職員室のドアは蹴破られる
「エ、エレノアお嬢様!? ここは職員室ですよ! ドアを破壊するなど、言語道断です!」
ナイジェルが慌てて立ち上がり、手にしたコーヒーカップを震わせながら叫んだ。
周囲の教師たちも、突然の襲撃に悲鳴を上げて机の下に隠れている。
「ドアの修理代くらい、愛結商店の経費で落とすからいいわよ! それより大問題よ、ナイジェル!」
「大問題? まさか、他の生徒と乱闘騒ぎでも起こしたのですか!?」
「違うわよ! 『学食』よ! この学園の学食、信じられないくらいマズいのよ!!」
愛結は、手に持っていた「本日の日替わりランチ(パサパサのパンと謎のスープ)」を、ナイジェルのデスクにバンッと叩きつけた。
「いい? 王国のエリート貴族たちが集まる学園で、こんな貧民街みたいなメシを出してるのよ!? しかも値段は金貨一枚! ぼったくりにも程があるわ!」
「……先生。貴女が今までやってきた『ただの海水を金貨二枚で売る』などの商売に比べれば、まだ良心的な価格設定だと思いますが」
「私のぼったくりは『付加価値』があるからいいの! でもこれはただの怠慢よ! 学園の厨房を仕切ってる業者が、予算を中抜きしてるに決まってるわ!」
愛結は憤慨し、ナイジェルの胸ぐらを掴んで揺さぶった。
「というわけで、決めたわ! 今日からこの学園の学食は『愛結商店』が乗っ取るわよ! ナイジェル、あんたは今すぐ厨房に行って、現在の業者を物理的に追い出してきなさい!」
「……は? 私が、ですか?」
「当たり前でしょ! あんたは私の『優秀な執事』なんだから! あ、ついでに学園長も買収しておくから、契約書の作成もよろしくね!」
愛結はそれだけ言うと、嵐のように職員室から去っていった。
あとに残されたのは、粉々に砕け散ったドアと、冷めきったコーヒー、そして完全に絶望した顔のナイジェルだけだった。
「……私の、平和な教師生活が……」
ナイジェルは崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。
同僚の教師たちが、同情の涙を流しながら彼の肩を叩く。
「元気を出してください、ナイジェル先生……」
「我々も、あの学食はマズいと思っていました。貴方の犠牲は、無駄にはしません……」
教師たちからの謎の連帯感を感じながら、ナイジェルは重い腰を上げた。
悪徳社長の命令は絶対である。彼はチョークを置き、エプロンと包丁(という名の武器)を手に、学園の厨房へと向かうのだった。




