第35話 王都の不審な動き
「王様、巷では、魔族領を奪還せよと言う声が大きくなっております」
大臣のマディソンが進言する。
「貴族内でも、領土が欲しいのか、同じような声が高まっております」
「魔族領か、確かに魅力的ではあるが、戦争が起こるぞ。余は、この平和がよいのじゃが」
「なにを、弱腰な!貴族や民に侮られますぞ!」
「そうは言うがのぉ」
「王よ!今こそ魔族を叩く時です!兵力も十分ありますがゆえ」
「勝算は、あるのか?」
「魔族は、この平和で、平和ボケしております。ここに奇襲をかければ、人間族の勝ちです」
「おぬしが、そうまで言うなら、奇襲をかけてみろ」
「ははぁ、このマディソン、王の期待に応えてみせましょうぞ」
こうして、魔族への攻撃が決まった。
***
俺は、実家の町に帰省していた。延び延びになっていた工場の視察だ。
工場長に案内され、工場を視察する。
「うーん、工場は大きくなったが、効率が悪いなあ」
「そう言われますと?」
「一人が一つの製品を最初から最後まで作るのは、効率が悪く、人も多く必要だろう?」
「何か、解決策はあるのでしょうか?」
「分業制にしたら、どうだろう。製品作成を手順ごとに分けて」
「ある人は、この製品のここだけを作り、次に回して、その次の手順で、さらに製品の一部を作ると言った具合にどんどん完成品に近づけて行く」
「そうすれば、作業者は、決められた手順で、決められた部品のみを作ればよい訳だから、生産効率も上がる」
ベルトコンベヤーが、欲しい所だが、この世界にはまだない。
「なるほど、そう言うことですか。分かりました。作業手順を大幅に改善いたします」
「よろしく頼んだよ」
工場を後にして、実家に帰る。
「豪邸だなぁ、これじゃ両親は、ここを離れたくは無いだろう」
両親に、晩ごはんはいらない旨を告げて、ロックさん達がいる酒場に行ってみる。
案の定、ロックさん達が酒と食事をとっていた。
「こんばんは、ロックさん達」
「なんだ、マシュー、帰っていたのか」
「どうした、酒場なんかに来て」
俺は、勧められた椅子に座ると、食事を頼んだ。
「実は、報告がありまして」
「なんだ、かしこまって」
「俺、Aランクに昇格しました」
「おぉ、そうかAランクになったのか、俺たちと並んだな」
「はい!身分不相応ではありますが」
「そんなことはないだろう、あの火炎魔法は凄かったぞ」
食事を食べながら、あれこれと雑談をしていると、
ロックさんが、声を潜めて、まじめな顔で言った、
「知ってるか、今、王都では、魔族領に進攻すべきとの声が高まっている」
「えぇ!魔族領に!」
「シッ!声が大きい」
「どうやら、王様も乗り気らしい」
「王様も、マジですか」
「うわさだがな、結構確実な話だ」
「じゃあ、戦争に」
「なるだろうな、まったく王都は、何を考えているのか」
この話は、これで終わりだった。
しばらく、また雑談をして、俺はロックさん達に挨拶して、酒場を出た。
実家への帰り道、魔族領への侵攻の話が頭から離れなかった。




