砂漠からの帰還と次の獲物
アルキミア王国でのすべての「交渉」を終え、愛結商店の一行はついに王都へと帰還した。
魔導馬車には、火炎石の専売契約書と、砂漠で荒稼ぎした大量の金貨が積まれている。
「ふぉっふぉっふぉ。今回の遠征も、我が完璧な計略のおかげで大成功でしたな。アユ様、これで我が商会は、他国にもその名を轟かせることになりますぞ」
バルガスが、王都の街並みを眺めながら満足げに髭を撫でる。
「そうね。ジャスミン女王も、最後はすっかり私たちの『お得意様』になってくれたし」
愛結は、手元の帳簿を眺めながらニヤリと笑った。
アルキミアとの取引は、最初は強引な不平等条約から始まったが、魔導馬車の導入により、最終的には両国にとって莫大な利益を生むビジネスモデルへと昇華したのだ。
「アユ様ああああ! 次なる戦場はどこですかな!? このゴードン、いつでも出陣の準備はできておりますぞおおお!!」
「……ん。次は、北の雪国? 防寒具を売りつけて、逆らう奴は凍死させる」
「だから殺すなって言ってるでしょ! 物騒な提案ばっかりしないでちょうだい!」
愛結が二人の従業員を怒鳴りつけていると、ナイジェルが温かい紅茶を差し出した。
「お疲れ様でした、先生。今回は、本当に色々なことがありましたね」
「……そうね。色々と、ね」
愛結は紅茶を受け取り、チラリとナイジェルの顔を見た。
砂漠の夜、彼が言った「私は先生の所有物として、最後までお供します」という言葉が、不意に脳裏をよぎる。
(……ああもう、思い出すだけで調子が狂うわね)
愛結は、誤魔化すように紅茶を一気に飲み干した。
「ナイジェル。あんた、王都に戻ったら少し休みを取りなさい。砂漠の香辛料で、胃がボロボロでしょう」
「おや? 先生からお休みをいただけるとは、明日は槍でも降るのでしょうか」
ナイジェルが驚いたように目を丸くする。
「うるさいわね! 優秀な社員が倒れたら、私の利益が減るから言ってるだけよ! しっかり休んで、次のビジネスに向けて体調を万全にしておきなさい!」
「……はい。ありがとうございます、先生」
ナイジェルは、やはりどこか嬉しそうな、穏やかな微笑みを浮かべた。
「さて、と。アルキミアでのビジネスは軌道に乗ったし、次は王都の貴族たちから、さらに金を搾り取る番よ!」
愛結は、馬車の窓から王都の巨大な城を見上げた。
「もうすぐ、王都の『社交シーズン』が始まるわ。各地から金持ちの貴族たちが集まる、絶好の漁場よ。私たちの新作ドレスと宝石を、あいつらに高値で売りつけてやるわ!」
「また、ろくでもないことを企んでいますね……」
ナイジェルがため息をつくが、その声には呆れよりも信頼が滲んでいた。
「当然よ! 私はエレノア・クライスなんだから! この世界のすべての富は、私のものよ!」
愛結の高笑いが、王都の空に響き渡る。




