砂漠の盗賊団と商談
アルキミア王宮での宴から数日後。
愛結商店の一行は、魔導馬車の試作品を走らせ、砂漠の横断テストを行っていた。
「ふぉっふぉっふぉ。素晴らしい乗り心地ですな。火炎石の熱を魔力で冷却に変換するシステム……まさに、大局を見極めた完璧な発明!」
バルガスが、冷房の効いた馬車の中で優雅にお茶を啜る。
「ええ。これなら、どんな過酷な砂漠でも快適に移動できるわ。……あとは、これをどうやって高値で売りつけるかだけど」
愛結がソロバンを弾きながら悪巧みをしていると、突然、馬車が急ブレーキをかけて停止した。
「アユ様ああああ!! 前方に賊ですぞおおお!!」
御者台に乗っていたゴードンが、地鳴りのような大声を上げる。
「賊? 砂漠の盗賊団かしら?」
愛結が窓から顔を出すと、馬に乗った荒くれ者たちが、馬車を取り囲んでいた。
「ヒャッハー! その高そうな馬車と、積んである荷物を全部置いていきな! 命が惜しければな!」
盗賊の頭目が、三日月型の曲刀を振り回して威嚇する。
「……先生。どうやら、私たちの『新商品』が目をつけられたようですね」
ナイジェルが、懐から護身用の短剣を取り出しながら冷静に状況を分析する。
「アルベルト王子とユリアン皇子は、奥の座席に隠れていてください」
「あ、ああ。わかった」
アルベルトは素直に頷いたが、ユリアンはなぜかマントを翻して立ち上がった。
「フハハハ! 私が出る幕のようだな! 賊どもよ、私の美しさに平伏すがいい!」
「あんたは引っ込んでなさい! 余計ややこしくなるから!」
愛結はユリアンの後頭部をスリッパで叩き、座席に押し込んだ。
「さて、と。ゴードン! シャーリー!」
愛結が声を張り上げると、二人の従業員が即座に反応した。
「ハッ! このゴードン、賊どもを一人残らず素手で引き裂いてご覧に入れますぞおおお!!」
「……ん。アユ様、毒矢で全員麻痺させる。その後、身ぐるみ剥ぐ」
「だから殺すな! 毒もダメ! ……いい? 私たちは商人よ。襲ってきた賊は、タダで帰すわけにはいかないわ」
愛結の瞳が、ギラリと金貨の形に輝いた。
「ゴードン! 賊の武器を叩き落として、馬から引きずり下ろしなさい! シャーリーは、賊の身ぐるみを剥いで、持ち物を全部没収よ!」
「承知いたしましたぞおおお!!」
「……ん。了解」
次の瞬間、ゴードンが咆哮と共に馬車から飛び出し、素手で馬を投げ飛ばした。
シャーリーは音もなく盗賊たちの背後に回り込み、次々と急所を突いて気絶させていく。
「な、なんだこいつら!? ただの商人じゃねえのか!?」
盗賊の頭目がパニックに陥っている間に、あっという間に盗賊団は制圧された。
「さて、と」
愛結は、気絶して砂の上に転がっている頭目を見下ろし、邪悪な笑みを浮かべた。
「あんたたち、命を助けてほしければ、私と『契約』を結びなさい」
「け、契約……?」
「そう。あんたたちは今日から、愛結商店の『砂漠ルート専属護衛部隊』よ。給料は歩合制、福利厚生は一切なし。もし裏切ったら……シャーリーが毎晩、枕元に毒虫を置きに行くわよ」
「……ん。三日で狂い死ぬ毒虫」
シャーリーが無表情で補足する。
「ひぃぃぃっ! わ、わかりました! 何でもします!」
頭目は泣きながら地面に額を擦りつけた。
「よし、交渉成立ね! これで、砂漠の輸送ルートの安全はタダ同然で確保できたわ!」
愛結が高笑いすると、ナイジェルが深々とため息をついた。
「……先生。盗賊をタダ働きさせるなんて、悪徳にも程があります。私の胃が、また悲鳴を上げています……」
「うるさいわね! これも立派なコスト削減よ! さあ、王都に帰って、魔導馬車の量産体制に入るわよ!」
こうして、愛結商店は新たな「護衛部隊(奴隷)」を手に入れ、砂漠の国でのビジネスをさらに盤床なものにしていくのだった。




