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辺境魔法学校 作者:金暮 銀
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第七章 重要な扉が開かれ、翻弄される者(六)

 神宮寺は毎日、寮に遅く帰った。風呂は全て深夜の暗闇風呂。ウトナピシュテヌとなった体は眠りを欲さず、食べたいとも思わなかった。だからといって、零にはできない。

 午前中にノルマの魔道師用魔道書一冊を習得すると『バーザック死兵の創造と解放』を習得しようとした。

 だが、『バーザック死兵の創造と解放』の魔道書とは、鼓動も息も合わず、苦労した。
 途中で、魔道書から魔法を引き出すのではなく、力ずくで吸い取るように習得しようとしたが、魔道書自体が「自爆するぞ」と脅すように拒否するので、ほとほと手を焼いた。

「水天宮先生のように性格が悪い」の言葉に、どこか納得した。
 水天宮先生のよう? もし、水天宮先生だったら、どう創作するだろう。

 神宮寺は、魔道書を魔道書だと思うのを止めた。これはパズルの一種だと思って、心を切り替え、黄金の心臓の鼓動の同調と直感を頼りに、習得に努めた。

 やがて、二週間が過ぎたころ、試行錯誤を繰り返した結果、いつの間にか解けた知恵の輪のようにすーっと肝心な部分が理解できた。『バーザック死兵の創造と解放』が理解できた。これで、まずは、小清水さんを戻せる。

 晴れやかな気分で、大判の魔道書を閉じると、どこかで隠れて見ていたようなタイミングで、赤虎さんが入ってきた。赤虎さんの手には『同族殺し』の魔道書が握られていた。赤虎さんは笑顔だったが、少し残念そうだった。

「残念だわ。『バーザック死兵の創造と解放』に時間が掛かりすぎよ。とはいっても性悪水天宮の魔道書を二週間で習得したのは、早いほうね。でも『同族殺し』は創造した私がいうのもなんだけど、難しいわよ。つまり、『同族殺し』だけでも、ぎりぎり特別演習に間に合うかどうか、といったところね。あーあ、魔法先生が驚く顔が見られなくて残念」

 神宮寺は、空威張りなのはわかっていたが、言い返した。
「もう、二週間しかないと考えませんよ。まだ二週間あると考えています」

「そう、じゃあ、頑張ってねー」と赤虎さんは気軽に声を掛け、去っていた。
『同族殺し』は、ダレイネザルが与えた黄金の心臓を破壊する、魔力を帯びた高温の炎を発生する魔法。

 剣持は、「ダレイネザルより与えられた黄金の心臓は、魔力を持った高温の炎でなければ破壊不能」と教えてくれた。正に黄金の心臓を破壊するための魔法だった。

 魔道書の内容を読んでいくと、確かに『同族殺し』を魔法先生の黄金の心臓に掛けられれば、理論的には倒せる。ただ、魔道書を学んでいてわかったが、黄金の心臓を体外に隠したり、別の物に移植したりできる魔法が存在する事態を見えてきた。

『同族殺し』は呪いのように、距離が離れていても掛けられるが、威力と距離は比例する。
 つまり『同族殺し』だけで魔法先生を倒すには、魔法先生が黄金の心臓を体内に保持した状態で、なおかつ視認できる距離くらいまで近付いていなければ効果を上げられない。

「魔法先生が特別実習に黄金の心臓を体内に入れてやってくる可能性はあるし、油断していれば近づけるだろうけど、『同族殺し』で魔法先生にダメージを与えるのは無理だな」

 神宮寺と魔法先生で、魔力が同じという状況は考えにくい。魔法先生の黄金の心臓のほうが遥かに強いだろう。視認できる距離にいるなら、魔法先生だって魔法を仕掛けてくる。

『同族殺し』では、やはり、無理そうだ。となると『玉座の崩壊』という禁書魔法に望みを懸けるしかない。

 神宮寺は『同族殺し』の習得に取り掛かった。だが、『同族殺し』のほうが難しいと評価されたのに、三倍は易しく感じ、作業が捗った。

 体内の黄金心臓の鼓動と魔道書から流れてくる魔力の流れがピッタリだ。疲労感もほとんどなく、五日間で『同族殺し』を習得した。

『同族殺し』を習得すると、赤虎さんがまた習得したタイミングで現れた。やはり、どこかで監視されているのだろうか。赤虎さんは微笑んで拍手した。

「すごいわ、神宮寺君。魔道書から学んだとはいえ『同族殺し』をこんなに早く習得するなんて、最短記録じゃないかしら、私たちは相性が良いのかもしれないわね」

 赤虎さんと相性がいいと評価されるのは、少し気になる。でも、賛辞は素直に受けた。

 赤虎さんは、別の言い方もした。
「または、相性がいいのではなく、神宮寺君は人を殺すことにかけて力を発揮するタイプの魔道師なのかもしれないわね。実は深層心理には、快楽殺人者の素質があるのかもしれないわ。適職はズバリ、暗殺者か戦略魔道師ね」

「赤虎さん、褒めてるんですか? でも、違いますよ。俺に人殺しは向かないです。一般的な魔道書でも、それほど攻撃魔法には興味が湧かないし、習得もしてないんです」

 赤虎さんはちょっと考えて、謎を解く名探偵主婦のように推理した。
「攻撃魔法が嫌い? 暗殺型ではないとすると……。わかったわ。きっと神宮寺君は、近くにいる人を殺したくなるタイプなのよ。言ってみれば、仲間殺しの粛清者や異端審問官が適職な魔道師なのよ」

 赤虎さんは自分で言っておいて、嫌な顔をして、一歩の距離を置いた。
「えーでも、なんか、嫌だわ。そんな人が仲間にいるなんて、職場関係がギスギスしそう。ちょっとお近づきになりたくないタイプの種類だわ」

 神宮寺だって、嫌だった。そんな仲間殺しが好きな人間とか、粛清者なんて!
 でも「仲間殺し」と聞いて、小清水さんや蒼井さんの経緯を思い出し、心に突き刺さるものがあった。

「でも、これで、条件は満たしました。禁書を見せてください」

 赤虎さんは顔で微笑んでいたが、困ったような口ぶりで渋った。
「えー、でもね、粛清者を目指す人に『玉座の崩壊』を見せるのは、ちょっとねー。あ、そうだ、剣持が呼んでいたわよ。急ぎみたいだから、そっちの用が終ったら、図書室に来て。それまでに考えておくから」

 赤虎さんは逃げるように、神宮寺の前から消えた。
「そういえば、三週間後に力を試す機会があるって言ってたな。試験でもあるんだろうか」

 試験は問題ないだろう。ウトナピシュテヌが受からない試験を普通の魔道師にするはずがない。神宮寺は久々に剣持に会うために職員室に向った。
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