原作の強制力? 貴族派閥の反発
「……許せない。あの悪徳令嬢、神聖なる学園をただの市場と勘違いしているわ!」
学園の旧校舎にある談話室。
そこには、眉間にシワを寄せた数人の高位貴族の生徒たちが集まっていた。
中心に座っているのは、金髪の縦ロールが特徴的な公爵令嬢、カトリーヌである。彼女は本来の原作において、エレノア(愛結)を断罪するイベントの首謀者となるキャラクターだった。
「学食を乗っ取り、テストの過去問を売り捌き、あろうことか教師を買収して単位まで金で取引している……! これは王立学園の歴史に対する冒涜ですわ!」
「その通りだ、カトリーヌ嬢。我が伯爵家の誇りにかけても、あのエレノアの横暴をこれ以上見過ごすわけにはいかない」
取り巻きの男子生徒たちも、怒りに震えながら同意する。
彼らは「親の金で生きてる世間知らず」と愛結に見下されていた層だが、貴族としてのプライドだけは人一倍高かった。
「しかし、どうやって彼女を止める? 彼女の実家はクライス公爵家だ。正面から抗議しても、握り潰されるのがオチだぞ」
「ええ、わかっていますわ。だからこそ、公の場で彼女の悪行を全て暴露し、逃げ場をなくすのです」
カトリーヌは扇子を広げ、口元を隠しながら冷たく笑った。
「来月行われる『卒業パーティー』。王族や学園の理事、さらには各国の要人も集まるあの場で、彼女の不正の証拠を突きつけます。そうすれば、いくら公爵家でも彼女を庇いきれず、学園から追放されるはずですわ!」
「おお、それは素晴らしい名案だ!」
「我々の手で、学園に秩序を取り戻すのだ!」
談話室は、正義感に燃える貴族生徒たちの熱気で包まれた。
彼らは「悪役令嬢エレノアの断罪」という、原作通りのシナリオに向けて動き出したのだ。
一方その頃。
愛結は、学園の屋上で優雅にティータイムを楽しんでいた。
「……社長。最近、カトリーヌ嬢を中心とした一部の生徒たちが、貴女の不正の証拠を集めているようです。卒業パーティーで何か仕掛けてくる気かと」
ナイジェルが、淹れたての紅茶をテーブルに置きながら報告する。
彼は教師としての立場を利用し、学園内の情報収集も完璧にこなしていた。
「あら、そうなの? ご苦労なことね」
愛結は紅茶を一口飲み、つまらなそうにため息をついた。
「原作の強制力ってやつかしらね。でも、あいつら根本的に勘違いしてるのよ」
「勘違い、ですか?」
「ええ。私が『不正』をしてると思ってるんでしょ? バカね、私はただ『経済活動』をしてるだけよ。そして、経済を制した者がルールを作るの」
愛結はティーカップを置き、ニヤリと笑った。
「ナイジェル。王都のハーブに連絡して。『例の件、予定通り進めておいて』ってね」
「……承知いたしました。カトリーヌ嬢たちには、少し同情しますよ」
ナイジェルは憐れむような目で旧校舎の方角を一瞥し、深く一礼した。
悪徳令嬢の反撃(という名の圧倒的暴力)の準備は、すでに水面下で完了していたのである。




