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辺境魔法学校 作者:金暮 銀
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第四章 飛べない雛は岸壁に打ちつけられ死ぬ(七)

 神宮寺は六番の受験生を呼びに行った時「内緒だよ」と前置きしてからアドバイスした。魔法先生に対する、ささやかな反抗だ。

 先に掛けておける魔法があるのなら、ガラスの円柱状空間に入る前に先に唱えておくのが良い。相手は見えないが、最初は黄色い円の内側にいて、少しの間は様子を見ているので、動かない。

 攻撃には最低二種類あって、近距離攻撃は刀のようなもので、遠距離攻撃は尖った長い釘のようなものを飛ばしてくる。

 相手の攻撃を躱し続けても試験合格になるから、逃げを優先したほうがいい。
 六番は神宮寺のアドバイスは聞いたが、試験会場に入るなり、いきなり『精錬の雷』の攻撃魔法で、ファフブールを攻撃した。電気が迸り、ファフブールに命中した。

 ファフブールは攻撃を受けると、すぐに突進して、刀で六番の首を切り落とした。
 六番が死に、七番の番になった。神宮寺は六番のときと同じようにアドバイスした。

 今度は、ファフブールは攻撃魔法を受けるとすぐに動き出すので、もし攻撃するなら、動きながら魔法を唱えるといいと、アドバイスを付け加えた。

 七番はマジチェフェルが始まると、すぐに『白銀の刃』で、ファフブールに攻撃を唱えた。白く光るブーメランが、ファフブールに命中した。

『白銀の刃』が当たったが、ファフブールは何事もなく移動を開始した。
 七番は二回目に『魔法の弾丸』を、全くファフブールのいる位置と逆方向に放った。見えない何かが、厚いガラスの壁に当る音だけがする。
 七番は位置が掴めず、ファフブールの見えない刃に背後から胸を貫かれ、即死した。

 八番は一回目で『魔法の弾丸』を唱えた。見えない弾丸がファフブールに当った音がした。次に運よく二回目の『魔力の光球』を唱えると、方向がピッタリで、光るバレーボールのような弾が命中した。

 でも、攻勢は、そこまでだった。八番は三回目の『鋳造の魔炎』を唱える前に立ち止まってしまい、正面から真っ二つにされた。

 九番は攻撃魔法一つの他に、防御魔法の一つ『魔鋼の盾』を選んでいた。
 神宮寺は「攻撃魔法はどうやらファフブールには効かないので、『魔鋼の盾』を掛けたらひたすら逃げろ」とアドバイスした。だが、無駄だった。

 九番は神宮寺のアドバイスを無視して『鋳造の魔炎』をすぐに使って、突進してきたファフブールに切りつけられた。

『魔鋼の盾』はファフブールの刃の貫通を許したものの、威力を殺ぐぐらいの効果はあったのか、九番は死なずには済んだ。それでも、大出血の重傷だった。

 神宮寺は三人の死者と一人の重傷者を目の辺りにして、二つの可能性を知った。
 一つ、攻撃魔法を覚えてきた人間は、誰しも攻撃魔法に自信を持ち、攻撃する行為を優先してしまう。結果、ファフブールを早くに怒らせ、殺される。

 約四分間ずっと逃げれば合格で、最初の一分は何もしなければファフブールが動かない。それなのに、攻撃魔法の習得者は習得魔法の威力を過信して、一分間のファフブールが動かない時間のアドバンテージを捨てているのだ。

 一つ、生徒レベルが使える攻撃魔法では、いかなる攻撃魔法をもってしても、ファフブールにダメージを与えられない可能性がある。

 六番、七番、八番は攻撃魔法しかを選んでいなかった。つまり、攻撃魔法を二つ選んだ生徒は、魔法を習得する前の段階で、死がほぼ確実に決まっていた。

『異界の気配』は、やはり重要な魔法だ。相手の位置がわからなければ、ファフブールが動き出すと位置を知る術がなくなる。位置がわからない相手から逃げるのは至難だ。

 神宮寺は重傷を負った九番の搬送を小清水さんに任せて、十番を迎えに行きがてら、アドバイスしに行きたかった。

 けれども小清水さんは、目の前で繰り広げられる惨劇に怯え、血を流す搬送者を前に無言で首を振り、搬送業務を拒否した。小清水さんは恐怖で頭がパニックになっていた。

 止むを得ず、神宮寺が九番を医務室に届けて戻ってくると、小清水さんに呼び出された十番が死体となり、作業員に運ばれて行くところだった。

 小清水さんは『同胞への癒』を習得している。即死レベルの怪我でもなくても、医務室まで保ちそうにないほどの怪我を負った人間を医務室まで延命させる力があると思われた。

 いざとなれば頼むつもりだったが、パイプ椅子に座って青褪め、恐怖に囚われた精神状態での魔法の使用は、望めない。小清水さんは人を助けるどことか、小清水さん自身がマジチェフェルに参加するために円柱状空間に入れるかすら、怪しい状況になっている。

 でも、これは他の生徒にマジチェフェルの内容を教えてられるチャンスかもしれない。

 神宮寺は剣持に進言した。
「剣持先生、小清水さんにこれ以上、日直の仕事は、無理です。怪我人が出た場合、俺が搬送した帰りに、人を呼んできていいでしょうか」

 剣持は冷たい視線で神宮寺を見下ろし、厳しい口調で聞いてきた。
「なぜだ? 小清水に搬送は無理でも、呼び出しくらいはできたぞ。お前が一人で走り回らなくてもいいだろう」

 他の生徒にアドバイスしたいから、とは言えなかった。
 何期もマジチェフェルを見てきた剣持なら既に、マジチェフェルを受ける生徒の行動がいつもと違い、原因が神宮寺のアドバイスのせいだと気付いているかもしれない。

 どう言い訳しようとかと思うと、魔法先生がいつもの軽い口調で口を開いた。
「いいでしょう。日直が二人いる理由は、助け合うため。十五番君が一人でやりたいというのなら、好きなようにさせてあげなさい」

 神宮寺は魔法先生が「君が何をやっても、結果は変わらないよ」と、言っている気がしてならなかった。でも、少しでも死人を減らし、魔法先生に一矢を報いたいと思い、神宮寺は搬送と呼び出し役をやろうと決めた。

 それに結局、他人のマジチェフェルでの成功が、神宮寺の成功に繋がると考えた。
 攻撃魔法を三つ習得した十一番に、神宮寺は今までの考察を含め、アドバイスした。だが、無駄だった。十一番は全く神宮寺の意見を聞き入れず、攻撃魔法を使い、六番の時と同様に死んだ。

 十二番は神宮寺のアドバイスを聞いたが、ファフブールの位置がわからず、簡単に背後を見せて、小さな凶器を背後から浴びせられ、医務室送りになった。

 医務室送りになる生徒の体を持ち上げる度に、体の緑衣に赤い部分が増えていった。
 神宮寺は、どうしても生き残る生徒を増やしたかった。

 十三番は『魔鋼の盾』のほかに『魔鋼の鎧』を習得していたので、期待した。
『魔鋼の盾』ではファフブールの見えない刃は防げないが、『魔鋼の鎧』ならば防げるかもと期待して、十三番が円柱状空間に入るのを見送った。

 もう一つ、理解させられた。生徒レベルの防御魔法ではファフブールの飛び道具は防げても、見えない刃は防げなかった。十三番もまた正面から、バッサリと刀傷を負った。

 つまり、最初に攻撃魔法を選んでも防御魔法を選んでも、訪れる結果は変わらない。

 例外は、嘉納だけだ。
 嘉納は運よく、防御用に転用できる魔法二つに、相手の位置を知る魔法を習得していた。
 なおかつ、身を守る特殊な道具の持ち込みに気が付き、持ち込んだ道具を操る技術に優れていた。そんな嘉納のような者でない限り、無傷での合格はない。

 もう目の前で行われているのは、マジチェフェルという名の実習ではない。死か、流血かの、残酷なゲームだ。
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