再会、優秀なアルバイトたち
「プレミアム・ランチ、あと五人前追加よ! ナイジェル、手が遅いわよ!」
「無茶を言わないでください! 私は一人しかいないんですよ!」
愛結商店が乗っ取った学食は大繁盛していた。
貴族生徒たちの見栄とプライドを煽る商法は見事に的中し、金貨は飛ぶように集まっている。しかし、客の数に対して従業員(主に調理担当のナイジェル)が圧倒的に足りていなかった。
「チッ、誰か手伝ってくれる奴はいないの? 時給は銀貨一枚出してあげるのに!」
「……あの、店長。お久しぶりです」
不意に、レジに並ぶ生徒の列から控えめな声が上がった。
見ると、そこには学園の制服に身を包んだ、清らかな雰囲気の少女が立っていた。原作のヒロインであり、愛結商店の優秀なアルバイト、聖女マリアである。
「あら、マリアじゃない! あんたもこの学園の生徒だったわね!」
「はい。特待生として入学しました。……あの、人手が足りないなら、私がお手伝いしましょうか? 接客と配膳なら慣れていますから」
「助かるわ! 時給は銀貨一枚よ、すぐエプロン着て!」
マリアは手慣れた様子でエプロンを身につけ、「いらっしゃいませ! 本日のプレミアム・ランチはいかがですか?」と天使のような笑顔で接客を始めた。
聖女のスマイル効果は絶大で、男子生徒たちは次々と追加注文を入れていく。
「おいおい、マリアにだけ働かせる気か? 俺も手伝おう」
さらに列の後ろから、金髪碧眼のイケメンが爽やかな笑顔で進み出てきた。
第一王子、アルベルトである。彼もまた、愛結商店で海水を売り捌いた歴戦のアルバイトだ。
「アルベルト! あんたもいたのね! じゃああんたはドリンクの販売担当よ! 『王子の特製スマイル・ウォーター』として金貨三枚で売りなさい!」
「任せておけ。女の扱いなら、海辺の民宿で嫌というほど学んだからな」
王子は躊躇いもなくエプロンをつけ、女子生徒たちにウィンクをしながら水を売り始めた。
「きゃあああっ! アルベルト殿下が、私に水を注いでくださったわ!」
「マリア様の手渡しランチ……尊い……!」
本来の原作であれば、ここで「身分違いの恋」や「悪役令嬢の嫉妬」によるドロドロの恋愛バトルが勃発するはずである。
しかし、今の彼らは完全に「愛結商店の優秀な従業員」として調教されていた。恋愛感情など入り込む隙もないほど、彼らの頭の中は「いかに効率よく売上を伸ばすか」で満たされている。
「ふふふ……いいわね。やっぱり、即戦力は最高よ」
愛結は、完璧な連携で学食を回すマリアとアルベルトを見ながら、満足げに頷いた。
学園という名の「巨大な未開拓市場」。愛結の侵略は、まだ始まったばかりだった。




