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辺境魔法学校 作者:金暮 銀
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第一章 単純かつ明確な入学試験(二)

 学校に着くと、試験場からだいぶ離れた場所に下ろされた。とはいっても、辺境魔法学校の敷地は百エーカーを超えるので、敷地内には下りているのだが。

 エカテリーナを下りようとして席から腰を上げると、剣持から、携帯電話を今すぐ渡すように厳命された。剣持の顔はヘルメット一体型ディスプレィのせいで見えないが、きっと厳しい顔をしているに違いない。

 携帯電話を渡すと、剣持が命令した。
「まず、エカテリーナの存在を喋った場合、お前を方法を問わずに殺す。それと、お前はここまで受験生用バスではなく、自転車で来たことにするんだ。自転車ならそこら辺に落ちているから、勝手に拾え。いいな」

 良いも悪いもない。試験で死ぬのならまだ納得できるが、送ってもらって勝手に秘密を暴露され、殺されるなんて、まっぴらごめんだ。

 とはいえ、感謝はしよう。試験に余裕を持って間に合ったのは、事実なのだから。
(待てよ? 剣持は魔法先生の手前、顔を立てたのであって、試験中に事故を装って仕留めに来るつもではないだろうな)

 剣持が遠くの建物を指差し、厳しく釘を刺した。
「あの灰色の、四角い葬儀場のような建物が試験会場だ。方向を間違うなよ。逆方向に行けば、敷地内の核燃料最終処分場に出るからな。今度、遅刻したら、確実にアウトだぞ」

 方向は間違いそうにないが、核攻撃が可能なステルス戦闘攻撃機を極秘に隠し持っている魔法学校の中に、核燃料の最終処分場があるって、かなり危険な状況な気がする。

 ひょっとして辺境魔法学校って、原発利権も真っ青な日本の暗部が詰まっているとか。
 辺境魔法学校は本当に廃棄済み核燃料棒を地下深くに埋めて、処分しているのだろうか。

(深く考えるのはよそう。なんか、某有名なイギリスの魔法学校的なイメージとはだいぶ懸け離れた魔法学校だが、今やり遂げなければいけないのは、入学試験だ)

 魔道師になれれば、学校に残る気はない。狂人魔法先生ともおさらば。卒業後は札幌に出て、辺境魔法学校の出身者で組織する、呪い屋の組合員に入ればいい。身内になって、今日の送迎時の記憶を封印すれば問題ないだろう。触らぬ神になんとやらだ。

 神宮寺はエカテリーナが透明になると、落ちている自転車に乗って試験会場を目指した。
 試験会場に入る前に、放射線防護服のような服装に身を包んだ人物に、入口でいきなり写真を撮られ、受験票を作られ、渡された。

 ひどく雑な扱いで、商品タグを付けられるような対応だが、受験料も写真代もタダなので、文句は言うまい。今の神宮寺に、タダほど魅力的言葉はなかった。

 指定された灰色の建物に入った。一見すると、改装されたばかりの綺麗な感じの、百席ほどある長距離バスの待合室と間違いそうな場所。辺境魔法学校の受験生控室だった。

 受験生控室には百席ほどあるが、立っている人間が何人かいる。受験生は、百人を少し超えた程度だろうか。生還率は二割なので、八十人以上が死ぬ計算になる。

(俺以外はバタバタ死んで欲しいと思うが、人を呪わば穴二つという諺もある。あまり、死ね、死ね、と思うのは、よそう。他人が死ぬより、俺さえ生き残ればいい、と考えたほうが精神衛生的にもいい)

「受験番号、五十五番の方」

 神宮寺誠は、旅行鞄を持ち、下り階段前に設けられた受付に移動した。
 全身がクリーム色の放射線防護服から頭部だけを自由にしたような格好の受付嬢の一人が受験番号を確認すると、開口一番、聞いてきた。

「大人用紙オムツをこちらで用意してありますが、ご購入なさいますか。必要でしたら、一枚五百円になります。エチケット袋とセットだと、六百円になります」

 中学、高校と受験してきたが、試験前に紙オムツとエチケット袋の購入を勧められたのは初めての経験だった。

「えーと、その、入学試験を受けるのに、紙おむつ着用は、義務ですか」

 受付嬢が笑顔で答える。
「義務ではありませんよ。ただ、受験室内にはトイレはあるんですが、一つしかなくて、毎年トイレで亡くなられる方が必ずいるんですよ。そのため、受験中にトイレが使用不能になることが、よくあるんです。なので毎年、ご用意させていただいています。なにせ、一度、試験が始まると、終るまで、試験室からは死んでも出られませんので」

 何か、壮絶な事態を告げられた気がする。試験終了後に合格者はすぐに入学手続きだ。パンツとズボンを汚したままで手続きするとなれば、かなり恥ずかしくて不快だろう。

 遠くから来ているので泊まりを考え、パンツの替えは持って来たが、ズボンの替えは持ってきていない。とはいえ、十六になって紙オムツは、さすがに抵抗感が半端ではない。

 神宮寺が逡巡していると「売ってください」と隣で、かぼそい女性の声がした。
 可愛い声だったので思わず、横目でチラリと見た。

 ピンクのボーダーのジャケットにスカートを穿いた、背の低い丸顔の同年代くらいの女の子が恥ずかしそうに隣の受付で紙オムツとエチケット袋を買っていた。

 あの子が紙オムツを穿くんだろうかと、少女がオムツを穿いた姿を不埒に想像をしていると、神宮寺に対応している受付嬢が不要と判断したのか話を進めていった。

「五十五番ですので、階段を下りて、受験室十一番に入室してください。それと、試験前にこの書類にサインをお願いします」

『辺境魔法学校入校試験において、死亡した場合。一切の責任を辺境魔法学校に求めることはしません。また、試験終了前に死亡した場合に、辺境魔法学校に持ち込んだ、私の死体を含む、一切の財物の贈与を辺境魔法学校に認めます。
      二〇一六年四月三日  氏名・
                                   辺境魔法学校校長殿』
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