オアシスぼったくりビジネス開幕
アルキミアの街道沿いにある、中規模のオアシス。
砂漠を旅する商人や旅人たちにとって、ここは命を繋ぐ貴重な休息所である。
しかし今日、そのオアシスの一等地に、見慣れない巨大なテントが設営されていた。
入り口には、ゴードンが丸太のような腕を組んで仁王立ちしており、その横にはバルガスが胡散臭い笑顔で看板を掲げている。
『愛結商店・プレミアム・オアシス・ラウンジ』
『〜灼熱の砂漠に、極上の涼を〜』
「ふぉっふぉっふぉ。さあさあ、そこの旦那! 喉が渇いて倒れそうじゃありませんかな? 当店では、魔導具でキンキンに冷やした極上の『氷水』と、快適な日陰をご用意しておりますぞ!」
バルガスが、通りがかった商人の集団に声をかける。
「おっ、氷水だって!? そいつはありがたい。一杯いくらだ?」
干からびかけた商人が、藁にもすがる思いで財布を取り出す。
「はい! グラス一杯で、金貨百枚となっておりますぞ!」
バルガスが満面の笑みで答えた。
「はぁ!? き、金貨百枚!? ただの水だぞ!? ふざけるな、足元を見やがって!」
商人が激怒し、バルガスに詰め寄ろうとした。
しかし、その瞬間にゴードンが一歩前に出て、商人たちを見下ろした。
「アユ様が決めた適正価格に、何か文句がありますかなあああ!?」
ゴードンの無駄にでかい声と圧倒的な威圧感に、商人たちはヒッと息を呑んで後ずさる。
「嫌なら、その辺の生ぬるい泥水でも飲んでなさい! アユ様の慈悲に感謝しろおおお!」
テントの奥では、愛結が優雅に足を組み、冷たいフルーツ水を飲みながらその様子を眺めていた。
「ふふっ。砂漠のど真ん中で『冷たい水』と『日陰』。これ以上のキラーコンテンツはないわね。需要と供給のバランスを考えれば、金貨百枚でも安いくらいよ」
「先生……。それは商売というより、ただの山賊行為に近いのでは……」
隣で書類仕事をしているナイジェルが、呆れたようにため息をつく。
「人聞きの悪いこと言わないで。私はちゃんと『選択の自由』を与えているわ。買うか、買わないか。……まあ、買わなきゃ熱中症で死ぬだけだけど」
愛結は悪びれもせず笑う。
「しかし先生、さすがに高すぎます。商人たちも遠巻きに見ているだけで、誰も買おうとしませんよ」
ナイジェルの言う通り、商人たちは恨めしそうにテントを見ているが、金貨百枚という価格に手を出せずにいた。
「ふん。あんた、商売の基本がわかってないわね。こういう時は『サクラ』を使って、購買意欲を煽るのよ。……おい、そこのポンコツ!」
愛結は、テントの隅で暇そうにしているユリアン皇子を呼びつけた。
「私か? なんだエレノア、ついに私の美しさに……」
「いいから、表に出てあの氷水を一気飲みしなさい。それから『ああっ、砂漠のオアシスで飲む氷水は、まるで女神のキスのようだ!』って叫ぶのよ。わかった?」
「ふむ、演技だな! 任せておけ、私の表現力で群衆を魅了してやろう!」
ユリアンは意気揚々とテントの外へ飛び出し、バルガスから氷水を受け取った。
「見よ、この透き通るような氷水を! ああっ、砂漠のオアシスで飲むこれは、まるで女神のキスのようだ! 金貨百枚など、この至福の瞬間に比べれば安いものだ!」
ユリアンは無駄にキラキラしたオーラを放ちながら、氷水を一気に飲み干した。
そのあまりにも美味しそうな飲みっぷりと、彼の常軌を逸した美貌に、商人たちの喉がゴクリと鳴る。
「……くそっ! 一杯くれ!」
「こっちもだ! 金貨百枚、払ってやる!」
ユリアンのサクラ行為が見事に決まり、商人たちが次々と金貨を差し出し始めた。
「よし、釣れたわね。シャーリー、氷の補充よ。ナイジェル、売上の計算を急ぎなさい!」
「……ん。了解。氷が足りなくなったら、あいつらの血を凍らせる」
「やめなさい! 普通に魔力石を交換して!」
「……畏まりました、先生」
こうして、愛結商店の「オアシスぼったくりビジネス」は大成功を収め、砂漠のど真ん中で莫大な利益を叩き出すのだった。




