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龍と虎の首縊りの迷宮の悪役令嬢  作者: 秦江湖


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絶体絶命の弁明と社長の庇い

(どうする!?ここで「嘘でした」って言えば、お見合い話が復活してユリアンと結婚させられる!でも、このまま「恋仲です」って言い張ったら、ナイジェルが物理的に斬り殺される!)



 愛結の頭の中で、二つの破滅ルートが激しく交錯する。


 公爵の剣が、再びへたり込むナイジェルに向かって振り下ろされようとした、その瞬間。


「待って、お父様!!」


 愛結は、ナイジェルの前に両手を広げて立ちはだかった。



「……どけ、エレノア。そいつはお前をたぶらかした罪人だ」


「違うわ! こいつは私をたぶらかしてなんかいない! 私が……私が勝手に、こいつを気に入ってるだけよ!」


 愛結の叫びに、公爵の動きがピタリと止まった。


 背後にいるナイジェルも、信じられないものを見るように目を見開いている。


「……お前が、勝手に気に入っているだと?」


「そうよ!こいつはただの胃弱で、いっつも目の下にクマを作ってるし、文句ばっかり言うし、可愛げなんて欠片もないわ!でも……!」


 愛結は、震える声で言葉を紡いだ。


「でも、こいつは誰よりも有能なのよ!私の無茶苦茶な命令にも完璧に応えてくれるし、いざという時は命懸けで私を守ってくれる!だから、こいつは私のもの(所有物)なの! お父様だろうと、こいつに指一本触れることは許さないわ!」



 それは、愛結なりの「社長としての所有欲」の宣言だった。


 しかし、周囲の貴族たち(そして父親)の耳には、完全に「身分違いの情熱的な愛の告白」にしか聞こえなかった。



「……社長……」


 少し離れた場所で見ていたクロエが、感動したように両手を組み合わせている。


「なるほど……。お前の覚悟はわかった」


 公爵は、ゆっくりと剣を下ろした。


「だが、クライス公爵家の令嬢が、一介の執事と結ばれるなど、社交界が許さん。お前は、すべてを捨てる覚悟があるというのか?」


「捨てるわけないじゃない! 私は愛結商店の社長よ! 公爵家の力も、この執事の能力も、両方とも私の利益のために使い倒してやるわ! 文句があるなら、私がこの国の経済を牛耳って、誰も文句を言えないようにしてやるわよ!」



 愛結の、あまりにも傲慢で、あまりにも彼女らしい宣言。


 その言葉を聞いた公爵は、しばらく無言で愛結を見つめていたが……やがて、フッと小さく息を吐いた。


「……ふん。相変わらず、強欲で傲慢な娘だ。私に似てな」


 公爵は剣を鞘に収め、クルリと背を向けた。


「お、お父様……?」


「帝国とのお見合いは、白紙に戻しておこう。……だが、そのナイジェルが少しでもお前を泣かせるようなことがあれば、次こそは確実に首を刎ねる。そう伝えておけ」


 公爵はそれだけ言い残すと、来た時と同じように重厚な足音を響かせて会場を去っていった。



「……助かった……」


 愛結は、その場にへたり込んだ。


「せ、先生……」


 ナイジェルが、震える手で銀縁メガネを押し上げながら、愛結の隣に座り込んだ。


「ありがとうございます……。先生のおかげで、なんとか命拾いしました……」


「べ、別に!あんたを庇ったわけじゃないわよ! 優秀な社員を失ったら、私の利益が減るから言っただけなんだからね!」


 愛結は真っ赤な顔でそっぽを向いた。


「……はい。わかっております」


 ナイジェルは、まだ少し震えが残る声で、それでもどこか嬉しそうに微笑んだ。


「ですが、先生が『私のものだ』と言ってくださったこと……一生忘れません」


 その言葉に、愛結の心臓がドキンと大きく跳ねた。


 周囲の貴族たちが生温かい目で見守る中、愛結は「うるさいわね!さっさと立ちなさい!」と怒鳴りながら、自分の顔の熱を誤魔化すのに必死だった。


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