第38話 魔族領への進攻 後編
「進攻!開始!」
王城から、兵士が3列になって出て来て、王都の通りを進む。
通りの両側では、人々が魔族を倒せ!魔族を倒せ!と連呼している。
こっそりと、王都に入ったロックは、通りの隅で、
「馬鹿どもが!」
と、つぶやく。
***
門の外の兵と合わせ、2万の兵が並ぶ。
ステージの上の豪奢な椅子に、王様が座っている。
マディソンは、声をはりあげる、
「皆、よく集まってくれた!これより、にっくき魔族領に進攻する。正義は我らにあり!」
「進攻!開始!」
2万人の兵士が、一斉に進軍を始める。国境まで、2日の距離だ。
途中で野営を挟み、国境に到達する。
目の前に、大きな砦がそびえ立っている。
「進め!進め!」
マディソンが鼓舞する。
その時だった、砦から一斉に多くの岩が飛んで来た。
前衛の兵士が岩に潰されて行く。
「何だ!投石器か!それも数が多い!なぜ、進攻場所が把握されている?!」
砦の門が開き、大量の魔族の兵士が出てくる。
人間の兵士は、パニック状態だ。次々と倒されて行く。
「どうしてだ!なぜなんだ!」
マディソンが叫ぶ。
魔族の兵士が3万、到底、進攻などできない。
次々と人間側が押し戻されて行く。逃げ出す兵士もいる。
「なぜだ!なぜなんだ!計画は、完璧のはず!」
3時間もすると、人間側の兵士は倒されるか、ちりぢりに逃げまどっていた。
「マディソン様、もうダメです。撤退を!」
将軍が進言する。
「なぜだ?なぜなんだ?」
マディソンは、それを繰り返すのみだった。
「ちぃ!ダメだこれは!」
「撤退!撤退だぁ!」
将軍が命令する。
撤退をする人間兵を、追おうともせずに、魔族軍は、けがをした人間兵の介抱を始めた。
それを見た将軍は、これは、やってはいけないことだったんだと理解した。
「撤退中止!生き残ってるけが人を連れ帰れ!」
人間兵は、魔族兵から、けが人を引き取ると、王都に戻って行った。
***
王都に戻ると、将軍は、事のあらましを民に告げた。
民たちは、自分達の愚かさを知ったのであった。
マディソンは、ひたすら、
「なぜだ?なぜなんだ?」
と繰り返しており、廃人と化していた。
王様は、マディソンの口車に乗せられていたとは言え、進攻を命じ、多くの犠牲者を出した責任を負って、王座から追放され、王の弟が、新しい王となった。
マディソンをバックアップしていた貴族たちも、なにかしらの罰を受け、勢力をそがれた。
もちろん、投獄された王都の冒険者ギルド長も解放された。
***
ローゼンバッハの街にて。
王都の魔族領への進攻が、失敗に終わった話は、瞬く間に各地に伝わった。
冒険者ギルド長は、
「当然のことだ。戦死者もあわれよのぅ」
とつぶやく。
商業ギルドでは、ギルド長が、
「王都への取引を再開します」
とだけ告げた。
***
マシューの家では、ネネが、
「エリーちゃんの所と、戦争にならなくてよかったわ」
「そうだね、万事うまく行ったよ」
***
魔王城では、
「魔王様、わが軍の被害は軽微でございました」
と大臣が言う。
「それは、僥倖よのぅ。マシュー殿には、いつか礼をしなければのぅ」
「左様でございます。魔王様。あの方には、大きな借りができもうした」
「マシュー殿は、わしのかけがえのない親友である」
***
こうして、魔族領への進攻は、幕を閉じたのであった。




