↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と虎の首縊りの迷宮の悪役令嬢  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
97/102

海辺の少女の帰郷と、悪徳社長の餞別

社交シーズンが終わった翌朝。王都の南門には、海辺の村へ向かう乗合馬車が停まっていた。


「本当に、あっという間でした」


 小さな旅行鞄を抱えたクロエが、名残惜しそうに王都の街並みを見上げる。


「当たり前よ。あんたが休む暇もなく働いたからね」


 愛結は腕を組み、いつものように尊大に言い放った。


「カタログ配り、注文受付、令嬢どもの無駄話の聞き役。全部ひっくるめて、なかなか役に立ったわ」


「えへへ。社長に褒められると、嬉しいです!」


「褒めてないわよ。業績評価をしてるだけよ」


 愛結はそう言いながら、ナイジェルから受け取った封筒をクロエへ突き出した。


「ほら。今回の報酬よ」


「えっ? でも私、お給料は『王都での貴重な経験』だって……」


「結果を出した人間には払うのが、私の主義なの。無給で働かせるのは、最初にやる気を引き出すための方便よ」


 封筒の中には、目を疑うほどの金貨と、海辺の村の民宿へ届ける品物の注文書が入っていた。


「こ、こんなに……!? それに、これは?」


「王都の貴族ども向けの『海辺の特別滞在プラン』よ。あんたの家の民宿を、愛結商店の提携宿にするの。予約の窓口はこっちで持つから、繁忙期には容赦なく客を送り込むわ」


「それ、すごくありがたいですけど……社長、結局うちをまた忙しくするつもりですよね?」


「当然でしょう。客が来れば儲かる。あんたたちも儲かる。私も紹介料をもらえる。誰も損しない完璧な仕組みよ」


「ふぉっふぉっふぉ。大局を見極めた、まことに完璧な計略ですな」


 見送りの場にまでついてきたバルガスが、茶筒を抱えたまま頷いた。


「お爺さんは、帰りの馬車代を払ってから口を開きなさい」


 愛結に睨まれ、バルガスは咳払いをして視線を逸らす。


「アユ様ああああ! クロエ殿! 海辺に戻られても、鍛錬を怠ってはなりませんぞおおお!!」


 ゴードンが南門に響き渡る声で叫ぶ。


「……ん。王都で嫌な男に絡まれたら、手紙を出して。私が処理する」


 シャーリーはいつも通り無表情で言った。


「処理って言葉を、もっと穏便な意味で使いなさい!」


 クロエは、にぎやかな面々を見回してから、最後にナイジェルの前でぺこりと頭を下げた。


「ナイジェルさんも、本当にお世話になりました。社長のこと、これからもよろしくお願いします」


「はい。……クロエさんも、お元気で」


 ナイジェルは、いつもの疲れた顔に穏やかな微笑みを浮かべた。


 その直後、彼はさりげなく愛結の背後を確認した。クライス公爵の刺客が潜んでいないか、まだ警戒しているらしい。


「大丈夫よ。お父様はもう帰ったでしょう」


「『次は確実に首を刎ねる』と仰っていましたが」


「……あれは挨拶みたいなものよ」


「貴族の挨拶が物騒すぎませんか?」


 クロエは思わず吹き出した。


「やっぱり、お二人は仲がいいですね」


「よくないわよ!」


「先生、それは否定が早すぎます」


 愛結が真っ赤になって怒鳴ると、クロエは楽しそうに笑いながら馬車へ乗り込んだ。


「社長! また王都に遊びに来ます! 次はちゃんと、お給料の出るお仕事をくださいね!」


「成果次第よ! 次までに、民宿の帳簿を読めるようにしておきなさい!」


 馬車がゆっくりと走り出す。窓から大きく手を振るクロエに、愛結はそっぽを向きながら片手だけを上げた。


 姿が見えなくなってから、愛結は小さく呟く。


「……あの子が来ると、うるさいけど悪くなかったわね」


「ええ。先生が、少しだけ楽しそうでした」


「聞こえないふりをしなさい、ナイジェル」


 愛結は足早に商会へ向かう。その耳が、朝日に照らされてほんのり赤くなっていることを、ナイジェルは何も言わずに見守っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。