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辺境魔法学校  作者: 金暮 銀
【誕生編】
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第二章 二十二人の魔道師の雛たち(五)

 教室正面の巨大液晶ディスプレィに電源が入り、魔法先生が注意事項を述べた。

「授業でノートを取る必要は、ありません。液晶ディスプレィに映す資料は全てテキストに記載してありますので、必要があれば見てください。新たなテキストが必要になれば、また配ります。では、授業を開始します」


 授業が始まると、先生は未知の言語で勢いよく喋り出した。

 神宮寺は席が一番後ろだったので、全生徒の困惑ぶりが全て見えた。

 すぐに、最前列正面に座っていた月形さんが手を上げた。


 魔法先生は言葉を止めたが、魔法先生ではなく、剣持が口を開いた。

「なんだ、月形、何か質問か」


 月形さんが立ち上がり、毅然と尋ねた。

「魔法先生が何を話しているかわかりません。言葉を聞く限り、英語でも中国語でもロシア語でもラテン語でもないようです。理解できません、どのような言語を学んでおけば授業を理解できるのでしょうか」


 剣持はこの手の質問には慣れているのか、淀みなく答えた。

「先生がお話しになっている言語は、地球上の言語ではない。だから、学習のしようがない。正確な翻訳も不可能だ。理解は不要。異国の詩の朗読会だと思って、ずっと聞いていろ。全ての教程が終る頃には意味があるものになっている。無駄ではない」


 神宮寺は心の中で叫んだ。

(授業、そんなんでいいのか! そんな理解できない言語の詩をただ聴いているだけで、三ヵ月で魔道師になれるのか)


 これが夜中のテレビの広告から出た言葉なら絶対に信用できない。だが、黙って聞いているだけで効果がある発言は、魔法先生の助手で不可視の魔法を使える剣持の言葉だ。

(信用して良いのか?)


 神宮寺の質問を他所に、月形さんは冷静に「わかりました」と席に着いた。月形さんが座ると、異世界の詩の朗読会がまた開始される。こうなれば聞くしかない。


 開始十分で体に異変が現れた。体がぽかぽかと暖かくなり、冬に暖房がちょうどよく利いている部屋にいるような感覚に陥った。


 前の席で、誰かが音を立てて机に突っ伏した。いきなり最初の授業十分で寝た奴が出たと思った。 魔法先生は怒ることなく、熱弁をふるうように、詩の朗読を続けていった。

「神宮寺、小清水、医務室だ。的場を医務室に連れてゆけ」と剣持が叫んだ。


 いきなり名前を呼ばれてびっくりしたが、的場と呼ばれた生徒の側に行くと、的場は白目を剥いて痙攣していた。

 神宮寺は昨日、嘉納が病人を運んだように、的場の腕を胸の前で組ませ、小清水さんに足を持ってもらい 教室外に置いてあるストレッチャーに的場を乗せた。


 医務室への搬送は一人でもできるので、小清水さんには教室に残ってもらった。小清水さんへの得点稼ぎでもあるが、魔法先生や剣持へのアピールでもあった。


 医務室ではすでにこの事態を予測していたのか、心臓除細動器や点滴を用意していた水天宮先生がいた。


 看護婦二名がすぐにベッドに的場を運ぶと、水天宮先生から神宮寺に指示を出した。

「十五番はすぐに、戻れ。これで済むはずがない」


 神宮寺がストレッチャーを押して教室に戻ると、別の生徒が倒れていたので、すぐに、同じ要領でストレッチャーに乗せて、運んで医務室に行った。


 医務室に着くと、看護婦がすぐに空いているベッドに生徒を運ぶ。戻るとまた別の生徒が倒れていたので、ストレッチャーに乗せた。


 ストレッチャーに乗せた段階で、別の生徒が倒れる音がした。急いでストレッチャーを医務室に送ろうとすると、剣持の声が後ろから飛んできた。

「戻れ、神宮寺。倒れた蒼井のほうが重症だ、こっちを先に運べ」


 神宮寺はすぐに出そうとしたストレッチャーを戻して、乗せていた生徒を下ろして、蒼井さんを乗せ替えて、医務室まで特急で運んだ。


 蒼井さんに初日で消えられては、大いに困る。せっかくのグループが、初日で崩壊だ。

 蒼井さんは重症と言われたので気になったが、見た目は眠っているようにしか見えない。


 医務室に蒼井さんを運ぶと、水天宮先生が神宮寺に聞こえるよう愚痴った。

「なんで、今期はこんなに倒れるペースが速いんだ。処置が追いつかない」


 神宮寺は手遅れにならないように、剣持の言葉を伝えた。

「すいません、水天宮先生。剣持、いや剣持先生の話だと、こっちの生徒のほうが重症なんです。それにすでに、もう一人、倒れている奴がいるんで、そいつも運んできます」


 水天宮の美しい顔が、鬼のように険しくなった。

「なんだと、ええ、全く。もう、今期のやつらは根性がないわね。倒れるなら、列を作って、順に倒れてくれないかしらね」


 神宮寺はすぐに蒼井さんを看護婦に渡すと、さっきの人間を医務室に運ぶために戻った。

 教室では、魔法先生が、生徒が何人ばたばた倒れようが構わず、異界の言語で話し続けていた。


 神宮寺はひょっとして、午前中は授業にならないのではと思った。最悪、全員が異界の詩の朗読会で倒れるのではとすら思えた。


 最悪の予感は外れたが、神宮寺は医務室と教室を午前中に八往復する事態になった。

 日直が緑衣を着せられる理由もわかった、倒れた生徒の中には耳や目から血を流していた生徒もいた。緑衣を着ていないと、服が汚れる。生徒が流した血を拭き取り、清掃する作業も日直の仕事だったので、ほとんど授業を聞けなかった。


 終業のベルが鳴った。一日目、最初の午前の授業が終った。


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