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辺境魔法学校  作者: 金暮 銀
【誕生編】
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第四章 飛べない雛は岸壁に打ちつけられ死ぬ(六)

 剣持から内容の説明が終わり、いよいよマジチェフェルの開始の段となった。

 嘉納が竹刀袋を開けた。袋の中にはイボイボがついた金属製の太目の黒光りする棍が入っていた。嘉納は扉を開けて中に入る前に、魔法を唱えた。


 魔法は唱え終わると、嘉納が持つ棍がピンク色に一瞬光った。『金属強化』だろうか。

 次に嘉納は、別の魔法を唱えた。おそらく『魔鋼の盾』だ。


 もう一つ、魔法を唱えた。唱えている魔法には覚えがあった。『異界の気配』だ。

 魔法先生も剣持も、ドームに武器を持ち込む行為も、入る前に魔法で身を固める行為については禁止しなかった。


 神宮寺も『異界の気配』を唱えると、ドームの中にいる何かと、嘉納の前に展開される、見えない魔法の盾の存在に気が付いた。


 嘉納がゆっくり棍を構えて、ファフブールと対峙した。『異界の気配』で、相手のいる方向は嘉納にわかっているはず。だが、『異界の気配』では、詳細な形状や色が見えるわけではない。それでも、ファフブールが人間より大きな球形の存在なのがわかった。


 一分が過ぎた辺りで、ファフブールが動いた。ファフブールが伸ばした見えない刃が、嘉納の前面に広がる盾をあっさり貫通して、嘉納に向かった。


 嘉納は、見えない刃の攻撃を棍で弾いた。

 棍の表面が削れた。嘉納の持ち込んだ武器が鉄か鉛か知らない。けれども、魔法で強化されているはずの金属でも、ファフブールは易々と削った。


 ファフブールの攻撃が続いた。嘉納は自分からは一切、攻撃に出ない。ひたすら、攻撃を凌いでいった。嘉納の持つ棍が、どんどん削られていった。


 ファフブールが何かを飛ばした。二番を背後から襲った、見えない小さな凶器だ。小さな凶器は、嘉納の前に展開する『魔鋼の盾』によって停まった。


 神宮寺の体を緊張の血流が駆け巡った。

 今のところ嘉納は、ファフブールが飛ばす見えない小さな凶器を『魔鋼の盾』で凌ぎ、見えない刃を、卓越した棍を操る技術で全て凌いでいた。


 攻撃を受け続ける棍は削れ続けている。きっと棍は、いずれ破壊される。ファフブールの小さい凶器は『魔鋼の盾』が防いでくれているが、効果はいつまで続くかわからない。


『魔鋼の盾』が切れたところで、ファフブールがマシンガン並みに小さな凶器を連射すれば、嘉納に『魔鋼の盾』を掛け直す時間はない。


 神宮寺は目の前のマジチェフェルが模擬戦ではない事態を祈った。嘉納は防御するのが精一杯で攻撃する暇がない。もし相手を倒させねばならないのなら、合格はない。


 棍がついに切断された。嘉納は短くなった棍を両手で構えた。嘉納は精一杯、身を守ろうとしていた。


 ファフブールの動きが停まったのが、わかった。ファフブールがなぜか、黄色い円の中に移動していった。


 ガラス扉の鍵が開く音がして、魔法先生が宣言した。

「終了です。優をあげましょう。傷は医務室で処置してもらいなさい。処置が終ったら帰っていいですよ」


 嘉納は折れた棍を持って出てきて、一礼した。よく見れば、嘉納の腕に小さな切り傷を負っていた。きっと棍が切断された時に負ったものだ。


 魔法先生は丸眼鏡を掛けているので、そんなに視力は良くないと思っていたが、嘉納とファフブールの僅かな攻防も見逃していなかったと感じた。


 魔法先生が普段の口調で指示を出した。

「日直さん、次の六番を呼んできてください」


 神宮寺には考えがあったので、小清水さんの代わりに、生徒を呼びに行った。


 六番の生徒を呼びに行くために、エレベーターに乗ると、嘉納が声を掛けてきた。

「おおきにな、神宮寺。アドバイス、助かったで。何もわからんまま、入っていたら、死んでいたかもしれん。この礼は、いつか、させてもうらわ」


「それにしても、金属製の棍を持ってくるなんて、よく考えたな」


 嘉納は冷静に思考を披露した。

「ああ、あれか。なんとなく攻撃系の魔道書が図書室に並んでいるのを見て、襲われるんやないかと嫌な予感はしていたんや。かといって、身い守るために、刀を持ち込むわけにはいかんやろう。だから、一応、鍛錬用に使っていた棍を持ってきたんや。道具の持込不可って言われてへんかったしな、ダメ言われたら、置いてきたらいいだけの話やし」


「でも、鉄製の棍を削って折るなんて、ファフブールの一撃って、なんて強力なんだ」


 嘉納の顔が引き締まった。

「棍の材料は鉄やない。鉄より重くて硬い、タングステン鋼や。鉄製やったら、『金属強化』が掛かっていても、一撃で簡単に切断されたかもしれんし、棍が切断された時に一緒に片腕も切り落とされたかもしれん。あないな化物、刀や銃じゃあ、どうにもならんぞ」


 嘉納の言葉に、不安になった。神宮寺自身、嘉納のように武器を用意しているわけでもないし、攻撃魔法や防御魔法を習得しているわけでもない。果たして生き残れるだろうか。


 神宮寺が不安に思っていると、嘉納が別れ際に声を掛けた。

「わいが円柱状の部屋に入って、魔法先生が終了の合図を掛けるまで、約四分やった。四分逃げ切れば、試験は通してもらえるかもしれん。飛んでくる小さな凶器の攻撃は、全て直線やった。『魔鋼の盾』がなくても、ドッジボールの要領で逃げ回れば、なんとかなるかもしれんぞ。生き残れよ、神宮寺」


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