砂漠への出張命令
「いいこと? 今回の目的はヴァルハラ帝国の特産品を独占輸入するための、中継地点の確保よ。つまり、隣国アルキミアの交易権を根こそぎ奪い取るわ!」
愛結商店の社長室。巨大な王都の地図を指し示しながら、愛結は声高らかに宣言した。
その目の前には、長旅の荷造りを強制されたメンバーたちがずらりと並んでいる。
「……先生。アルキミアは国土の八割が砂漠です。なぜ、このような過酷な時期に自ら出向くのですか? 王都のハーブに任せれば……」
分厚い資料の束を抱えたナイジェルが、目の下にクマを作りながら胃薬を水で流し込んだ。
「バカね! あそこは今、新女王が即位して市場が混乱してるのよ。ハーブみたいな真っ当な商人(※愛結基準)じゃ、美味しいところを持っていかれるわ。私が行って、直接ふんだくってくるのよ!」
愛結は胸を張り、金の亡者らしい自信満々の笑みを浮かべた。
「あの、エレノア嬢……。なぜ僕まで同行を命じられているのでしょうか。僕は一応、この国の王子なのですが……」
アルベルトが、疲労困憊の顔で手を挙げた。彼は愛結商店の「顔面担当アルバイト」としてこき使われ続け、すっかり王族の威厳を失っている。
「あんたは『王族』っていう便利な通行証でしょ? 他国の王宮に入るには、あんたの顔と身分が一番手っ取り早いのよ。労働基準法なんてこの世界にはないんだから、黙って働きなさい」
「……はい」
アルベルトは完全に心が折れたように項垂れた。
「フハハハ! 素晴らしい! この私、ユリアンの美しさを世界に轟かせる時が来たのだな! 砂漠の太陽すらも、私のスポットライトに過ぎない!」
一方、ヴァルハラ帝国のポンコツ皇子ユリアンは、なぜか大量の薔薇の花びらを撒き散らしながら一人で盛り上がっていた。
「……アユ様。あの金髪のゴミ、砂漠に埋めてきてもいい?」
無表情のまま、愛結の背後で音もなくナイフを研いでいるのは、メイド服姿のシャーリーだ。元殺し屋の彼女は、息をするように物騒な提案をしてくる。
「ダメよシャーリー。こいつはヴァルハラ帝国と取引するための大事な『人質』兼『アイドル商品』なんだから。砂漠で倒れたら、こいつの汗を拭いたタオルを現地で売るわよ」
「……ん。わかった。じゃあ、死なない程度に痛めつける」
「ヒッ……!?」
シャーリーの冷たい瞳に、ユリアンが少しだけ怯えた。
「ふぉっふぉっふぉ。アユ様、大局を見極めるその眼力、さすがでございますな」
部屋の隅で、元商工会役員のバルガスが、お茶をすすりながら胡散臭い笑みを浮かべた。
「砂漠の国への進出……これはまさに、我々の覇道を決定づける完璧な計略! この老骨、持てる知略の全てを尽くして……」
「うるさいバルガス! お茶飲んでないで荷車の点検に行きなさい! あんたは口だけで現場の仕事を何もしないんだから!」
「ヒィッ! も、申し訳ありませぬアユ様! 老体に鞭打って、すぐに行ってまいりますぞ!」
愛結の一喝で、バルガスは腰を叩きながら逃げるように部屋を飛び出していった。
「ゴードン! 荷物の積み込みは終わった!?」
「アユ様あああああ!! すべて完了しておりますぞおおお!!」
屈強な護衛のゴードンが、無駄にでかい声で叫びながら敬礼した。
「このゴードン、アユ様のためならば砂漠の魔獣だろうが盗賊だろうが、素手で引き裂いてご覧に入れますぞおおお!」
「よし、完璧ね。それじゃあ、愛結商店・砂漠遠征部隊、出発よ! アルキミアの金を一滴残らず絞り取ってやるわ!」
こうして、愛結商店の精鋭(?)たちによる、灼熱の砂漠への過酷な出張が幕を開けた。
彼らが向かう先には、過酷な自然と、それを遥かに上回る愛結の「悪徳ビジネス」が待ち受けていた。




