悪徳社長の閃き(ポンコツのマネタイズ)
翌日、王都の中央広場。
決闘という名目で集まったはずが、なぜか広場には特設ステージが組まれ、周囲には王都中の貴族令嬢や若い女性たちが黒山の人だかりを作っていた。
「……ナイジェル。これは一体、どういう状況かしら」
「先生が『どうせなら見物料を取って小銭を稼ぐわよ』と仰って、ハーブに一晩でステージを組ませた結果ですが」
「あ、そうだったわ。でも、予想以上に集まってるわね」
愛結は、特等席のテントから優雅に紅茶を飲みながら、ステージを見下ろした。
ステージ上には、純白の軍服を着たユリアン皇子と、なぜか巻き込まれたアルベルト王子(現在は愛結商店の優秀なアルバイト)が立っている。
「おお、麗しき王都の乙女たちよ! 今日は私と、この王国の王子との、美の競演を楽しんでくれたまえ!」
ユリアンが薔薇の花びらを撒き散らしながらポーズを決めると、広場から「キャアアアア!」という鼓膜が破れそうな黄色い歓声が上がった。
一方のアルベルト王子は、心底嫌そうな顔でため息をついている。
「なぜ私がこんな茶番に……。エレノア嬢、時給は弾んでくれるのだろうな」
「もちろんよ、アルベルト。特別手当として金貨十枚つけるから、しっかり顔面を売りなさい」
愛結が拡声魔導具で指示を飛ばすと、アルベルトは渋々ながらも、王族仕込みの完璧なスマイルを観客に向けた。
再び広場が揺れるような歓声に包まれる。
「……先生。これで決闘になるのですか?」
「なるわけないじゃない。ただの『イケメン見世物興行』よ。でも、見てみなさい」
愛結は、熱狂する女性客たちを指差した。
「あのポンコツ皇子、頭は空っぽだけど、顔と愛嬌だけは一級品よ。アルベルトみたいな『正統派の王子様』とは違う、どこか放っておけない『愛すべきバカ』の需要を完璧に満たしているわ」
「……確かに、女性客の財布の紐が異常に緩んでいますね。先ほどから、皇子殿下の投げた薔薇に金貨が飛び交っています」
「そうよ! これこそが究極のビジネスチャンス!」
愛結の瞳が、金貨の形に輝いた。
「決めたわ。あのお見合いは白紙よ。代わりに、あのポンコツ皇子を『トップアイドル』としてプロデュースして、王都中の金持ち令嬢から金を巻き上げるわ!」
「……先生。相手は他国の皇子ですよ? 国際問題になりませんか」
「大丈夫よ。あいつ、自分が騙されてるって絶対に気づかないタイプだから。むしろ『皆が私の美しさにひれ伏している!』って喜ぶわよ」
愛結は悪魔のような笑みを浮かべ、ナイジェルに指示を出した。
「ナイジェル、すぐにハーブを呼んでちょうだい。『愛結商店・芸能プロダクション部門』を立ち上げるわ。まずは皇子のグッズ販売からよ!」
「……畏まりました、先生。また私の仕事が増えるのですね」
ナイジェルは深くため息をつきながら、胃薬を水で流し込んだ。
こうして、ユリアン皇子のお見合いは、愛結の悪徳ビジネスセンサーによって「アイドルプロデュース計画」へと見事にすり替えられたのである。




