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辺境魔法学校 作者:金暮 銀
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第二章 二十二人の魔道師の雛たち(四)

 医務室は教室から五分ほど離れた場所にあった。
 中は教室に比べて倍以上も広く、ベッドも十床あって、小さな病院のようだった。奥には手術室というプレートも見えたので、驚きだった。

 医者が座るスペースの机は大きく、医学とは関係名不明な書物が何冊も載っていた。
 医務室には。ショートカットで黒髪の三十代くらいの、白衣を着た、いかにもやり手といった感じの女医がいた。

 女医の胸のネームプレートには「(すい)天宮(てんぐう) 麻美(あさみ)」と書いてあり、水天宮先生の隣にはクリーム色の看護師の服を着た二人の女性が立っていた。

 看護師の顔はにこやかだが、やはり試験会場の受付の女性と同じ印象を受けて、気味が悪かった。もう、受付の女性も、学生課の人も、看護師も、人間ではないのかもしれない。

 案外、目の前に立つ人の形をした存在こそ、受験して失敗した人間の成れの果てかも。
 神宮寺と小清水さんがアルバイトの日直者である事実を水天宮先生に告げると「あら、そう」とだけ、水天宮先生は感想らしき物を漏らした。

 明らかに人間的に、神宮寺に興味を示していなかった。
 仕事にも熱心そうにも見えなかった。なんだか、義務なので嫌々なっている感じだ。

 挨拶が終ったので剣持のところに戻ろうとすると、水天宮先生より「教室の外に、このストレッチャーを置いておきなさい」とだけ短い指示があった。

 授業で患者を運ぶストレッチャーをなぜ使うのが不明だった。
 ひょっとして、ずっと立ったまま授業して失神者が出るのを予期しているのだろうか?

 部屋からストレッチャーを持ち出そうとすると、水天宮先生が小清水さんの後ろから、そっと髪を撫ぜた。

 驚いて小清水さんが振り向くと、水天宮先生が腰を屈め、小清水さんを見て声を掛けた。
「十五番はどうか知らないけど、あなたは良い日直者になるわよ」

 小清水さんの顔の陰になっているので、顔はわからないが、水天宮先生は笑っている気がした。でも、あまり、感じの良い笑いではないように思えた。

 部屋を出て、ストレッチャーを教室に運ぶと、一番乗りで蒼井さんが教室に来ていた。
「蒼井さんは一番乗り」といって微笑むと、最前列、正面の席に座っていた。やる気満々だ。神宮寺は愛想笑いで蒼井さんに合わせた。

 剣持に全ての準備が終った事実を告げた。
「うん、そうか、ご苦労だったな。席は決まってないが、日直者はすぐに教室から出入りできるように、端の席に座っておけ。あとは、授業中に働いてもらう」

 二十人入りの教室に臨時の机を置いた。授業開始が近くなり次々と生徒が入ってくる。
 生徒は、どうやら高校を二年生で抜けて無理やり入学した神宮寺が最年少で、最年長が四十代の男性で、比較的年齢層が高めだった。男女比は圧倒的に男が多かった。

 小清水さん、蒼井さん、月形さん以外には、女性は三人しかいなかった。なんか、クラブ活動を地域の市民文化教室と合同でやっているような構成の部屋だった。

 神宮寺は出入りやすい位置に座れと言われたので、一番後ろに増設した古い席に座っていた。お金を貰って学校に来ているのだ。席が古いくらいは、我慢しなければ。

 一番後に教室に入ってきたのは、制服姿の月形さんだった。皆が私服で市民文化教室のようになっている部屋で、東京魔法高校の制服のままの月形さんの姿は、かなり目立った。

 月形さんは視線を気にすることなく、古くて敬遠されていたもう一つ古い席に腰掛けた。
 席が隣同士になったが、月形さんは挨拶しなかった。

 授業開始時間になり、魔法先生が入ってきて、教室左奥の教壇に立ち、反対側の入口付近に剣持が立った。
 神宮寺の「起立、礼、着席」の合図のあと、魔法先生が教室を見回して蒼井さんを見た。

「君は確か、二十二番の子だったよね」
 蒼井さんが「はい、学籍番号二十二番、蒼井加奈子です」と元気よく答えた。

 魔法先生は、いつもの柔和な顔のまま、蒼井さんに命じた
「意欲は買いますが、そこは、一番良い席なので、月形さんに譲りなさい。他の人は、そのままでいいですよ。あとは似たりよったりですからね」

 蒼井さんは魔法先生の言葉に一瞬、面食らっていた。でも、臨時に増設した、一番後ろの席に座っていた月形さんと、場所を交代した。

 蒼井さんとしては面白くないだろう。せっかく一番乗りして良い席を取ったのに、名前で呼ばれることもなく、後から来た月形さんに臨時増設した古い席を譲らされたのだから。

 魔法先生は蒼井さんの気持ちを全く顧慮した様子もなく、言葉を続けた。
「皆さん、私は名前が覚えるのが苦手です、ですので、人が減るまで、必要のあるときは番号で呼びます。私も名前で呼ばず、魔法先生で結構です。入口に立っているのは、授業の助手をしてくれる剣持君です」

 教師らしくない発言だが、ここは魔法学校で、普通の学校とは違う。
(違うのはいい。俺も十五番と番号で呼ばれたし、小清水さんも十六番と呼ばれていた。だが、なぜ、月形さんだけは一番と呼ばれず、「月形さん」なんだ?)

 魔法先生が、柔和な表情を浮かべたまま、言葉を続けた。
「最初は教室が狭く感じるかもしれませんが、一ヶ月もすれば、半分はいなくなるので、それまで我慢してください。それと、ここは学校で、私は先生ですが、私は平等ではありません。お金のない者と、素質のない者は、差別します。実社会のルールと同じです」

 月形さんが名前で呼ばれたのは、月形さんだけが期待されている証だと感じた。はっきり言わなかったが、学籍番号は将来性が有望な順番に符番されているのではないだろうか。

(そうであれば、あ行の蒼井さんが、た行の月形さんより学籍番号が遅いのも、納得がいく。だとすると、俺の十五番は、どうなんだ。入学時点であまり有望ではないという状況を意味しているのだろうか)

 神宮寺は、すぐに自らを奮い立たせて言い聞かせた。十五番でもいいじゃないか。魔法先生は「あとは似たり寄ったり」と発言していた。

(つまり、月形さんだけが特別なので、他にチャンスがないわけではない。入学時には差が付いたのなら、授業でとり戻せばいい。大事なのはスタートラインではない。ゴールラインだ。月形さんが魔道師になれる一枠目に入るのなら、二枠目に入るのは、俺だ)
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