ライバル商会の妨害と倍返し
「ど、どうしよう……! お父様が乗り込んでくる前に、なんとかして噂を揉み消さないと!」
愛結は社長室の中をウロウロと歩き回りながら、パニックに陥っていた。
「アユ様! 公爵様が攻めてこられたら、このゴードンが身を挺してお守りしますぞおおお!!」
「……ん。アユ様、お父さんの飲み物に痺れ薬を盛って、眠らせておく?」
「身内を物理的に排除しようとするんじゃないわよ!」
愛結が従業員たちにツッコミを入れていると、社長室のドアがバンッと開き、マリアが慌てた様子で飛び込んできた。
「エレノア社長! 大変です!」
「マリア? どうしたの、そんなに慌てて。新作ドレスの追加注文でも来た?」
「違います! 市場に、愛結商店の『星砂のドレス』の偽物が出回っているんです!」
「はぁ!?」
愛結の顔つきが、パニックに陥る令嬢から、冷徹な悪徳社長のそれへと一瞬で切り替わった。
「どういうことよ。詳しく説明しなさい」
「はい……。デザインは私たちのドレスにそっくりなんですが、使われているのは本物の星砂ではなく、ただの安物のガラス玉です。それを『愛結商店の新作』と偽って、半額以下の値段で売り捌いている商会があるらしくて……」
「……なるほどね」
愛結は、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「うちの独勝ちを妬んだライバル商会が、粗悪品をばら撒いて『愛結商店のブランド価値』を落とそうって魂胆ね。……いい度胸じゃない」
愛結の瞳が、怒りでギラリと光る。
父親の襲来という個人的な危機は一旦棚上げだ。商売の邪魔をする奴は、絶対に許さない。
「先生。このままでは、我が商会の信用に関わります。早急に対処を」
ナイジェルが、胃薬を飲み下しながら冷静に進言する。
「当然よ! やられたら十倍にしてやり返すのが、愛結商店のモットーよ! ……ナイジェル、偽物を流している商会の特定はできる?」
「すでに調査の手は打ってあります。おそらく、王都で二番目の規模を誇る『ガレット商会』かと。しかし、確たる証拠がありません」
「証拠がないなら、作ればいい……いや、力ずくで奪い取ればいいのよ!」
愛結はバンッと机を叩いた。
「シャーリー! ガレット商会の会長の動きを24時間監視しなさい! ゴードンは、市場に出回っている偽物を全部回収(物理)してきなさい!」
「ハッ! 偽物を売る不届き者は、一人残らず素手で引き裂いてやりますぞおおお!!」
「……ん。会長の寝首を掻いて、裏帳簿を奪ってくる」
「だから殺すなって言ってるでしょ! あくまで『合法的』に追い詰めるための証拠を集めるのよ!」
愛結が怒鳴り散らしていると、ふらりと社長室に現れた人物がいた。
「やあ、エレノア嬢。お困りのようだね」
爽やかな王子スマイルを浮かべた、アルベルト王子だった。
「アルベルト? あんた、こんな時に何しに来たのよ。今は忙しいの」
「まあまあ、そう言わずに。……実は、君の役に立ちそうな『お土産』を持ってきたんだ」
アルベルトは、懐から一冊の分厚い革張りの手帳を取り出し、愛結のデスクの上にポンと置いた。
「これ、ガレット商会の裏帳簿だよ。偽物の製造ルートと、貴族への賄賂の記録がバッチリ載っている」
「……は?」
愛結は、信じられないものを見るような目でアルベルトを見た。
「ど、どうやってこんなもの手に入れたのよ!?」
「簡単なことさ。僕の『顔と身分』を使って、ガレット商会の幹部たちと少し親睦を深めただけだよ。愛結商店でアルバイトをして鍛えられたからね、情報収集くらいお手の物さ」
アルベルトは、悪びれもせずにウインクをした。
「……あんた、本当に王族なの? やってること、完全に悪徳商人の手先じゃない」
「君に仕込まれたんだから、仕方ないだろう?」
愛結は裏帳簿をパラパラと捲り、その内容を確認してニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。
「完璧ね。これさえあれば、ガレット商会を骨の髄までしゃぶり尽くせるわ。……よくやったわ、アルベルト。特別ボーナスを出してあげる」
「さあ、反撃の狼煙を上げるわよ! 次の舞踏会で、ガレット商会を公開処刑にしてやるんだから!」
愛結の高笑いが響き渡る中、ナイジェルは一人、胃を押さえて震えていた。
(……商会の危機はこれで去るでしょうが、私の命の危機(公爵様の襲来)は、刻一刻と迫っているのです……)




