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辺境魔法学校 作者:金暮 銀
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第三章 親鳥は歌い、雛たちは騒ぎ出す(二)

 校舎から出ると、蒼井さんが入口に立っていた。蒼井さんは神宮寺を待っていたらしく、横に並んで歩き始めた。

 蒼井さんが開口一番に「私、辺境魔法学校でやっていけるのかな?」と聞いてきた。

 午前中の授業で倒れて、午後も授業に出らなかったのがショックだったのだろうか。
 昼間、水天宮先生が「二十二番はダメだ」の言葉が脳裏をよぎるが、真逆の言葉を蒼井さんに掛けた。

「初日、倒れたのは、気にしなくていいんじゃないかな。午前で八人が倒れて、復帰できたのは四人だけ。午後だって二人が倒れた、きっと最初は、そんなものなんだよ、たぶん」

 二人で帰る帰り道、蒼井さんは、ちょっとだけ、はにかんで告白してくれた。
「私さ。辺境魔法学校に来たのは、復讐のためだったんだ。意外、だった?」

「別に、魔道師になれば、法に縛られない。それに、辺境魔法学校は他の魔法学校と違って、魔法で人を傷つけてはいけないって決まりもない。卒業生には呪い屋をやって、人の恨みを晴らしている人間もいるって聞くから、驚かないよ。俺はまだ卒業後の将来を考えていないけどね。案外、東京や大阪で呪い屋を開業しているかもしれないよ」

 蒼井さんが少し暗い口調で「神宮寺にも憎い人がいるの?」と尋ねてきた。
「そりゃ、いるさ。人間だもの」

 また、嘘を吐いた。神宮寺には捕まらないとはいえ、殺してしまいたいほど憎んだ人間なんていなかった。神宮寺は嘘を続けた。

「でも、魔道師になっても、自分のためには復讐しないよ。自分のために復讐したって、金にならないろう。俺の目的は金。呪い屋なら、仕事時間が短くて、けっこう稼げそうだからいいかな、って思っただけ」

「じゃあ、もし、私が魔道師になれなくて死んだが、代わりに復讐してくれる?」

 蒼井さんが真顔で聞いてきたおで、神宮寺は冗談を滲ませて答えた。
「それは難しいかな。だって、依頼人が死んだら、お金が入ってこないだろう。タダ働きはしたくないな」

 蒼井さんがすぐに、反応した。
「じゃあ、体で前払いしてもいいよ。神宮寺が残ったら、神宮寺が私の依頼をこなしてよ」

 蒼井さんの言葉に、心臓が大きく高鳴った。顔を見ると、真剣な表情があった。
 きっと、ここでOKすれば、今晩にでも覚悟を決めた蒼井さんが部屋に来る。

 蒼井さんの体のラインが、視界に入る。蒼井さんは細身だが、体は出るところは出て、引っ込むところは、引っ込んでいる。

 神宮寺は蒼井さんの申し出を受けてもいいかなという誘惑に駆られた。でも、蒼井さんの申し出を受けられなかった。

 別に、女が嫌いなわけではない。知らない人間を殺したくない、という理由でもない。
(こんな異常な状況下で蒼井さんと関係を持てば、俺は蒼井さんに強い愛情を持つだろう)

 愛情を持つのが怖かった。
(愛情が湧けば、俺は蒼井さんを失った時に、耐えられるだろうか)

 蒼井さんの学籍番号は二十二番、学籍番号が魔道師になれる可能性を表しているなら、蒼井さんはきっと、近いうちに亡くなる。水天宮先生も蒼井さんの死を予期していた。

(平常心でなくなった時が重要な試験の前だとしたら、俺は命を懸けた夢を壊してしまう。辺境魔法学校に来る前に決めたじゃないか、利己的であろうと。夢のためには排除できるものは、排除する)

 神宮寺は優しい笑顔を作るように心がけ、冷たい嘘を吐いた。
「依頼料の先払いは、止めたほうがいいよ。まだ生徒の段階のわけだし。それに、俺が授業で先に死ねば、タダ払いになるよ。蒼井さんが復讐したいと思うなら、蒼井さんは絶対に復讐したいって思わないと、ここでは生き残れないよ、生きて一緒にここを出よう」

 蒼井さんが寂しい表情をして伝えた。
「神宮寺って、冷たいね。私が意地悪で、優しさに付け込もうとしただけなのかな」

 聞こえの良い嘘がばれたと思った。
(でも、ばれてもいい。他人の願いは他人の願い。俺の夢は俺の夢だ)

 神宮寺は嘘がばれても、嘘を続けた。
「蒼井さんが意地悪なんてことはないよ。一応、聞いておくけど、蒼井さんが復讐したい人って、誰?」

 蒼井さんは憎しみを露にすることなく、俯き加減に悲しそうに「私の姉」と告げた。
 蒼井さんは復讐したい人の名を告げると、先に先に帰ってしまった。神宮寺は追いかけず、間違っても追いつかないように、ゆっくりした足取りで、ウルリミン寮に帰った。

 どういう理由で、自分の姉に復讐したいのかわからない。でも、蒼井さんの口から直に聞けないのなら、そっとしておこう。

 聞けば、蒼井さんの古傷を抉る行為になりかねないかもしれない。そこまで、神宮寺自身、深く立ち入る気にはなれなかった。

「皮肉なものだな。小清水さんは、亡くなったお父さんの面影を追いかけて、辺境魔法学校に来て、蒼井さんは、生きている姉に復讐するために、辺境魔法学校に来た」

 ゆっくりした足取りでウルリミン寮に着くと、管理人室を覗いた。
 今日はテレビが消えていたが、電光掲示板の二十一番の明かりが消えていた。

 二十一番が誰だったのか思い出せなかった。おぼろげな記憶では午前中に倒れて、医務室に運ばれていった人間の一人だった記憶はある。

 生死はわからないが、確かなのは、初日の授業で一人が脱落した事実だ。さっそく、明日は机を一つ物品庫に戻さなければ。
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