表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と虎の首縊りの迷宮の悪役令嬢  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
83/93

モテモテの執事と社長の不機嫌

「……なんなのよ、あれ」


 愛結は、令嬢たちに囲まれるナイジェルを遠巻きに眺めながら、不機嫌そうに唇を尖らせた。


「ナイジェル様、砂漠の気候には慣れましたか? よろしければ、私の屋敷で涼んでいかれませんこと?」


「ナイジェル様、その髪……触れてみてもよろしくて?」


「ナイジェル様、胃薬をお飲みになるとか! 私が特製のハーブティーをお淹れしますわ!」


 アルキミアの令嬢たちは、情熱的で積極的だった。


 普段、愛結の無茶振りに振り回され、胃薬を常備している苦労人の執事は、彼女たちから見れば「ミステリアスで儚げな異国の美青年」に映るらしい。


「あ、あの……申し訳ありませんが、私は主人の元に戻らなければ……」


 ナイジェルは冷や汗を流しながら丁重に断ろうとしているが、令嬢たちは一向に引き下がる気配がない。


「あらあら、大人気だな。どうする、エレノア嬢? あのままでは、お前の『所有物』が食い殺されてしまうぞ」


 ジャスミン女王が、ワイングラスを傾けながら楽しげに笑う。


「……別に。あいつが勝手にモテてるだけでしょう。私には関係ないわ」


 愛結はプイッとそっぽを向いたが、その手は無意識にテーブルの上のブドウを力強く握り潰していた。


「おや? アユ様、ブドウから汁が滴っておりますぞおおお!」


 ゴードンが空気を読まずに大声を上げる。


「……ん。アユ様、あの女たち、全員毒殺する?」


 シャーリーが、どこから取り出したのか、怪しげな小瓶を握りしめて提案する。


「しないわよ! あんたたちは黙ってなさい!」


 愛結はシャーリーの小瓶を取り上げると、ズンズンと足音を立ててナイジェルの元へと歩き出した。


「ちょっと、あんたたち! 私の社員に群がって、営業妨害よ!」


 愛結が令嬢たちの輪に割り込むと、彼女たちは不満げに顔をしかめた。


「あら、エレノア様。私たちはただ、ナイジェル様と親睦を深めていただけですわ」


「そうよ。ナイジェル様のような素晴らしい方が、あのような強欲な商人の元で働かされているなんて、可哀想ですわ」



「可哀想……?」


 愛結の額に、ピキッと青筋が浮かんだ。


「あんたたち、砂漠の砂に頭まで埋められたいのかしら? こいつはね、私の元で働くのが一番幸せなのよ! ねえ、ナイジェル!」


 愛結が振り返って睨みつけると、ナイジェルはホッとしたように微笑んだ。


「はい。私は、先生の元で働くことに誇りを持っています。……胃薬は手放せませんが」


「一言余計よ!」


 ナイジェルが愛結の隣にスッと並び立つと、令嬢たちは諦めたようにため息をつき、散っていった。


「……まったく。油断も隙もないわね」


 愛結が腕を組んで文句を言うと、ナイジェルは小さく頭を下げた。


「申し訳ありません、先生。ご迷惑をおかけしました」


「迷惑じゃないわよ。……ただ、あんたが他の女にデレデレしてるのを見ると、なんだか無性に腹が立つのよ。社長としての威厳が損なわれるというか……」


 愛結がぶつぶつと言い訳をしていると、背後から陽気な声が響いた。


「フハハハハ! 見よ、この私の美しさを! 砂漠の夜空すら、私の輝きには敵わない!」


 振り返ると、そこにはユリアン皇子がいた。


 彼はなぜか上半身裸になり、オイルを塗ってテカテカに光り輝きながら、別の令嬢たちの集団に囲まれてポーズを決めていた。


「……あっちのポンコツは、放っておいても問題なさそうですね」


 ナイジェルが遠い目をしながら呟く。


「ええ。むしろ、あのままアルキミアに置いて帰りたいくらいだわ」


 愛結は深くため息をつき、ナイジェルの袖を引っ張った。


「さあ、戻るわよ。まだジャスミンと魔導馬車の商談が残ってるんだから。あんたは私の隣で、しっかりソロバンを弾きなさい!」


「はい、先生。どこまでもお供いたします」


 砂漠の夜風が、二人の間を涼やかに吹き抜けていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ