ポンコツの覚悟と悪徳社長の逆襲
「私がここに残ると言っているのだ! 私の美しさを求める乙女たちがいる限り、私はこの王都のステージに立ち続ける!」
応接室に響き渡るユリアン皇子の宣言。
歴戦の武将であるヴァルハラ帝国の特使は、あまりの斜め上の展開に完全に硬直していた。
「で、殿下……正気で仰っているのですか? 一国の皇子が、他国の商会で見世物になるなど……帝国の面子が丸潰れですぞ!」
「面子だと? そんなもののために、私の輝きを氷の国に閉じ込めておくつもりか! 私はここで、真の『愛の伝道師』としての使命を見つけたのだ!」
ユリアンは胸を張り、キラキラとしたオーラを放ちながら熱弁を振るう。
特使は頭を抱え、愛結はソファで優雅に脚を組み直した。
「聞いたでしょ、特使さん。皇子殿下はご自身の意志で『愛結商店』に所属しているのよ。それを無理やり連れ帰るなんて、誘拐と同じじゃないかしら」
「黙れ、悪徳商人! 貴様が殿下をたぶらかしたに決まっている!」
特使は再び激昂し、ナイジェルに向かって剣を構え直した。
「殿下が正気を失っておられるなら、力ずくでも連れ帰るまで! 邪魔をするなら、貴様らごと斬り捨てる!」
「……やれやれ。野蛮な国の方は、話が通じなくて困りますね」
ナイジェルが魔導短剣を構え、再び戦闘態勢に入ろうとしたその時。
愛結がパンッと手を叩いた。
「ストップよ、ナイジェル。これ以上、応接室の備品を壊されたら経費の無駄だわ」
「先生?」
「特使さん。力ずくで連れ帰るっていうなら、別に止めないわよ。……ただし、これにサインしてからね」
愛結は懐から分厚い羊皮紙の束を取り出し、テーブルの上にドンッと叩きつけた。
それは、ユリアン皇子を『トップアイドル』としてプロデュースする際に、彼にサインさせた契約書だった。
「な、何だそれは」
「ユリアン殿下の専属マネジメント契約書よ。殿下が自己都合で契約を破棄し、店を辞める場合……違約金が発生するの」
愛結は悪魔のような笑みを浮かべ、契約書の該当箇所を指差した。
「違約金、金貨百億枚。……払えるのかしら? ヴァルハラ帝国に」




