雪山行き中止、そして強制登校
「さあ、次は雪山よ! 遭難者をぼったくり価格で救助する『極寒のサバイバル山荘』を作るわよ!」
海辺の村を後にして、意気揚々と雪山へ向かおうとしていた愛結の馬車。
しかし、その行く手は、完全武装した数十人の近衛騎士と、見覚えのある二人の男たちによって完全に包囲されていた。
「……何よこれ。私のビジネスの邪魔をする気?」
愛結が馬車の窓から不機嫌そうに顔を出すと、実家であるクライス公爵家の筆頭監査官・セバスチャンと、愛結商店の総店長・ハーバートが恭しく頭を下げた。
「お嬢様。これ以上の勝手な振る舞いは、公爵家として看過できません」
「社長。私もセバスチャン殿に同意します。これ以上遊んで(荒稼ぎして)いられると、王都の事務処理がパンクします」
二人の堅物から同時に小言を言われ、愛結はチッと舌打ちをした。
「遊んでるわけじゃないわ! 私は常に新しい市場を開拓してるのよ! で、私をどこへ連れて行く気?」
「決まっております。来週から始まる『王立学園』の新学期に出席していただきます」
セバスチャンの言葉に、愛結はポカンと口を開けた。
「……は? 王立学園? 何それ」
「何それではありません! お嬢様はまだ十五歳、れっきとした学生の年齢です! これまで休学扱いにしておりましたが、いい加減に卒業していただかないと、貴族としての特権(商売に有利な免税権利など)を失うことになりますよ!」
「あっ」
愛結は、ここで初めて「自分が学生の年齢であること」を思い出した。
前世の記憶(アラサーの女性作家)と、転生してからの怒涛のビジネス展開のせいで、すっかり自分が「十代の公爵令嬢」であることを忘れていたのだ。
「……そういえば、私が書いた原作でも、王立学園がメインの舞台だったわね」
「何か仰いましたか?」
「なんでもないわ。……でも、学園なんて面倒くさいわね。どうせ親の金で生きてる世間知らずのガキどもが、派閥争いとか色恋沙汰でキャットファイトしてるだけでしょ?」
愛結はため息をついたが、ハーバートの「特権を失えば、税率が三十パーセント跳ね上がります」という言葉に、一瞬で顔色を変えた。
「行くわ。学園だろうが魔王城だろうが行ってやるわよ! 私の利益を減らすなんて絶対に許さない!」
「ご英断です。……それと、ナイジェル殿」
セバスチャンが、愛結の隣で死んだ魚のような目をしているナイジェルに視線を向けた。
「お嬢様が学園で問題を起こさないよう、貴方にも同行していただきます。手配はすでに済ませてありますので」
「……私に、学生服を着ろと?」
「いえ。貴方には『新任の特別教師』として、教壇に立っていただきます」
ナイジェルは眼鏡を押し上げ、深く、深くため息をついた。
こうして、愛結たちの「雪山行き」は強制キャンセルされ、一行は王国のエリートが集う「王立学園」へと進路を変更することになったのである。




