家の中には一歳くらいの小さな子供が二人いた。二人の子供年が同じくらいで、男の子と女の子のようなので、二卵生の双生児だろうか。

 二人の子供は仲良く、志穂さんの夫と遊んでいた。家の中には、ゆったり目の緑色の花柄のワンピースを着て、少し短めのストレート・ヘアーをして蒼井さんに顔立ちが似た女性がいたのが確認できた。

 神宮寺は暗証番号を外した蒼井さんの携帯電話から、志穂さんの携帯に電話を掛けた。志穂さんは携帯の着信を見て、少し躊躇って携帯に出た。

「呪い屋の神宮寺です。蒼井加奈子さんから受けた仕事の件で、お話があります」

 ファフブールを通して見る志穂さんの顔は明らかに、〝呪い屋〟の言葉を聞いて動揺して、主人と子供から顔を背けるような姿勢を取った。

 神宮寺はわざと冷徹な呪い屋を装い、話を続けた。
「私は今、志穂さんの家の前にいます。仕事に移る前に少しお話がしたいんですが、今から出て来られませんか。できれば、ターゲットではない無関係なお子さんや御主人に危害を加えるのは、流儀に反するので」

 志穂さんが窓の外のカーテンから覗いて神宮寺の姿を確認し、すぐに答えた。
「わかりました。すぐに出ます。少し待ってください」

 志穂さんは、すぐに家から出てきた。志穂さんは呪い屋と聞いて、恐ろしい存在と思ったのか、出てくる時には恐怖の色が出ていた。

 志穂さんは神宮寺の顔を見ると、明らかに年下の神宮寺に驚き、疑いの眼差しを見せた。

 神宮寺は『鋳造の魔炎』を唱えて、左手の五指に火を灯してから、消した。
「家の中で志穂さんが炎上すれば、きっと大変でしょう。近くに小さな公園がありましたね。そこで話をしましょう」

 志穂さんは神宮寺の行動と言葉を聞き、従順に従った。区画整理でしかたなく作られたような小さな公園に着いて、ベンチに座った。公園内に人はいなかったが、神宮寺は『路傍の景色』を使い、神宮寺と志穂さんを他人から気にされない空間で覆った。

 嘘を見抜く魔法は習得して来なかったので、神宮寺としては脅して白状させるしかない。下手に侮られれば、騙される。呪い屋にうまく粉しなければ。

 ベンチに座ると、志穂さんは声を震わせて聞いてきた。
「私、ここで殺されるんでしょうか」

「まず、依頼人の蒼井加奈子さんは、私に依頼をしたあと、すぐに亡くなりました」
 志穂さんが神宮寺の言葉を聞き、悲しみより驚きの表情を浮かべた。

 神宮寺は淡淡と言葉を続けた。
「ですから、私も今回の依頼については、遂行すべきかどうか、迷っています。個人的な感情です。そこで、志穂さんの話を聞いてから、依頼を実行するかどうか決めようと思いました。嘘を吐くのは自由ですが、その時は、相当の覚悟をしてください。志穂さんはなんで、妹さんに恨まれていたんですか」

 志穂さんは下を向き震えながら、白状した。
「私と加奈子は、仲の良い姉妹でした。好きになる物は、いつも一緒でした。私は加奈子の恋人を好きになり。加奈子の恋人の宗次を、加奈子から奪いました」

 志穂さんはすぐに慌てて、大きな声で付け加えるように発言した
「今の主人とは違います。全く関係ない別人です」

 志穂さんは付け加えた声が余りにも大きかったので辺りの目を気にした。
 神宮寺は少しばかり、冷徹かつ尊大な態度で教えた。
「多少、声が大きくても、大丈夫です。ベンチの回りは、私が先ほど唱えて作った魔法の空間になっています。少しくらい大きな声を出しても、死体が転がっていても、誰も気に留めません。どうぞ、言葉を続けてください」

 さらに言葉でプレッシャーを懸け、正直に話させようとした。

 志穂さんは唾を飲み込むと、それでも小さな声で話し続けた。
「加奈子から、私は宗次を奪って、結婚しました」

 ここまでなら、別に問題ない。単なる恋の修羅場であり、魔法で復讐するとしたら、蒼井さんのほうがどうかしている。

 神宮寺は、まだ何か志穂が隠していると思った。
「私が依頼人から聞いた話では、そこで終わりではないですよね。続けてください。話していただけないと、私は仕事をしなければいけなくなります」

 志穂さんはギュッと手を握り締め、殺されるのを覚悟したように話を続けた。
「はい。宗次は私と結婚してから、加奈子と浮気しました。加奈子と宗次の関係には、すぐに気が付きました」

 志穂さんの話では、蒼井さんは恋人を取り返した展開になる。問題になる展開ではない。
〝呪い屋〟と聞いて冗談と思わず、恐れた志穂さんの表情。本物の呪い屋かどうかわからない、年下の神宮寺を見ての反応。殺されるという思い込み。「今の主人とは違う」との言葉。神宮寺は人間の醜い一面を見た気がした。

「それで、志穂さんは呪い屋を使って、浮気した御主人を殺した。依頼人の言った言葉は本当だったんですね」

 志穂さんは震えながら、弁解した。
「でも、違うんです。呪い屋さんに、宗次に対して酷い復讐をしてくれとは依頼しましたが、殺してくれとまでは、言っていません。呪い屋さんが勝手に殺したんです。加奈子にも怪我をさせるつもりなかった。お願いです、本当です。私を殺さないでください。子供たちの母親でいさせください」

「では、最後にもう一つ。志穂さんの子供の一人は、宗次さんの子供ですか」

 志穂さんは黙って頷いた。志穂さんの話は、だいたい本当と思った。神宮寺は呪い屋にはなれないと思った。蒼井さんに同情したが、復讐の依頼はこなせなかった。

 結局「裏を取って本当なら、もう会うこともないでしょう」と志穂さんに告げて別れた。
 神宮寺の感覚としては、蒼井さんと付き合っておきながら、志穂さんに乗り換えて子供まで作り、また蒼井さんに戻った宗次の感覚が、わからなかった。

 もしかしたら、蒼井さんのお腹の中にも宗次の子供がいたが、宗次を失って堕ろさざるを得なくなったか、巻き添えになったのかもしれない。

 呪い屋の判断も、間違っているとも思えなかった。酷い復讐と聞けば、死を連想する。
 下手に無残な姿の宗次が生き残り、離婚していなければ、負い目を感じて、二人の間に子供がいる志穂さんが介護と育児の負担を負ったかもしれない。

 月形さんの言う通り、世に恨みごとは尽きないかもしれない。恨みを晴らすのも、魔法があれば簡単かもしれない。

 でも、呪い屋をやるなら、恨みが晴れた後の状況にまで注意を払わなければ、一流とはいえないのではないだろうか。恨みを晴らした後まで、完全に事態を納める呪い屋なんて、いった日本に何人いるのだろう。
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