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龍と虎の首縊りの迷宮の悪役令嬢  作者: 秦江湖


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公開処刑と、圧倒的勝利

 数日後。王都で開催された大規模な夜会。


 会場の中心では、ガレット商会の会長が、取り巻きの貴族たちを相手に得意げに語っていた。


「いやはや、愛結商店の新作ドレスとやら、随分と粗悪品が出回っているようですな。やはり、ぽっと出の小娘が経営する商会など、その程度の品質ということです」


「その点、ガレット商会の品は信頼できますな」

 貴族たちが同調して笑い合う中、不意に、氷のように冷たい声が響いた。


「あら、随分と楽しそうね。私の悪口で盛り上がっているのかしら?」


 群衆が道を開け、そこから愛結が姿を現した。


 漆黒のドレスに身を包み、背後には黒髪の執事ナイジェルと、正装を着た大男ゴードンを従えている。その圧倒的な「強者のオーラ」に、ガレット商会の会長は一瞬怯んだが、すぐに嘲笑を浮かべた。


「これはエレノア令嬢。いやはや、御社の偽物騒動、お気の毒ですな。品質管理が甘いのでは?」


「品質管理? ええ、確かに甘かったわね。……市場に『ゴミ』をばら撒くような害虫を、今まで放置していたんだから」


 愛結は、ナイジェルに向かって指を鳴らした。


 ナイジェルが一歩前に出て、懐から分厚い革張りの手帳――アルベルト王子が持ち帰った『裏帳簿』を取り出した。


「なっ……! そ、それは……!」


 ガレット会長の顔から、一瞬で血の気が引いた。


「ガレット商会の裏帳簿よ。偽物の星砂ドレスを製造した工房への発注記録、そして、それを市場に流すために一部の貴族に渡した賄賂のリスト。……全部、ここにバッチリ書かれているわ」


 愛結が裏帳簿をヒラヒラと揺らすと、周囲の貴族たちがざわめき始めた。


「ば、馬鹿な! それは偽造だ! 我が商会を陥れるための罠だ!」


「偽造かどうか、近衛騎士団に提出して調べてもらいましょうか? ああ、そうそう。このリストには、今あなたの隣で笑っていた貴族様たちの名前も載っているみたいだけど?」


 愛結が視線を向けると、取り巻きの貴族たちは青ざめ、蜘蛛の子を散らすように会長から離れていった。


「き、貴様……! クライス公爵家の権力を笠に着て、やりたい放題しおって!」


「権力? 違うわよ。私は『情報』と『証拠』で殴ってるだけ。……さて、ガレット会長。この帳簿を騎士団に突き出されて、商会ごと取り潰されるか。それとも……」


 愛結は、悪魔のような笑みを浮かべて一枚の書類を差し出した。


「我が愛結商店に、ガレット商会の店舗と在庫をすべて『慰謝料』として譲渡するか。好きな方を選びなさい」


「なっ……! 店舗と在庫をすべてだと!? そんな無茶苦茶な要求が通るわけがないだろう!」


「通るわよ。だって、あなたが選べるのは『破滅』か『完全降伏』の二択しかないんだから」


 愛結の冷酷な宣告に、ガレット会長はその場にガクリと膝をついた。


「……わ、わかった。サインする……」


「賢明な判断ね。ナイジェル、書類の回収を」


「畏まりました、先生」


 ナイジェルが素早く書類を回収し、愛結商店の「合法的な乗っ取り」が完了した。


「フハハハ! 見事な手際だな、エレノア!」


 一部始終を見ていたユリアン皇子が、拍手をしながら近づいてきた。


「やはり君は、私の妃に相応しい女だ! どうだ、帝国でもその手腕を振るってみないか?」


「だから、あんたとはお見合いしないって言ってるでしょ! 私にはナイジェルがいるんだから!」


 愛結が再び「恋仲宣言」を口にした、まさにその時だった。


「――そのふざけた戯言、誰が許したと言った?」


 会場の入り口から、地を這うような、恐ろしく重低音の声が響き渡った。


 その声を聞いた瞬間、愛結の体がビクッと硬直し、ナイジェルは胃を押さえてその場に崩れ落ちそうになった。


「お、お父様……!?」


 愛結が震える声で呟く。


 そこに立っていたのは、クライス公爵家の当主であり、愛結の父親――冷徹なる軍神と恐れられる、厳格なる公爵その人だった。


 その手には、抜身の長剣が握られている。


「わ、私の命も、ここまでですか……」


 ナイジェルが、絶望の表情で遺言の準備を始めた。



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