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辺境魔法学校 作者:金暮 銀
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第四章 飛べない雛は岸壁に打ちつけられ死ぬ(三)

 談話室から出ようとすると、嘉納と遭った。
 嘉納は機嫌よく声を掛けてきた。

「どうや、神宮寺、魔法の習得は進んでいるか。わいは二つの習得、とっくに終ったで。今日の昼に図書室に行ったら、図書室が開いていたから、もう一冊、借りてきたところや」

 神宮寺は水天宮先生に呆れた。土日も開けるなら、最初に行った時に一言、教えてくれてもいいだろう。どれだけ、やる気のない先生なんだ。神宮寺も正直に告白した。

「俺は、今しがた習得を二つ終えたところ。これから、使いこなす練習をするから、三つ目の魔法は、習得は無理かなー」

 神宮寺は嘉納の髪が濡れていて、シャンプーの香りがしている事実に気が付いた。
 別に男のシャンプーの香りに心惹かれるなんて性癖は全くないが、不思議だった。

「あれ、嘉納、風呂に入ってきたの。もう、風呂の時間は男女ともに終っているけど」
「風呂の掃除は、昼間みたいなんや。そんで、風呂場は夜は鍵を掛けておらん。電気は点かんけど、湯船にお湯は張ってあるし、お湯は出るんや。暗いの我慢したら、入れるで」

 いい情報を聞いた。ちょうど風呂に入ってから寝たいと思ったところだった。神宮寺と嘉納は、互いに月曜日に健闘しようと誓い合い、別れた。

 神宮寺は風呂道具を持って、風呂に向った。
 風呂場の電気は、嘉納の言った通り、点かなかった。けれども、風呂場のすりガラスの窓からは外の明かりが、ぼんやり入っていたので、全く光がない訳でもない。

 深夜の闇の中で体を洗って湯船に浸かった。お湯の温度は適度に冷めていて、ちょうどよかった。
 静かに湯船に身を浸していると、脱衣所から明かりが入ってきて、すぐに消えた。どうやら、嘉納や神宮寺の他に、夜に風呂に入れる仕組みに気が付いていた人間がいるらしい。

 女性だったらと、ふと期待するが、それはないだろう。
(女性五人に対して、男は十六人、確率からいって、きっと男性だ。風呂場は暗いので、たぶん相手は先に湯船で動かずに浸かっている俺に気が付かないだろうな)

 暗い中で、先に風呂に入っている人間のマナーとして、風呂場に入ってきた人物を驚かさないように「先に入っていますよ」と声を掛けた。

「神宮寺君なの」と小清水さんの声がした。途端に、くらっと頭に血が上り、驚きと欲情の狭間に、神宮寺は嵌った。

 暗闇で、体の細部は見えない。でも、体型はシルエットで、ある程度は見えた
 とりあえず、神宮寺は洗い場に背を向け、壁側を向いた。けれども、小清水さんは風呂場から出て行かず、シャワーを使い始めた。

 小清水さんの大胆な行動には驚いた。てっきり、慌てるとか、すぐに出て行くか、すると思った。だが、水の音から推理するに、小清水さんは普通に髪か体を洗っている。

 小清水さんの大胆さに、逆に神宮寺が恥ずかしくなった。されど、神宮寺の視線は水音のしている小清水さんのシルエットを、視界の隅で何度も小刻みに確認していた。
「いや、あの、小清水さん。俺、入っているんだけど」

 小清水さんは平然と言葉を掛けた。
「うん、それは、もう聞いたよ。でも、こう暗くちゃ、お互いの体が見えないから、別にいいんじゃないの。それに、神宮寺君なら、いいかなと思って」

「神宮寺君ならいいかな」とは、意味深な発言だ。
 言葉の意味が許すところは、暗闇で一緒に風呂に入る行為までだろうか。それとも、その先にまで行ってもいい、という意味だろうか。

 神宮寺は胸を高鳴らせ、冒険の一歩を踏み出そうかと悩んだ。

 壁から洗い場内に視界をそっと戻したところで、小清水さんは平然と会話を続けてきた。
「魔法の習得、うまくいっている? 私、さっき、やっと二つ目の『遮断の防御円』まで習得したよ」

 裸の男女が風呂場でする会話ではない日常会話が、場にあった。神宮寺は暗闇で体を洗う小清水さんのシルエットを見た。とても小清水さんの小さい身体が美しく見えた。

 きっと今なら、小清水さんへの魅惑の一歩を踏み出しても、小清水さんは受け入れてくれるかもしれない。でも、一歩を踏み出していいのだろうか?

 小清水さんと、キスを重ね、自然に触れ合う仲にまで進展していれば、自然と行動できたかもしれないが、いきなりの混浴展開だ。神宮寺は、どうしていいか、わからなかった。

 どう反応していいか全然わからない神宮寺は、とりあえず日常会話で「俺も、さっき二つ目を覚えたところ」と小清水さんに答えた。

 神宮寺は湯船から立ち上がり、注意した。
「小清水さんは、女の子だから、きちんと入浴の時間を守ったほうがいいよ。この時間帯に、暗くて良ければ風呂に入れる情報は、嘉納から聞いた。嘉納も知っていたから、他の男を知っていると思うよ。暗闇で裸でいるところを襲われたら、危険だよ」

 顔は暗くてわからないが、小清水さんの声には心配や羞恥といった感情はなかった。
 小清水さんは、ちょっとからかうように声を出した。
「大丈夫よ。魔法があるから。それとも、神宮寺君は私を襲いたいの?」

 一瞬、心臓が撥ねた。
「俺は、何もしないよ」

 本当は気分に流され、後ろからそっと抱き付きたかった。
 冷徹な神宮寺が頭の中で警告した。小清水さんは月曜には消えるかもしれない。一線を越えてはいけない。神宮寺、お前の命と夢も、一緒に消されるぞ。

 欲情と冷たい計算の葛藤。でも、最後は、冷たい計算と、恋愛経験の少なさが、小清水さんの身体に触れるのを躊躇わせた。

 神宮寺は、小清水さんを気にしないように装って、湯船から上がった。あとは普通に前を隠して、体を洗う小清水さんの背後を、三十㎝の距離を通って、脱衣所に戻った。

 神宮寺は着替えると、脱衣所の外に出て、入口から離れた場所で、他の男性が風呂場に入らないように見張っていた。誰かが来たら入るのを停めるつもりだった。

 幸い、小清水さんが上がるまで、誰も風呂に入ろうとする人物がいなかった。
 小清水さんが出てくると、神宮寺は身を隠すように談話室に逃げ込み、やり過ごした。

 風呂場の会話の余韻が冷めると、月形さんの「あと二週間もすれば、精神的におかしくなる人も出始める」の言葉が脳裏を過ぎった。

 神宮寺には変わった自覚がない。でも、蒼井さんは変わり、小清水さんの性格にも、変化があった。
(俺の内面もいずれ変っていくのだろうか?)

 初めて辺境魔法学校で魔法を身に着けていく恐ろしさを感じた。
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