社交シーズン開幕と、強欲社長の漁場宣言
砂漠の国アルキミアでの「ぼったくり遠征」から数週間後。
王都は、一年で最も華やぐ季節――「社交シーズン」を迎えていた。
「さあ、あんたたち! いよいよ一年で一番の稼ぎ時が来たわよ!」
愛結商店の社長室で、愛結はバンッと机を叩いて立ち上がった。
「各地から見栄っ張りの貴族たちが集まるこの季節。連中の財布の紐は、ユリアン皇子の頭のネジと同じくらい緩みきっているわ! この絶好の漁場で、一網打尽にしてやるのよ!」
「フハハハ! 私の頭のネジが緩いとは失礼な! 私の美しさは完璧に計算されているのだぞ!」
ソファでくつろいでいたユリアン皇子が胸を張るが、愛結は完全に無視した。
「ふぉっふぉっふぉ。アユ様、お任せくだされ」
バルガスが、優雅にお茶を啜りながら立ち上がった。
「私の完璧な計略によりますと、貴族たちが最も金を落とすのは『他者への見栄』であります。つまり、我が商会が誇る新作のドレスと宝石を『これを持っていなければ社交界の笑い者になる』という空気を作り出せば、大局は決したも同然!」
「あら、バルガス爺さん。相変わらず口だけは達者ね。その空気、どうやって作り出すのよ?」
「それはもちろん、現場の若者たちに汗水垂らして働いてもらうのですな! 私はここで、熱いお茶を飲みながら戦況を見守りますぞ!」
「あんたも働きなさいよ!」
愛結は丸めた書類でバルガスの頭をスパーンと叩いた。
「……先生。また悪巧みですか。私の胃薬の消費量が、最近右肩上がりなのですが」
ナイジェルが、新しい胃薬の瓶を開けながら深々とため息をつく。
「人聞きの悪いこと言わないで。私はただ、貴族の皆様に『素晴らしい商品』を提供して差し上げようと言っているだけよ。利益率がたったの五〇〇パーセント程度のね」
「それを世間では『ぼったくり』と呼ぶんです」
「うるさいわね! とにかく、今回の目玉は『アルキミア産・星砂の結晶をあしらった新作ドレス』よ。これを売りさばくために、最強の助っ人を呼んであるわ」
愛結がニヤリと笑うと、社長室のドアが勢いよく開いた。
「社長ー! お久しぶりです!」
元気な声と共に飛び込んできたのは、麦わら帽子を被った日焼けした少女――第4章で出会った海辺の民宿の娘、クロエだった。
「クロエ! よく来たわね。王都の視察はどう?」
「すっごく広くて、馬車がいっぱいでビックリしました! 社長が呼んでくれて本当に嬉しいです!」
クロエが目を輝かせてお辞儀をする。
「そう。それは良かったわ」
愛結は悪魔のような笑みを浮かべ、クロエの肩にポンと手を置いた。
「じゃあ、さっそく働いてもらうわよ。あんた、可愛い顔してんだから、令嬢たちに商品を売り込んで来なさい。もちろん、給料は『王都での貴重な経験』よ!」
「えっ!? 私、視察に呼ばれたんじゃ……」
「労働も視察の一環よ! さあ、行くわよ!」
「先生……。田舎から出てきた純朴な少女を、無給のアルバイトとして酷使するなんて……。あなたは本当に血も涙もない悪徳社長ですね……」
ナイジェルが絶望的な顔で胃薬を飲み込む。
「褒め言葉として受け取っておくわ! さあ、愛結商店の『社交界乗っ取り作戦』、開幕よ!」
愛結の高笑いが、王都の青空に響き渡った。




