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辺境魔法学校  作者: 金暮 銀
【誕生編】
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第三章 親鳥は歌い、雛たちは騒ぎ出す(三)

 それから金曜日まで、魔法先生の異世界の言葉による授業は変わらず続いた。魔法先生の授業は変わらず続いたが、月形さんに、ちょっとした変化があった。


 月形さんは二日目からなぜか、ボタン付きのジャケットに、デニムタイトのスカートの私服で登校してきた。


 授業は、失神者は出るが、火曜日は合計六人、水曜日は四人、木曜日二人、金曜日は一人と、失神する人間が減っていったので、日直の仕事は楽だった。


 木、金にいたっては日直の仕事が楽すぎたので、日給二万円は貰いすぎと思った。けれども、余計な言葉を口にせず、しっかりアルバイト代はいただいた。


 金曜日の授業終了間際に、魔法先生が連絡事項を告げた。

「すいませんが、来週の月曜と、火曜は、私がいないので、剣持君に授業をやってもらいます。これからも、私が時々留守の時は、剣持君が教えます。できるだけ、私が授業をやりたいのですが、なにぶん教師だけやっているわけではないので」


 生徒の誰かが「魔法先生は、どちららにいらっしゃるんですか?」と質問した。

 神宮寺は生徒の発した何気ない質問に、剣持が僅かに顔を顰めたのに気付いた。


 魔法先生は剣持の表情に気付いたかどうかわからないが、いつものように温和な笑みを浮かべて答えた。

「アフリカでどうも、核開発が上手くいってないようなので、お手伝いしに行ってきます。先生は魔法だけでなく、核開発を指導しているんですよ」


 生徒の何人かが、魔法先生が冗談を滑らせたと思ったのか、乾いた笑い声を上げた。

 神宮寺は笑えなかった。

 おそらく魔法先生の発言は本物だ。魔法先生は世界に核や兵器をばら撒こうとしている。


 魔法先生が夏休みに入る高校生に注意でもするかのように言葉を続けた。

「皆さんは子供ではないので、注意は不要だと思いますが、初めての週末だからといって敷地内を探検者気取りで散策して、立ち入り禁止区域には入らないでくださいね、最悪、処分もありますから。それと、くれぐれも学校から逃亡はしないように。では良い週末を」


 夕食後、談話室がいい具合に空いていたので、小清水さん、蒼井さん、嘉納と会話ができた。三人で他愛もない話をしたあと、週末の予定をどうするかの話題になった。


「せっかくだから、四人で近くの町に散策に出掛けようよ。まあ、街っていっても、人口二万人くらいの小さな町だから、遊ぶとこないかもしれないけど、行かないと、何があるか、わからないでしょ」と蒼井さんが提案し、小清水さんが喜んで提案に乗った。

「賛成。私まだ学校に来てから外に出たことないから、行ってみたい」


 嘉納は、すまなさそうに断った。

「蒼井、小清水。わいはちょっと週末バイトがあるんや。だから一緒に行けん」

 小清水さんが不思議そうに「学校から紹介されたバイト?」と尋ねた。


 嘉納は決まり悪そうに言葉を濁した。

「いや、その、なんていうか、学校に入学する前から、入学できたら、近く親戚から毎週末に、畑仕事を手伝ってほしいと頼まれていてな。前からの約束なんや」


 小清水さんは嘉納を気遣った。

「え、でも、月~金まで授業で、週末アルバイトって、体が保つの?」

「体力は自信ある。授業ゆうたって十五時三十分までやろう。それに、調子が悪かったら週末は休んでいいことになっているから、大丈夫や」


 小清水さんは「ふーん」と納得したが、神宮寺は別の疑惑を持っていたので聞いた。

「そういえば、嘉納さ。寮に帰ってくるの、いつも遅いだろう。何しているの」


「なにって、それは、敷地内を色々探検しているんや、滅多に見られる場所やないし、卒業したら、もう来ないかもしれんからな。まあ、想い出作りいうやつや」


「男の子しているねー」

 蒼井さんは茶化したが、嘉納の正体が薄々ながら見えてきた気がした。


(俺はステルス戦闘攻撃機を見てしまっている。嘉納は元自衛隊員っていっていたけど、まだ国のどこかの機関に所属しているんではないだろうか)


 辺境魔法学校と国との関係は不明だが、単なる学校法人と国との関係ではないだろう。

 案外、日本が表立って動けない事件や、表沙汰にできない他国への援助を辺境魔法学校を通して、行っていると思った。


 とはいえ、魔法先生の性格からして、従順に国に対して協力しているとは思えないし、国の内部でも色々な派閥があるのかもしれない。だからこそ、どこかの誰かが辺境魔法学校に人を送って監視しておきたいと思ったのではないだろうか。


 神宮寺が嘉納の親戚なら、仮に死亡率八割の試験を受けると知ったら、受かったら畑仕事を手伝ってくれ、なんて頼まない。嘉納の週末は、任務の報告をしに行く日だ。


 神宮寺は嘉納の背景を推察したが、心の中に留めておいた。どうせ、本人は本当でも認めないし、嘉納が公安でも防衛省でも内閣情報調査室の人間でも、構わない。


(俺が魔道師になって資格が取れるまで、学校があればいいだけの話だ)


「神宮寺君は週末、どうするの」と小清水さんが尋ねてきた。

「寮に残って、荷物の整理をするよ。それに、少し疲れたから、週末はゴロゴロする」


 嘘だった。整理するほど荷物はないし、疲れてもいない。嘉納でもいればまだいいが、小清水さんと蒼井さんと、三人で町を散策するのは、どうもまだ抵抗感がある。


 小清水さんはそんな抵抗感を読み取ったのか「じゃあ、蒼井さんと二人で遊んでくるね」と気遣ってくれた。


 神宮寺が一緒に行けない事態に対して、小清水さんは少し寂しそうでもあった。

(小清水さん、ひょっとして俺に気があるのかな)


 ちょっと期待したが、すぐに期待を打ち消した。

(もし、仮に俺に気があったとしても、俺は応えられない)


 授業の厳しさがわからない以上、思い入れは命を危険に曝し、夢を捨てる事態にもなりかねない。

(それに、ひょっとしたら、小清水さんは、実は意外としたたかで、気のあるふりをして俺を利用しようとしているだけかもしれない。なんせ、まだ会ったばかりだ。用心にするに越したことはない)


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