微糖の夜と次の商売
「……っ! バ、バカなこと言ってないで、さっさと明日の準備しなさいよ! 減給するわよ!」
愛結は真っ赤になった顔を隠すように、クッションをナイジェルに投げつけた。
ナイジェルはそれを軽々と受け止め、いつもの「疲れた執事」の顔に戻って微笑んだ。
「ふふっ。畏まりました、先生。では、私は明日のグッズ販売の在庫確認に戻ります」
ナイジェルが立ち上がり、社長室を出て行く。
ドアが閉まる音が響いた後、愛結は一人、ソファの上で顔を覆った。
(なんなのよ、あいつ……。心臓に悪いわ……)
悪徳社長としての冷徹な仮面が、少しだけ剥がれ落ちる。
ポンコツ皇子のお見合いから始まったこの騒動は、愛結商店に莫大な利益をもたらしたと同時に、愛結とナイジェルの関係に、ほんの少しだけ「甘い変化」をもたらしていた。
「……ま、悪くないわね」
愛結は冷めたコーヒーを飲み干し、窓の外に広がる王都の夜景を見下ろした。
彼女の頭の中には、すでに次のビジネスプランが浮かんでいる。
「ユリアン皇子のアイドルビジネスは、まだまだ絞り取れるわ。次は他国への出張公演ね。……あ、そうだわ。せっかくなら、あのポンコツをダシにして、ヴァルハラ帝国の特産品を独占輸入するルートも作れないかしら?」
愛結の瞳が、再び金貨の形に輝き始める。
微糖の余韻はあっという間に消え去り、そこにはいつも通りの、強欲で傲慢な悪徳社長の姿があった。
「ナイジェル! ちょっと戻りなさい! 新しい事業計画を思いついたわ! 今夜は徹夜よ!」
愛結の容赦ない怒号が、深夜の愛結商店に響き渡る。
「……先生。先ほど休むとお約束したはずですが」
ドアの向こうから、ナイジェルの深い深い絶望のため息が聞こえてきた。
二人の奇妙な関係は、これからも変わることなく、そして少しずつ変化しながら続いていくのだろう。
愛結商店の野望は、まだ終わらない。
王都を制し、他国の皇子をアイドルにし、国家を脅迫する悪徳社長の次なる標的は、果たしてどこになるのか。
「さあ、明日も稼ぐわよ! 世界中の金は、全て私のものなんだから!」
夜空に向かって高らかに笑う愛結の声と共に、ポンコツ皇子のマネタイズ騒動は、賑やかに幕を閉じた。
(第六章 完)




