悪役令嬢の断罪(株主総会)前編
「け、権利書……? 借用書……?」
カトリーヌは震える手で、足元に落ちた書類の一枚を拾い上げた。
そこには、彼女の実家である侯爵家が経営する大商会の名前と、見覚えのある『愛結商店』のロゴ、そして……『全株式譲渡契約書』という恐ろしい文字が並んでいた。
「嘘……お父様が、商会を愛結商店に売却した……!?」
「売却じゃないわ。ハーブ(総店長)が、あんたの家の商会の負債を全部肩代わりする条件で、強引に飲み込んだのよ」
愛結は水着姿のまま腕を組み、冷酷な笑みを浮かべた。
「カトリーヌだけじゃないわ。そこにいる取り巻きのあんたたち。あんたの家の領地は今、愛結商店の融資がないと回らない状態よ。そっちのあんたの家は、主力商品の独占販売権をうちが握ってるわ」
愛結が一人一人を指差すたびに、男子生徒たちは書類を確認し、次々と膝から崩れ落ちていった。
「ば、馬鹿な……! 我が家の領地が、愛結商店の担保に入っているだと!?」
「うちの商会もだ……! これでは、実質的に愛結商店の奴隷ではないか……!」
彼らが「学園の秩序」を守るために正義感を燃やしている間、愛結は王都のハーバートに指示を出し、彼らの実家(経済の基盤)を根こそぎ奪い取っていたのだ。
「私を追放する? いいわよ、やってみなさいよ」
愛結は、絶望に染まるカトリーヌたちに向かって、ゆっくりと宣告した。
「でも、もし私をこの学園から追放したら……愛結商店は、あんたたちの実家への融資を全て引き揚げるわ。明日には、あんたたちの家は破産して、路頭に迷うことになるけど、それでもいいのね?」
それは、ただの脅迫ではない。
国家の経済を牛耳る「大企業の社長」による、絶対的な暴力だった。
「……っ! ひ、卑怯ですわ! こんなやり方、貴族の誇りにかけて認められません!」
「誇りで腹が膨れるの? 誇りで領民が食っていけるの? あんたたち、親の金でぬくぬく生きてるくせに、現実の厳しさを何もわかってないのね」
愛結の冷たい正論が、カトリーヌの心を容赦なく抉る。
大講堂に集まった大人たち(理事や王族)も、愛結商店の恐るべき経済支配力を前に、誰一人として口を挟むことができなかった。
「さあ、選ばせてあげるわ。私を追放して、実家ごと破滅するか。それとも……」
愛結は、ティアラを輝かせながら、カトリーヌに向かって手を差し伸べた。
「私に平伏して、愛結商店の『優秀な社畜』として生きるか」
断罪イベントは、完全に「愛結商店の株主総会(社長による吊るし上げ)」へと変貌を遂げていた。




