表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と虎の首縊りの迷宮の悪役令嬢  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/77

交渉決裂と武力行使

「詭弁を弄するな、小娘!」


 特使の怒号が応接室に響き渡った。

 彼は腰に提げた長剣の柄に手をかけ、愛結を威圧するように一歩前に出た。


「我がヴァルハラ帝国の第一皇子を、見世物小屋の道化に仕立て上げるとは、万死に値する侮辱! 今すぐ皇子を引き渡し、貴様も帝国へ連行する!」


「お断りよ」


 愛結は紅茶のカップをソーサーに置き、冷酷な笑みを浮かべた。


「ユリアン皇子は今、うちの専属タレントよ。彼自身もこの仕事を楽しんでいるわ。無理やり連れ帰ろうとするなら、それは立派な『営業妨害』よ」


「営業妨害だと? ふざけるな!」


 特使はついに剣を抜き放ち、その鋭い切っ先を愛結の喉元に突きつけた。


「貴様のような悪徳商人の言葉など聞く耳持たん! 力で従わせるまでだ!」


 剣先が愛結の肌に触れる寸前。

 愛結の背後に控えていたナイジェルが、目にも留まらぬ速さで動いた。


 ガキンッ!


 鈍い金属音が応接室に響く。

 ナイジェルは、懐から取り出した特殊な魔導短剣で、特使の凶刃を完璧に受け止めていた。


「……交渉の席で刃物を抜くとは。ヴァルハラ帝国の使者は、随分と野蛮な作法をお持ちのようですね」


 ナイジェルの声は氷のように冷たく、その瞳には明確な殺意が宿っていた。


「なっ……!? 貴様、ただの執事ではないな!」


「ええ。私は先生の専属執事であり……彼女に仇なす者を排除する『盾』でもあります」


 ナイジェルは短剣に魔力を込め、特使の剣を弾き飛ばした。

 その圧倒的な膂力と技術に、歴戦の武将である特使も思わず後ずさる。


「……ナイジェル」


「ご安心を、先生。あなたの髪一本、傷つけさせはしません」


 ナイジェルは愛結を背中で庇うように立ち塞がり、特使と対峙した。

 その頼もしい背中を見つめながら、愛結はまたしても胸の奥がトクンと鳴るのを感じていた。


(ちょっと……なんでこんな時にカッコつけてるのよ、このバカ執事……)


 普段は文句ばかり言っている社畜が、いざという時には命懸けで自分を守ってくれる。

 その事実が、愛結の心を激しく揺さぶる。


「……いい度胸だ。ならば、我が帝国の武力をもって、貴様らごとこの商会を叩き潰してくれる!」


 特使が怒りに任せて叫んだその時、応接室の扉がバンッと勢いよく開け放たれた。


「待つのだ、特使!!」


 そこに立っていたのは、純白の衣装に身を包み、薔薇の花びらを撒き散らしながら現れたユリアン皇子だった。


「ユリアン殿下! ご無事でしたか! 今すぐお助けいたします!」


「助ける必要などない! 私は、自らの意志でここにいるのだ!」


 ユリアンは特使の前に立ち塞がり、ビシッと指を突きつけた。


「私は今、王都の乙女たちに愛と夢を届ける『トップアイドル』としての使命に燃えている! 本国へ帰るつもりなど毛頭ない!」


「なっ……!? 殿下、何を血迷っておられるのですか! そのような恥知らずな真似は――」


「恥知らずだと? 愛を届けることの何が恥だ! 私はここに残る! エレノアと共に、この世界を愛で満たすのだ!」


 ユリアンの斜め上の宣言に、特使は絶句し、愛結はニヤリと悪魔の笑みを浮かべた。

 交渉の主導権は、完全に愛結商店の手に落ちたのである。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ