新商品と熱砂の国の歓迎会
アルキミア王国との不平等条約を強引に締結した翌日。
ジャスミン女王の計らい(という名の監視)により、愛結商店の一行は王宮の庭園で盛大な歓迎の宴に招かれていた。
「ふぉっふぉっふぉ。見事な宴ですな。アユ様、私の完璧な計略によれば、この宴の費用だけで我が商会の三ヶ月分の利益に匹敵するかと」
バルガスが、山のように積まれた砂漠の果実を頬張りながらご満悦だ。
「あんた、ただタダ飯食ってるだけじゃない。少しは働きなさいよ」
愛結は呆れ顔でバルガスを小突いた。
「アユ様ああああ! この肉、素晴らしい歯ごたえですぞおおお!!」
ゴードンが、巨大な魔獣の骨付き肉に齧りつきながら雄叫びを上げている。
「……ん。アユ様、このワインには毒が入っていない。つまらない」
シャーリーが、無表情のままワイングラスを傾け、小さく舌打ちをした。
「毒が入ってたら大問題でしょうが!」
相変わらずのメンバーたちの騒ぎを横目に、愛結は宴の主役であるジャスミン女王の元へと歩み寄った。
「素晴らしい宴をありがとうございますわ、陛下。ところで、早速ですが新しいビジネスのご提案が」
愛結が営業スマイルを浮かべると、ジャスミンは苦笑した。
「お前は本当に、一息つくということを知らないのだな。……いいだろう、聞こう」
「アルキミアの『火炎石』。これ、熱を発するだけの石だと思われていますが、実は我が商会の魔導具と組み合わせれば、『冷暖房完備の魔導馬車』が作れるんですの」
愛結は、懐から取り出した設計図をジャスミンの前に広げた。
「砂漠の過酷な移動を、快適な旅に変える画期的な商品。……アルキミアの貴族たちに、高値で売りつけようじゃありませんか」
「ほう……」
ジャスミンの目が、商人のように鋭く光った。
「悪くない。だが、その利益配分も七対三だと言うつもりか?」
「ええ。もちろん、我が商会が七ですわ」
「強欲な女だ。……だが、面白い。乗ろう」
ジャスミンが妖艶に微笑んだその時、不意に横から声が掛かった。
「ジャスミン陛下。エレノア嬢。私もそのお話に混ぜていただけませんか?」
涼やかな声と共に現れたのは、アルベルト王子だった。
王都の涼しい気候と宴の美味しい料理ですっかり体力を回復した彼は、持ち前の王子スマイルを全開にしている。
「アルベルト王子。……ふむ、美しい顔だ。だが、私の好みではないな」
ジャスミンが品定めするようにアルベルトを見ると、彼は苦笑した。
「それは残念です。ですが、私の顔は『他国との交渉』において、非常に役に立ちますよ。この魔導馬車、我が国だけでなく、周辺諸国にも売り込むルートを私がご用意しましょう」
「あら、アルベルト。あんた、たまには役に立つじゃない」
愛結が感心したように言うと、アルベルトはウインクを返した。
「伊達に愛結商店でアルバイトをしていませんからね。……それに、少しでも働いておかないと、またナイジェルに怒られますから」
その言葉に、愛結はハッとして周囲を見渡した。
そういえば、さっきからナイジェルの姿が見えない。
「……あいつ、どこ行ったのよ?」
愛結が首を傾げたその時、庭園の入り口から黄色い歓声が上がった。
「きゃあああ! 見て、あの黒髪メガネの方!」
「なんて美しいの……! 砂漠の月明かりみたい!」
歓声の中心には、アルキミアの貴族令嬢たちに囲まれ、困惑した表情で立ち尽くすナイジェルの姿があった。




